向かう先
「フローレン様、一緒に来ていただけませんか。ラミア様が手助けして欲しいことがあると」
「ラミアが?」
もしかして婚約解消の立ち合い人が必要だとか何かあるのかしら? それとももめごと?
こちらから積極的に介入するつもりはないけれど、友達が助けを求めているなら助けるわよ?
「はい。こちらでございます、あ、お荷物お持ちいたします」
ラミアがいつもそうしているように、男は私の手にもつバスケットを持って歩き出した。
置いて行かれるといけないわと、男の後をついていくと、下級貴族用の馬車停留所へと向かっている。すでに利用する生徒の姿はなく一台の小さな馬車が止まているだけだ。御者台にはマントと帽子を身に着けた御者が座っている。
「どうぞ」
男がバスケットを馬車の中に入れる。馬車の中には、誰もいない。
「ラミアはどこにいるの?」
「はい、ジョージ様と侯爵家に向かったあとに子爵領へと戻る予定です。途中で行き違いにならないようにすぐに出発したいと思います。今から出れば、侯爵家から子爵領へと向かう途中の一本道で合流できるはずです」
「そうなの? 行き違いになっては大変だわ。すぐに出してちょうだい」
馬車に乗り込むと、ばたんとドアが閉められ、かちゃりと外から鍵がかけられる音がした。
それからすぐにガタガタと馬車が軋みながら動き出す。
……うわぁ。安い馬車って、揺れるわ。なにこれ。おしり痛い。
クッションくらいいいのを使えばいいのに。
上下に激しく揺れる馬車に慣れるまでに時間がかかった。
どれくらい乗っていただろう。やっと、少し考え事をする余裕が出てきたところで、カーテンをめくって窓の外を見る。
「あら、もう王都を出たのね。子爵領に向かう一本道と言っていたけれど……」
太陽の位置と王都の位置、んー、子爵領って、北だったかしらね? もう少し地理を勉強しておくべきだった?
いえ、ぼんやり地図は覚えているんだけれど、そういえば、地図は上が北だったかどうか覚えていない。
まぁいいか。一本道ってことは迷うこともないでしょう。
ん? 待てよ?
王都のジョージの侯爵家のタウンハウスから子爵領へ向かう一本道を進んでいる馬車と、この馬車が合流するのって……?
同じ道を進んでいるなら、追いつくっていうことよね? 追いつくの? 特にスピードが出ているわけじゃないと思うけれど。
と、いうことは、子爵領のラミアの家にまでいかないと合流できないんじゃない?
ラミアの家……かぁ。どんなところだろう?
牛がたくさんいるのかな?
ガタガタと馬車は進み続ける。
もう二時間は経っただろうか。
流石にそろそろ着くころ?
ラミアは毎日学園に通っているのだ。あまりにも遠ければ学園の領か王都にタウンハウスを持ってそこから通うはずだ。
それから馬車は一時間は移動している。
三時間? いくら何でも遠すぎない? ラミアは毎日何時に起きて学校へ向かっているの?




