な、なめるな!
「黒い紙……じゃない、海苔というのか。この海苔、フローレンの言う通りおにぎりを包むとおいしさが何倍にも広がるな」
ニコニコと殿下が笑顔を向けてくれる。
あまりにおいしそうに食べ、満足そうな顔をしているので、どや顔を返しておいた。
「あ、殿下、ついてます」
おにぎり初心者にありがちな、ほっぺたに米粒ならぬオートミール粒を引っ付けている。
ふふっ。思わず笑いだしたくなるのをこらえ、殿下のほっぺたについた粒を指でつまみ、そのまま……。
はっ! 危ない! つい、小さなイーグルたんにいつもしていたように、そのまま自分の口に運んじゃうところだった。
セーフ。
殿下のほっぺからとった粒はそのまま指につまんで、殿下と私との間で止めた。
「あ、ああ……フローレン、その、そうか。うむ」
殿下が、私の指に唇を寄せる。。
いや、私がつまんだ粒を食べた。指が、殿下の口にくわえられた。
ぎゃーっ。
「で、で、で、殿下っ」
殿下の柔らかな唇が私の指に触れてる。
私が素っ頓狂な声を上げたことで、殿下が自分の犯した失態に気が付いたようだ。
顔を上げると慌てて言い訳めいたことを口にする。
「いや、すまない、手を差し出したままだったので、食べさせてくれるのかと思って……、ほ、ほら、俺は両手がふさがってるから……」
殿下が真っ赤になっている。そりゃそうだろうよ。小さな子供じゃあるまいし!
「家族や恋人でもないのに、食べさせるわけありませんわっ! だ、だいたい、私が暗殺者で、指先に毒が塗ってあったらどうするおつもりですか!」
殿下が、私の手をぎゅっと握って、もう一度指先に唇を当てた。
ひゃーっ。唇が当たる。ちょっと、舌を出して人差し指、舐めるのはなんでなのっ。
「俺は、フローレンを信用している。毒など疑うわけはない」
「わ、わ、分かりました、信用されているというのは、分かりましたけどっ」
それを示すために指を舐めるって、どこの風習か! いや、そんな風習ないわ! どこにもないわ! 知らんけど!
「私も、フローレン様を、信じておりますっ」
ラミアが私の逆の手をつかんだ。
待って、ちょ、待ってって! そうじゃない、違う。舐めなくていいからぁ! ラミアさん、ちょっと!
なんとか殿下のお戯れ……悪ふざけだということで、収めた。ぜーはー。
っていうか、その間、レッドもリドルフトも何も見ていませんって顔でもくもくとおにぎりを食べていた。
裏切者め! 殿下の間違った行為をそのまま放置するなんて! むぐぅーっ! 今度、おにぎりにワサビたっぷり入れてやるぞ! ……まぁワサビは見つけられないんですけどね。ちぇ。
コケコッコーッ。
大きな鶏の鳴き声で、目が覚めました。
養鶏所を作って卵を生産しましょうという私の言葉に、早速イーグルたんが動いてくれたようです。
コケコッコーッ。
コケコッコーッ。
いや、うるさいわ! なにこれ……近所迷惑なのでは……。
養鶏所って、うるさかったっけ? うるさくないよね。
あ、そうだ。卵を産むのは雌鶏だからかな? うるさいのは雄鶏? ああ、鶏の数を増やすためには有精卵が必要だから雄鶏と雌鶏と両方必要なのね……。
コケコッコーッ。
はい、分かったわ。起きますわ。




