お披露目その2
ラミアとアンナに合図を出すと、二人は今度はゼリーを配り始めた。
「もう一つ、皆様に贈り物がございますわ。こちらは食べ物になります。まず初めに説明させていただきますわね? ラミア、アンナ、いらっしゃい」
皆にいきわたったことを確認して私の元へラミアとアンナを呼び寄せる。
「皆さまも、お気づきになっているかと思いますわ。ラミアが痩せて、アンナの肌や髪が美しくなったことを」
男性たちは、かわいくなった二人を素直にうんうんと言って見ている。
一方女性たちの反応はまちまちだ。
ちょっとかわいくなったからっていい気になるんじゃないわよと声が聞こえてきそうな顔をしてにらんでいる者。
どうしたらあのように変化するのかと興味津々な者。
察しがいい者は、まさかという表情で今配られたゼリーに視線を落としている。
「毒見をさせていただきますわ。本日皆様に用意させていただいたのはブドウのゼリーですわ」
紫なんて魔女がぐつぐつ似ている鍋の中の色のイメージなんだけど、ブドウと聞けばホッとするよね。というわけで、朝からゼリーいただきます。
食べて見せると、待ちかねたといった様子で女性たちがゼリーを食べ始めた。
美容に興味がない男子がぼんやりしていると「食べないのならいただいてもよろしくて?」と奪いにかかる女子もいるほどだ。
「まぁ、おいしい」
「おいしいだけではなくて、これを食べていればアンナ様のような髪や肌に……?」
「ラミアさんもとても髪や肌が美しいし……痩せるということは逆にいくら食べても太らないということかしら?」
いや、ゼリーも食べ過ぎれば太るよ? 果汁とか砂糖とか使っているし、カロリーゼロじゃないからね?
「これいいな。ブドウは好きだけど一粒ずつ皮をよけながら食べるのは嫌いだったんだよな。これならがつがつ食えるぞ」
「やべぇ、まじうめぇじゃん」
ふふふ。そうでしょうそうでしょう。
「フローレン様、このゼリーはどこで手に入るのでしょうか?」
「私も買いたいですわ」
「教えていただけませんか」
来た来た。
「学園側と交渉して暫くは食堂で販売していただけることになりましたわ」
素敵、私絶対に毎日食べますわ! という声があちこちから上がる。
「王都にお店を近々開くつもりですの。それまでは申し訳ありませんが食堂で購入していただけますでしょうか。お持ち帰りを希望する方は、持ち帰り用の器をご持参していただくことになりますが……詳しいことはアンナに聞いていただけますか?」
一人いくつまで買えるのでしょうとか、お値段はいかほどとか、いろいろな質問がアンナに飛んでいる。もちろん、髪や肌の手入れはどうしているのかといった質問も混ざっている。手入れはほぼなし。食事改善しただけだ。あの家の待遇で手入れなどしてもらえるはずもないからね。
「え? ゼリーを食べるだけで何の手入れもなさっていませんの? 洗顔も水だけですの?」
「オイルマッサージもなさっていませんの? 髪もブラッシングだけでこの艶を?」
「ねぇ、アンナ様、今度お茶会にご招待してもよろしいかしら? お母さまにぜひアンナ様の髪や肌を見ていただきたいの。そうすれば、お母さまもゼリーを購入することに許可してくださると思いますわ」
あらあら。今までアンナを一人で抜け駆けをしてと言っていた方ではありませんこと?
「ふふふ、皆さまにはあまり興味がないかもしれませんが、このゼリーに含まれるコラーゲンの最大の美容効果は、しわですわよ。ラミアの領地の人たちは普段からゼリーを食べているので、年齢よりも随分若く見える女性が多いそうですわ。興味のある方は確認してみるといいと思いますわ」
ギラリと目の色が変わったのは、授業を開始できずに教室の入り口で待機していた三〇代の女性教師だ。
「食堂で……販売……」
ぶつぶつとつぶやきが聞こえる。




