なでなで
視点戻ります
■フローレン■
「料理長!」
屋敷に戻り、着替えるとすぐに調理場へと向かう。
「あら? 料理長は?」
おかしいわね。直前まで調理場から声が聞こえていたような?
「あ、見つけた! 料理長、お願いがあるんですけど!」
なぜか作業台の下に潜り込んでいた料理長を見つけると、にこやかに声をかけた。
「くっ、見つかったか。私はサンドイッチの試作で手一杯ですから」
見つかった?
まあいいわ。
「ええ、パン屋開店までに二〇品くらいは準備できるといいですわね。定番商品となると年中手に入る食材が最適でしょう。季節限定商品は季節の食材を用いるとして……って、違うんですわ! 今日はパン屋のサンドイッチのこととは話は別です!」
料理長が無の表情をする。
「……サンドイッチ開発のためにハムというものも開発しなくてはならないのですが」
そうだったわ。ハムサンドがないと駄目だからとハムも作ってとお願いしてたんだ。ハムができたらハムエッグもいいわよね。
卵はイーグルたんが養鶏を初めてくれたこかげで、一年中入手には困らないでしょうから。
「ハムサンドと卵サンドとポテサラサンドのミックスというのもいいかもしれませんわね。あ、ポテサラにはキュウリも入れたいところです。そうそう卵サンドやハムサンドにもキュウリはいりますわね。キュウリは夏場が旬……一年中は入手でき……ん? ハウス栽培すればもしかして……ビニールハウスは作れなくても温室を持つ家はあるのよね。ガラスがあるから……別に温室じゃなくても、暖かい部屋なら冬でも育てられる? 空いてる部屋で作る? 水耕栽培は無理としても、家庭菜園の定番プランター。プランターを並べて空き部屋でキュウリを育てる……。屋敷には暖炉もあるから冬でも暖かいいや光熱費を考えたらもったいない……あ、暖炉の熱、煙突から出るのは煙だけでなく暖気……。それを利用する方法はないのかしら? ……って、ちがーう! 違うんですわ! 今日はパンの話をしに来たわけではありませんっ。貝殻を取りに来たんですわ。貝殻はありませんか?」
「へ?」
料理長が間抜けな顔をした。気の抜けたような顔だ。
「貝殻を取りに来ただけ、ですか?」
「そうよ、必要なの。たくさんほしいわ」
「申し訳ありませんが、ありません……領地では簡単に貝は手に入ったのですが。今の季節は……」
ああ、そうよね。生の魚介類を領地から運ぶのは難しいんだった。貝も一緒だ。冬場の気温が低い時期なら自然が冷蔵庫代わりになるし、氷も手に入るから運べる。だから海産物は冬の食べ物なんだよね。王都だと。
「お義姉様、領地が恋しいなら、一緒に帰る? 学園は通わなくても構わないんだよね?」
イーグルたんが調理場に現れた。二言三言料理人に何か言葉をかけると、私に手を差し出しエスコートして二人で歩き始める。
「学園には通うわよ? 友達にも会いたいし」
もしかしたらラミアとは修道院も一緒に行けるかもしれないし。他にも友達作りたいし。
「お義姉様、誰に会いたいの? 僕と領地に行くよりも、それよりも会いたい人が……できたんだ」
あら?
「もしかして、イーグルは領地に戻りたいの?」
イーグルたんが、ふぅと小さく息を吐き出した。
「違う。僕はお義姉様と一緒にいたいんだ。領地でも王都でも場所なんてどこだっていい。お義姉様が誰かに会いたいからと僕から遠くに行くのが嫌なんだ……僕は……」
なんだ。そういうことか。
領地ではずっと一緒にいたもんね。急に毎日学園へ行って離れている時間が長くなって寂しいのね。
そういえば、私も学園へ行くまで友達なんていなくて、イーグルたんも友達らしい人はいない。お母様はいないし、お父様も仕事でいない。イーグルたん、早くヒロインと仲良くなってくれるといいな。孤独感を埋めてくれる人。学園でイーグルたんにも友達がたくさんできるといい。
「学園に通っている間は、一人で遠くに行ったりしないわよ? むしろ学園に通うために王都を長く離れられないもの。だから、この屋敷に帰ってくるわ。イーグルたんの待っているここにね」
にこりと笑って、イーグルの頭をなでなで。
「僕は……お義姉様が帰るのを毎日待ってるよ。来年からは一緒に学園へ行って、一緒に帰ってくるんだ。そのあとは……お義姉様が卒業した後は、お義姉様が待っていてくれるんでしょう?」
ありゃ? 卒業パーティーで断罪されて修道院行きだからここで待つことはできないんだよね。
あいまいに笑って返事をしないでいると、イーグルたんがむっとした顔をする。




