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ラプトル(猛禽)の爪   作者: 祥々奈々
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1対5

 ゾクッ 背中に強烈な悪寒おかんを感じて振り返る

 峡谷の奥から飛来してくる黒い飛翔体ひしょうたい、新たなディアボロス、その数 5鳥。

 旋回していたローズの1式戦のエンジンが一気にえる、ローズも同時に気づいていた。

 一鳥でさえ手こずるディアボロスが5鳥、勝てるとは思えない。

 「だめよっ、ローズ姉、逃げて!」

 コクピットまで水没すいぼつし無線は死んだ、雑音さえ聞こえない。

 

 ローズの1式戦がリオの上空、顔が確認できる高度で機体を斜めにしてくる、コクピットにローズの姿がある。

 リオを見つめて右手を額に伸ばし敬礼、優しい笑顔に見えた。

 すでに覚悟を決めているようだ。


 リオは必至に両手を振り「逃げて」と大声で叫んだが、ローズは速度を上げて敵に向けて突き進んでいく。

 ドルルルッ、最初の銃撃音が聞こえた時、リオの愛機は完全に水中に没した、仕方なくリオは岸に向かい泳ぎ始める。

 その間にもはげしい排気音と銃撃音、ディアボロスのけたたましいき声が響いている。

 冷たい水の中で必死に手足を動かした、飛行服が水を吸いひどく重い、手を水の上に上げて水をくことはかなわない、横泳ぎで後ろ確認しながら進む。

 いつ後ろから襲われるのか分からない恐怖と戦いながら、できるだけ波紋はもんを立てないよう静かに泳ぎ岸に辿りつく、50メートルが1キロメートルにも感じる。

 岸にい上がるのに上体が持ち上がらず無様ふざま藻掻もがく。

 「くっ!」

 この時になってパラシュートを装着したままのことに気づく。

 自分の間抜まぬけさ加減に怒りがこみあげる、一度水の中に戻りパラシュートを外そうとするがこごえた指がいうことをきかず苦戦する。

 なんとか脱ぎ捨て、岸に上がる、軽くなった身体は楽に持ち上がった。


 ギイャアア

 ディアボロスの断末魔だんまつまこごえて歯を鳴らしながらその方向を見るとリオ機と空中戦となっていた黒い影は3鳥となっていた。

 「ローズ姉!」

 ローズは5鳥を相手にして、初撃しょげきで1鳥、上昇ロールしてからの一撃離脱で2鳥目を撃破していた。

 その後の3鳥は分散し交互の連携れんけいを取り始めた、横方向だけでなく高度にも3通りの差をつけて的を絞らせない。

 地上で見上げるリオはその光景に驚く、ケツァルの自己犠牲的な行動も驚いたが戦術のような動き、互い同士の意思疎通いしそつうが出来ているのではないか。

 「 空戦を知っている?」

 ハイ・ヨー・ヨーで上昇し逃げる1鳥の内側上方より降下しながら射線しゃせんが交差する前に銃撃、デイアボロスが旋回する先に銃弾の川が出来ている、吸い込まれるように着弾。

 3鳥目を撃墜げきつい

 「すごい ! ローズ姉」

 ドッグファイトIQの高さによるローズの空戦は見事だった。


 リオはローズの戦技せんぎに思わず走り出していた、少し進んだ先にピーコックグリーンの羽根が横たわっていた、あのチビケツァルだった。

 空中からでは分からなかったが相当な負傷をしているようだ、手足は捻じれ、頭部裂傷とうぶれっしょうの血は乾いていない。


 「死んで・・・いる ? 」

 役には立たないだろうが腰のホルスターから22口径の自動拳銃を抜きスライドを引いておく、安全装置はかけたままケツァルに近づく。

 リオに気が付いてケツァルが一瞬だけ首を上げるが、すぐに力尽きた。

 どうやら動けないようだ。

 だからといってリオにはどうすることも出来ない、安全であろう距離と遮蔽物しゃへいぶつとなる鉄骨の残骸ざんがいに身を寄せて再び空に星形14気筒唸る真上を見上げた。


 正対した両者だったが、相変わらず優位となる高所をとっているのはローズだった、

しかし下方から上昇してくる黒い弾丸も縦列に飛行し羽搏はばたきのタイミングも合わせている、何かの考えがあり意図して行っているに違いない。

 リオの鳩尾みぞおちに冷たい悪寒おかんが走る。

 「だめっ、ローズ姉!けて!」

 リオの声は上空には届かない。

 ドドドッ、ローズの放った弾丸が先頭の1鳥に命中、その直後背後から飛び出した最後の1鳥がローズ機に向けて石榑いしくれ爆弾を放った。

 先頭を必死のおとりにして本丸を狙う戦術、人間以外に可能なことなのか?


 ガガシャ

 リオの時同様にプロペラとキャノピーがくだける音がはっきり聞こえた。

 「 ああっ、そんなっ」

 リオは思わず両手で口を押えた。

 ローズ機は発動機はつどうきにも異常をきたしたのか黒煙こくえんとノッキング音を発しながら水面に向かって落下していく。

 勝利を確信したのか最後のディアボロスはローズ機を追うことはしなかった。

 周囲を見回している、その首がこちらを向いて止まる。

 視線はリオとチビケツァルを捉えている。

 「来る!」

 リオは拳銃を構えて後退さる。

 勝者はゆっくりと羽搏はばたき、その黒い巨体を驕傲しながら二人の前にドスンッと1人と1鳥のたつ地面をるがすように降り立つ。

 翼をたたみ、腕の先についた鍵爪かぎつめを地につけ胴体は四足動物のように、首は蛇のように地をくねらせ、下からねめつけるように対峙たいじする。

 その首はケツァルより長く、くちばしは金属のように鈍く光る、漆黒しっこくの体躯を埋める羽根

は油を塗布とふしたように重々しいよろいのようだ、狂暴な外見の頭中央には狂気を感じる赤錆の双眸そうぼうが無機質な光を放っている。

 すっと鎌首かまくびが上がると、喉元がコブラのごとくらむ

 ギィッヤァァ―――

 爆音の咆哮ほうこう、死の宣告。

 「ヒイッ」

 リオはあまりの音量と恐怖に腰が落ちそうになるのを必死で耐え、銃口をかろうじて上げて乱射する、音圧が吹き荒れ、的となるディアボロスを正対して視ることもかなわない。

 トリガーをガク引きして弾倉が尽きるまで乱射するが、22口径の拳銃弾ではコールタールの羽根さえ貫けない。

 咆哮が消えた中に撃鉄をたたく乾いた音だけが空しく残る。

 自分の足元に散らばった薬莢やつきょうを見て我に返った、銃口から薄く硝煙香しょうえんこうがただようが

、それを吹き消すディアボロスの獣匂じゅうしゅう、生ぬるく生臭い息がリオの嗅覚きゅうかくを打ち付ける。

「ヴッ……」

 吐きそうになるのを堪えてせき込む、呼吸がかなわず片膝かたひざを着いてしまう。

 サーベルを振り上げる,その影は首無しの騎士のようだ。

 キッキッキッ、サーベルのこすれる音が悪魔のわらい声のようだ。

 「無念……」

 諦めてまぶたを閉じる。

 ローズ姉は無事だろうか、墜落ついらくの音や煙はなかった。

きっとローズ姉なら不時着させているだろう、無事でいてほしい。

 リリィ姉、ローズ姉 ごめんね、バカな妹でごめん。

私が死んだら泣いてくれるかな。


読了ありがとうございました

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