友達になりたくない
「ん? 何か視線を感じるけど……? 気のせい? あ、ラミア。追いついたわ」
「フローレン様? あの、バスケットは無事ですっ!」
ラミアがほっとした顔で私を見た。うん、しっかり守ってくれたのは見ていたわ。だけれど、のぞき見していたことを言うわけにはいかない。
「ほら、これ。薔薇の間に出入りできないでしょう?」
鍵を見せると、ラミアが真っ赤になった。
「ああ、申し訳ありません。わ、私ったら……本当に駄目ですね」
しゅんっと落ち込んでしまった。
駄目なんかじゃないよ。ジョージにはっきり言い返してる姿はかっこよかった。
ん? やっぱり視線を感じる。
周りを見ると、生徒たちの何人かがこちらの様子を興味深げにうかがっているようだ。
「そうね、本当にあなたは駄目な子だわ」
わざと周りに聞こえるように大きな声を出す。
「だから、私がもっと鍛えてあげるわ。さぁ、早くバスケットを置いていらっしゃい。ここで私は待っているわ」
どうかしら? 悪役令嬢がラミアをこき使っているように見えるわよね?
「ありがとうございます。鍵を届けてくださったばかりか、待っていてくださるのですね」
ちょ、ラミア、そこで嬉しそうに笑っては効果が半減しちゃうってば。これ以上叱られないようにと緊張した表情で去るのが。
ぽてぽてと、丸々とした体でラミアが走りだした。
「ラミア、走るなんて転んだら危な……」
怪我したらどうするの!
って、違う、悪役令嬢は心配なんてしない。
「貴族令嬢としてはしたないわよっ!」
と、大声を出してしまい、これもまたはしたないと反省。あ、反省するまえに「これだから子爵令嬢は……」と馬鹿にしたような言葉も必要だったかも。ま、いいか。
ラミアと教室に入ると、昨日と同じように前方の席は埋まっていた。
しまったぁ! 早く来て席取りしなくちゃと思っていたのに。
ジョージの浮気相手の女性と目があった。何かを期待するような視線を向けられるが、知らんがなと、表情を硬くしたら、私の後ろをにらみつけた。
ラミアのせいじゃないからっ! 私が関わりたくないんだよっ。
なるべく前方で空いている席はないかと教室を見渡すと、中断あたりに座っている伯爵令嬢が慌てて視線をそらした。
ああ、ラミアをいじめてた子の一人ね。相変わらずどんな手入れをしているのか肌も髪も荒れてるわね。
その二列後ろに一緒にラミアを虐めていた侯爵令嬢と何令嬢かも分からない令嬢がいる。つるんでたくせに、席はバラバラなんだ。、あの時限りの関係だったのかな? それとも、爵位に忠実に座ているってこと?はぁーめんどくさいわ。
友達同士近くに座ることもできないの? 私とラミアの場合、公爵令嬢と取り巻きのようなうのだから認められているということ? いや、認めないと思ってる輩がラミアに文句言ってたんだったわね。あー。やだやだ。爵位だけで一緒にいる人間を選ぶなんて冗談じゃない。むしろ友達になりたくないし。
ゲームで私の取り巻きだった人とは特に仲良くなれそうにない。断罪劇に加担して笑ってた顔は忘れてないわ。……いえ、忘れかけてたんだけど。思い出したわ。ラミアを取り囲んでいる姿を見てね。
仕方がなく、後ろから二段目。最上段は殿下たちなのでその前に腰かける。
昨日に比べて生徒たちは静かに授業を受けているため、先生の声は何とか聞き取れた。
……けれども。なんだろうねぇ。




