外野
まぁ、ヒロインはイーグルたんと結ばれるわけだから、殿下も失恋するわけだけど。
とにかく、奥さんのいる人を好きになるのと同じ感覚なの。他のひとのものなのよ、殿下は。妻帯者や彼女持ちを好きになる趣味はないの。
「俺はフローレンに汚されても構わないけど?」
「私が構いますっ。チョークを売ろうとしている私が、チョークの欠点を広めるわけには参りません。チョークの粉で殿下を汚す危険があると言われてしまっては、売りにくくなりますっ。殿下がよくても私は全然よくありませんっ!」
「……分かった」
ふう。助かった。
毎日お昼を共にする間に、随分距離が近くなったと思う。正直なところ、側近候補であるレッドやリドルフトと同じ程度の立ち位置では? と思うこともない。
「あ!」
そういえば、ラミアに対して王妃付きの侍女になりたいなら云々言っていた。
殿下は将来王妃になる方にふさわしい侍女候補も学園生活で見極めているのよね。もしかしたら、私も王妃付きの侍女に……と?
いや公爵令嬢を侍女にするわけないか。だとすれば、教育係か、相談相手、ご友人にと考えているのかな? 残念だけど、それはない。
それにしても、殿下には現状婚約者がいないというのに、女性と一緒にいるところを全然見ないような気がする。
公爵令嬢は学園に私一人だけれど、侯爵令嬢や伯爵令嬢は多数いる。あわよくばと考えて近づく方もいそうなのにな。
「見ましたか、殿下とフローレン様。隣同士の席に座って本当に仲睦まじい様子を!」
「ああ、あまり振り返るわけにはまいりませんので一度しか見られませんでしたが、美男美女で本当にお似合いでしたわ」
「皇太子妃に決まっているけれど婚約を発表しないのは、フローレン様の自由を奪いたくないという話は本当なのでしょうね」
「そうだよな。王妃教育で縛っていたら、黒板やゼリーなんか世に出なかったかもしれないんだろ?」
「素晴らしい才能ですわね。フローレン様が王妃になる時代が楽しみですわ」
「そうだな。俺も素晴らしき皇太子と皇太子妃に仕えられるように授業を頑張らないとな」
「だよな。フローレン様は爵位に関係なく才能を見抜いて採用してくださるに違いない」
「ですわね。現に子爵令嬢……ついこの間まで男爵家だったラミアを側に置いていらっしゃいますし」
「そうそう。出来が悪く人前に出すことができないと、社交界デビューのしていなかったアンナ様にもお声をおかけになりましたし」
「二人のノート見たけど、二人ともすげー勉強熱心だぞ?」
「ああ、この間図書館で分からないところ教えてもらったわ。全然出来が悪いことはないぞ?」
「おまえ、抜け駆けずるいぞ! どっちだ、どっち狙いだ!」
「どっち狙いって、ラミア嬢には婚約者がいるだろう……あいつがいなきゃいいのにとは思っているけどな」
「ジョージはあんな女と政略結婚させられる俺はかわいそうだ、形ばかりとはいえ婚約者が豚だとは恥ずかしい、仕方がないとはいえあいつと結婚するしかない、親に命じられただけだ……と散々言っていたからなぁ」
「じゃ、俺が救ってやるか? ジョージを自由にしてやって、俺がラミアと……」
「待て待て、だから、抜け駆けは」
「男子って本当バカばっかりね。でも、髪と肌がきれいになるだけでもてるんだ……私だって」
「そうですわね。ゼリーでした……早速注文をしなければ!」




