そばに……
私、生きて戻れるのかな。
誰か、見つけてくれるのかな。
今、何時だろう。暗くなる前に風雨をしのげる場所を探さなくちゃ。
のろのろと立ち上がる。
馬車に戻ったほうがいいのかな……どうしようか。
なんとか大きな木のうろを見つけてそこに小さくなて眠った。
もう、とっくにカンテラに使うろうそくは使い切ってしまっている。
月明かり……今日は暗いな……。
怖い。ううん、大丈夫。今までだって危険や獣は出なかったんだもん。
だけど。
一人は……怖い……。
次の日。不自然な格好で寝ていたため体がギシギシする。
立ち上がって、軽く体を動かしてから歩き始める。
「おかしいな……無人島生活どころか、これ、遭難じゃないかな……」
どっちに向かえばいいのか分からない。
いつ、どこから間違ってしまったのかな……。足が痛い。足場の悪い道を長距離歩いたからだろうか。何度か挫いたし、足の裏がジンジンする。脹脛も筋肉痛になっている。
ああ、喉が渇いてきた。
また、水をさがさないと……。
ぽつりと、頬を水滴が濡らす。
「雨?」
雨が降ってきた。
「水を探す手間がはぶけた」
鍋を道に置くと、雨宿りするために木陰に避難。膝を抱えて雨が止むのを待つ。
がくがくと、足が震えている。いや、体が震えている。
少し、雨に濡れたからかな。
寒いなぁ。そうだ、火を起して温まれば……。
ううん、駄目、雨でなにもかも湿ってしまった。枝も枯葉も……火がつけられない。どうしよう。
寒い……。
やっぱり、馬車に戻ろう。雨が止んだら……。目印は大丈夫だろうか。雨で流されてないかな。
ザーッと降り続く雨が止むのを、震える体を抱きしめてじっと見ている。雨は激しさを増していく。
あ、鍋に水が溜まったみたい。
水を、飲まないと。立ち上がると、そのままふらついて地面に倒れこんだ。
バシャリと泥水が跳ね、顔が泥に汚れる。
「ああ、風呂にもはいれないのに……」
立ち上がらないと。
人はわずか十センチの水でも溺死しちゃうんだ。水たまりに顔を付けただけでも死ぬ可能性はある……。
水を飲まなくちゃ……。雨宿り……。馬車に戻って……。
体が思うように動かない。立ち上がることもできない。
「う……うう……」
雨なのか泥水かのか、涙なのか。顔がぐちゃぐちゃだ。
このまま、私、死ぬのかな。
やだ。
助けて。死にたくないよ……。
ううん、たとえ死んだとしても……こんな死に方いやだよ。
会いたいよ、最後に。
お父様とイーグルの顔が浮かぶ。
お父様を悲しませたくない。
イーグルは家族をまた失ったら傷つくだろう。傷つけたくないよ。
それから、殿下の顔が浮かんだ。
殿下……パンの試食のときに意地悪してごめんなさい。サンドイッチの試作品は、今度は一番に食べてもらうから……。
ラミア、アンナ、リドルフト、レッド……どうか、責任を感じないで。幸せになって。
「寒い……」
ろくに食べてないから体温を保つためのエネルギーが足りないんだ……。このまま雨に打たれてたら低体温で死んじゃうかな。
それとも風邪をひいて高熱で死んじゃうかな。
動けなくなればどちらにしてもいずれは餓死。水分取れずに熱中症という線も……。
寒いよ、怖いよ……。
やだ、死にたくない。
殿下……。
教室隣で密着されたときは温かかったな。なんで、今は隣にいてくれないの?
寒いよ……温めて……よ……。
ヒロインが現れるまでは……私の隣にいてくれてもいいでしょ?




