断る!
「立場がありますから、友達……というわけにはいかないとは思いますが、損得抜きの付き合い方ができるのではありませんか」
立場はどこまでもついて回る。いっそ、私も子爵令嬢であれば友達になれただろうに……。
「一生懸命、役に立ちたいと思いながらちょっと抜けているところが、昔のフローレン様を見ているようで本当にほほえましい」
抜けてる?
メイが私の手に握られた薔薇の間の鍵を指さした。
「あ!」
鍵を私が持っていては、部屋に出入りできなくてバスケットを置くことができない。
「まったく、ラミアったら……仕方がないわね」
すぐにラミアを追いかけて食堂へと向かう。……メイは楽しそうに笑っている。ちょっと待って、私が昔抜けてた? はて? 記憶にないけれど?
速足で歩いているとすぐにラミアの姿が見えた。
「ん? ラミアに話かけているのは、お猿の坊ちゃんジョージ?」
なんだ、なんだ?
声をかけようと思ったけれど、ジョージが反省して謝罪して二人はラブラブみたいな内容じゃ、ただのお邪魔虫になっちゃうので、見つからないように二人に近づきら見守ることにする。
べ、別に、盗み聞き楽しいとか思ってないからね?
さささ、そそそと移動し、二人の声が聞こえるところまで近づき木の後ろに隠れる。
「ラミア、ちょっと公爵令嬢と一緒にいるからっていい気になるなよ?」
「いい気になど……」
おや?
「お前はしょせんは子爵令嬢だ。しかも誰からも馬鹿にされるような醜い女だろが。俺より偉くなんてなれないんだよっ! 俺の頼みを何断ってんだ!」
頼み? ラミアは何か頼まれて、断ったってこと?
「シャリアナをフローレン様のサロンに呼ぶように頼めといったら頼めよ」
シャリアナって誰? まさか、浮気相手の女じゃないよね?
「お前みたいな豚よりも、シャリアナのほうがフローレン様にふさわしいんだよ! いいな、シャリアナをサロンに招くように言えよ」
冗談じゃないっ。断るわ! でも、ラミアの言い方が悪いとか言うんでしょう? 目の前で言ってやるわ。婚約者のいる男性に体を寄せるような女、大っ嫌いだって! そう言われれば、ラミアが悪口吹き込んだとか言いがかりを付ける余地はないでしょうよ!
「何度言われても、お断りいたします」
ラミア、よく言った。
「ああ、そうかい。だったら、お前なんてさっさと公爵令嬢に見限られるがいい!」
見限らないわよ。
「お前は、公爵令嬢から預かったバスケットを落として台無しにしてしまうんだ。どんくさいから、転んで落としたとしても誰も疑わないだろ」
ラミアは、バスケットを胸元に引き寄せて両手で抱え込む。
ジョージが腰にぶら下げていた麻袋を手に取った。
「ほら、これは婚約者の俺からのプレゼントだ。お前は、俺からのプレゼントに驚いて逃げ出す。その途中で転んでバスケットを手放すんだよ。分かるか? 俺は単に婚約者にプレゼントを渡すだけ。何も悪いことはしちゃいない」
ジョージがぺろりと赤黒い舌を出して唇を舐めた。汚い色だな。どこか体悪いんじゃないかな。悪いのが性格だけじゃないなんてかわいそうに。いやいや、ラミアにプレゼントを渡すなら、いいところあるのか?
「ほら、お前の大好きな蛇を持ってきてやったよ」
蛇?
ラミアは蛇が好きなの?




