領地のため
「貴族令嬢が……領地のためにできることは、より良き人の元に嫁ぐことでは?」
は?
「ラミア、もしかして両親はそういう考えの持ち主なの? 娘を駒として扱うような人間なの?」
そういう考えの者は少なくない。
跡を継ぐ嫡男以外はすべて駒だ……と。使える駒は最大限に生かし、使えない駒は切り捨てる……と。
「いえ……父も母もそのようなことは……。もともと貴族とはいえ平民に近い生活でしたし。ですが、ハンバーグという食べ物が世の中に広まり、牛肉の需要が増えたことで領地が繁栄してきたことで……その、貴族としての責任も重くなって」
なぬ? きっかけはハンバーグ? ハンバーグのせいで人生が変わっちゃったの?
「ジョージ様と婚約してから、ジョージ様がいろいろと貴族について教えてくださるのです。女など領地のためにできることなど結婚だけだ。領地運営するわけでもないのだからな。だから、お前は俺という上位貴族と結婚することで役に立ててよかったな。俺にもっと感謝しろよ……と」
あの男か!
「……領地のために、ジョージと結婚しようというのですね? 両親からの強制でなければ、好きだからということでもなく」
答えにくい質問だったからだろうか。ラミアは複雑な表情を顔に浮かべる。
いや、もうその顔でジョージのことが好きじゃないということはよく分かったわ。
確か、金銭的援助を受けているのはジョージの家の方だったはずで。侯爵家なのに子爵令嬢と婚約など、よほど金銭に困っているのだろう。爵位の差があるとはいえ、金銭的な事情も含めればイーブンな立場と言えなくないはずだ。
婚約が解消されればジョージも困るのに、ラミアを下に見てやりたい放題している。それにラミアはなぜ耐えているのかと思えば……。
洗脳していたのか。DV男やモラハラ男の常とう手段だったわ。「お前は無能で出来損ないで何もできないどうしようもない人間」だと洗脳していく。
ラミアは領地のために自分ができることはジョージと結婚することだけだと思いこんでいたのか。
両親がよい人で、領地のために何かしたいという思いが強いがゆえに、あんな男の仕打ちに耐えていたのか。領地の、領民の、両親のためにと。
私なんかよりよっぽど立派だ。私は、イーグルたんとお父様に迷惑がかかるかもしれないと思いつつも幽閉生活を目指してる。その良心の呵責から、領地を富ませればチャラになるんじゃないかと特産品を売るぞと思ったんだもの。
純粋に領地のことを考えて自分を犠牲にしようなんて……。
「ラミア、あんたは馬鹿ね」
「え?」
「もっとわがままに生きればいいのに。婚約が嫌なら嫌だと言えばいい」
「そ、それは……できない……です」
「できないんじゃなくて、やらないんだよね。もちろん嫌だというだけで後は知らないというのは無責任だと思うわよ? でも、嫌だと言っても大丈夫な状況を作って言えばいいじゃない? ……例えば、もっと素敵な男性を見つけてジョージとの婚約は嫌だと言えばいいのでは? 誰かと結婚することが領地のためになるというなら、もっといい人と結婚した方が領地のためになるわよ? あんな男が本当に領地のためになると思う?」
ラミアは私の言葉は聞こえているはずだし、意味も分かってると思う。
けれど、洗脳されていたせいなのか「そうですね!」とも思えないのだろう。理解できないのではない。考えてはいけないことを与えられてしまったかのように思考停止しているように見える。
カップの中に残ったゼリーを口に含む。
「あー、おいしいわ」
ぶっちゃけ、浮気と、入学式の日の私を愛人にしてやる発言だけで追い詰めラミアとの婚約を解消させることなどお父様に頼めば簡単なんだけどね。流石にラミアの人生だし。どうしても助けてほしいって言われれば考えないこともないけど。
ラミアが自分で決めることだもんね。
「私……痩せます……」
ラミアがつぶやきを漏らした。




