黒い板
「ほら、こうするとかわいさが増しませんこと? フルーツのゼリーであればフルーツをトッピングしてもよろしいかと思いますが、それ以外のゼリーにも店内飲食の場合はデコレーションがある方が映えると思うんですの」
日本でデコレーションの定番といえば生クリームだけどね。生クリームないもんなぁ。
「まぁ素敵ですわ!」
「特別なお菓子のように見えます」
女性陣からは好評。
「その豊かな発想力はどこからくるのでしょう」
リドルフトが言葉を漏らし、レッドはすかさず皿を取って、ウーブリでゼリーをすくって食べた。
「一緒に食べるとまた違った味わいでいいな。俺はもっとウーブリたくさんあってもいいと思う」
……見た目じゃない方向からの意見をレッドがくれる。
「……俺の持ってきたものが役に立ったようで、よかった。思っていた反応とはちょっと違ったけれど……」
思っていた反応? 殿下は何を期待していたのか。
「食べながらでいいので、今日はついに殿下に提案したい者の試作品ができたので見ていただけます?」
そうして、黒板のプレゼンを始める。
「なんだ? 黒い板? 焦がしたのか?」
レッドが首を傾げた。
「いえ、これは墨汁を塗って黒くしたものです」
煤と膠を使って作った墨汁。そのまま固めると、墨ができるのよ。硯があれば、水と墨と硯で墨汁ができる。液体のインクとちがって長期保存ができるはずだけど、今のところ硯は作ってない。
「墨汁?」
リドルフトが興味深々といった様子で黒板を凝視している。
「インクの一種ですわ。インクに比べて安価ですが、水に弱いためその上にニスを塗ってあります」
「で、その黒い板は何に使うんだ?」
殿下の言葉に、チョークを一本取り出す。
「こちらはチョークです。この黒板に、このように……」
フローレンと名前を書いて見せる。
「面白いな。文字が書ける板か。だが、板に黒い……その墨汁とやらで書けばいいんじゃないのか? なぜ、わざわざ黒く塗った板に白い文字を」
殿下の言葉が終わらないうちに、綿をくるんだ布を書いた文字に押し当て滑らせる。
黒板消しもそのうちよい形のものを作りたいが、とりあえず雑巾でもなんでも消すことができるから問題ないといえば問題ない。
「え? 消えた」
もう一度黒板に、今度は殿下の名前を書き、半分だけ消して見せる。
「書いたものが簡単に消える、まるで砂の上に書いた文字を手で消してるみたいだな」
おや、レッド、いいこと言いましたね。
「そうです。砂に文字を書いて消して練習する人もいるでしょう。高価な紙とインクを消費するのはもったいないですから」
リドルフトが手を出したので、黒板とチョークを手渡す。
「こ、これは……計算のメモにも使えるということですね。ノートの端に無駄なメモを残さずに済む」
そうそう。その通りですよ。
「なー、これ、誰かに何かを伝えてほしいというときなんかのメモするのにも使えるよな? 伝えたあとにはメモは破棄するから紙の無駄が減らせる」
レッド君、いいところに気が付きましたね。
ですが、黒板の真の価値はそこじゃないんですよね。
リドルフトの手から黒板を取り返して、皆から距離を取る。部屋の一番奥まで良き、チョークで大きな文字で「読めますか?」と書いた。
「ああ、読めるが」
「はい。大きな文字なので、もっと離れていても読めると思います」
「黒色に白なのでよく見えます」
レッド、ラミア、アンナが答える。
「まさか……」
リドルフトは気が付いたようだ。
「ええ、そうです。黒板は、紙とちがって色を塗った板ですから、大きなものも用意できます。
教室の壁一面を覆うような大きなものを。
「読めますか?」の文字を消し、国内の簡易地図を書く。
「ここが、王都。こちらがラミアの領地、それから、距離を置いて、我がドゥマルク領。こうして黒板を使えば、言葉だけでは伝えにくいことも書いて皆に見せながら説明することができます」
殿下とレッドが顔を見合わせた。
「戦略会議にも使えるということか」
そっちじゃない。
ご覧いただきありがとうございます。
昔の黒板は緑っぽくなく、本当に黒だった。
これ、明治村とかに行くと現物見られますよ(*´ω`*)
むしろ、あの緑はなんの色なんだろう???
そうそう、ちょっと緑っぽくなってる紙のノートとか目に優しいらしい。




