生きてる?
「……な!」
な、に……?
「死ぬなぁー! フローレンっ!」
誰?
あれ、私、いつの間にか眠っていた? 違う、気を失っていたんだ。
「死なないでくれ、お願いだフローレン。俺は、まだ何も伝えてない。俺は、フローレン……」
ん?
温かい?
唇に体温が戻る。
って、唇?
これ、まさかのもしや、キス、キスされてる?
驚きと戸惑いに体が熱くなる。そんなエネルギーはまだ残っていたのか!
ああ、もしかして、白雪姫も眠り姫も王子にキスされて目が覚めたのは火事場の馬鹿エネルギー爆発。恥ずかしさのあまり目が覚めたのかもしれないっ。
ぱちりと目が開くと、私にキスしてたのはまさに王子。
「で……んか……」
なんでキスしてんの? 白雪姫や眠り姫なんて日本の話だよ?
というか、世の中の王子には「眠っている姫にはキスしなさい」ってルールでもあるわけ? まぁ、姫ではないけど、私は。
「フローレン、生きて……生きてたのかっ」
目の前には、大きく目を見開いた殿下の顔。
雨でぬれて顔に張り付いた髪に、泥で汚れた顔。なんだかやつれてくぼんだ目元に真っ黒になった目のクマ。
ひどい顔。
とてもお姫様は王子様のキスで目覚めましたなんて物語に出てくる容姿じゃないね。
「よかった。よかった……。生きてた……」
きっと、私はもっと汚い恰好をしているのだろう。
それなのに、まるで物語のヒロインを抱きしめるかのように、私を両腕に包み込んでくれる。
温かい……。
「殿下……」
ぐっと、こらえていたものがあふれ出てきた。
「怖かった……」
一人で暗い夜を過ごすのは怖かった。
このまま、一人で死んでいくのかと思ったら怖かった。
怖かった、怖かったよ……。
「うん、もう大丈夫だ。よかった、よかったフローレン! 帰ろう!」
殿下は厚手のマントで私をくるむと、お姫様抱っこで馬まで運んでくれた。馬に私を乗せてから、殿下も馬にまたがる。
殿下は前に乗っている私の体を片手でしっかり抱きしめ、もう片方の手で手綱を操る。
「フローレン、すぐに帰れるから。も少しの我慢だ。フローレン」
何度も殿下が私の名前を呼ぶ。
「フローレン、どこか痛くないか? 眠いなら寝ていてもいいよ、フローレン」
まるで、私が生きているのを確認するかのように、何度も。何度も。
「殿下……」
まるで、愛しい人の名を呼ぶように……。
密着した殿下の胸からトクントクンと心臓の音が聞こえてきた。
「見つけてくださって……ありがとうございま……す」
たとえ、この先殿下がヒロインを好きになって、私を邪険に扱うようになったとしても。
今、この時だけは、殿下は私を心配して探して助けに来てくれたこと。
忘れません……。
自分でも理由のわからない涙が頬を伝う。




