落書き
ずらりと私の前にノートが並べられた。
「ふっ。これは素晴らしいですね」
リドルフトが楽しそうに私の横に並ぶ。
「ノートをチェックするとは思いつきませんでしたが、これは参考になりますね。卒業時にすべての授業のノートを提出させましょうか」
殿下がノートを見比べながら頷いた。
「そうだな。今年卒業の三年生からノートを提出させよう」
「やべー! ちょ、このノートラミアのだよな? すげーじゃん。よくまとめられてる。後でノート見せてくれよ! 書き写させてくれっ!」
レッドが悲鳴のような声を上げた。
「あはは、そうだな。書き写すなどの対策を立てられそうだ。書き写すならまだいいが、誰かのノートを買い取ったり強奪したりする者もいるかもしれないな。何にしろ対策を立てられるのはすぐだろう。ここ数年の卒業生、三年生二年生と早急にノートを提出させるように」
リドルフトが頷いた。
「ではすぐにでも手配いたしましょう」
なんでぇ? どうして、そんなに幅広くノートを集めることに?
「ノート一つで、性格や能力など把握できるということですね。より良い人材をふさわしい場所へ配属する参考になる。フローレン様は目の付け所が違いますね」
リドルフトが他の人には聞こえない小さな声で私と殿下に向けて言葉を発した。
違う、そんなつもりはなくて……。ラミアが書きとれなかったところを誰かに見せてもらえたらそれでいいと……それだけのつもりだったんだけど。
「本当だ。ラミア様のノートはとても分かりやすくまとまっている」
「フローレン様が側に置くだけのことはある」
ん? なんだかラミアの株が上がってる。よ、よし。ケガの功名。
自分でノートをとるのが嫌だからラミアに書かせているとでも思ってくれた?
あら? ラミアを褒める人がいる一方、にらんでる人もいるわ。自分の方がノートが綺麗にかけてるのに褒められないから妬んでる?
殿下が私の耳元でささやいた。
「フローレンはすごいな。こうして並べて見させることで、ラミアの優秀さを示して、子爵令嬢という地位の低さに対しての反感を抑えるとは……とても俺には思いつかない方法だ」
何それ?
というより、何? ノートを全員提出? 冗談じゃない。おちおちノートの端っこに落書きができないじゃないの。
鉛筆なら消すことはできても、ペンで書いたものは簡単には消せないんですよ? タコ焼き食べたいなぁと考えながら書いた鉢巻巻いたタコの絵とか、カニもおいしいよなぁと思いながら書いたカニカニカニカニィーという呪文とか、全部見られちゃうとか! 無理だわ。
これはノートの取り方で優劣がつかない板書を写すシステム。つまりは黒板を導入してもらわないと!
いや、むしろ、落書き専用のノートを別に持ってくる? いやいや、落書きを消せる鉛筆と消しゴムを作る? ハードル高いなぁ。
消せる……?
ん? 黒板とチョーク……。
あれ? もしかして、生徒一人ひとりに、小さい黒板を持たせればいいのでは? つづりなどの練習や計算メモなど、残しておく必要がない、消しても構わないものは黒板に。紙もインクもそこそこ貴重品ですし……。
生徒一人に一つの黒板ともなれば、チョークの消費量も増える。
貝殻を使ったチョークが、ドゥマルク領の新しい産業に?
もちろん学園での使用量は知れてますけど、公務にも使えるでしょう。メモに会議にと。それこそ文字を覚える段階の子供たちの練習には引っ張りだこ間違いない。
となれば、チョーク……いけるんじゃない?
よし。やってみるか!




