皮?
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★★視点もどる★★
レッドに渡された鍵を使って「薔薇の間」に入る。
食堂の個室はサロンとも呼ばれるだけあって、テーブルも椅子も立派なものだ。十人ほどが着席できるようになっている。壁には絵画が飾られ、暖炉もあり暖炉の前にはソファセットまで置かれている。
生徒会用の部屋だけが豪華なのかと思ったらそうでもなかった。……ゲームでは悪役令嬢の薔薇の間にヒロインが立ち入ることがなかったから知らなかった。ちょっと新鮮な気分だ。
テーブルの上には、レッドが運んでくれたバスケットが二つ置かれている。それから、ベルを鳴らせば食堂で提供されている食事がすぐに運ばれてくるらしい。
「さぁ、じゃあ、ラミアが持ってきたものを見せて頂戴。髪や肌が美しくなる料理。楽しみだわ」
何だろう。
ラミアがバスケットから出して、大きな黒っぽい塊が載った皿をテーブルの上に置いた。
まるで、四人では食べきれないほどの大きさのホールケーキのような黒っぽい塊。
「これは……ハンバーグ?」
巨大だけれど、どう見てもハンバーグ。
「は、はい」
ラミアが視線を泳がす。……髪や肌を美しくする食事がハンバーグ?
「えっと、ラミアは普段からハンバーグを食べているのね? ……これで髪や肌が美しくなるのかしら……?」
ハンバーグ美容法なんて聞いたことがない。
それに、あの肌や髪が荒れてたご令嬢もハンバーグを食べていると思うんだけど……? 頻度の違いかしらね?
「ラミアは毎日ハンバーグを食べているとか?」
牛の産地だそうだし、毎食の可能性もあるな。ぽっちゃりの原因にもなっている可能性。
ラミアの顔をじーっと見ると、涙目になった。
「も、も、申し訳ありませんっ」
頭を下げると、下げた状態のままラミアが早口で言葉を続ける。
「公爵令嬢に食べていただくならと、料理長が張り切っていつもは作らない料理を作りました。あの、うちの領地の特産品は確かに牛肉なんですが、いつも食べているのはちゃんとした肉を使った料理じゃなくて、売れ残ったり余ったり、売れないものを使ったものなんですっ。そんなものを食べさせるわけにはいかないと……」
なんだ、ハンバーグは美肌や美髪アイテムじゃないのか。まぁ、分かってたけど。
「じゃあ、いつもは何を食べているの?」
「皮とかです」
皮? 皮って言った?
「えーっと、皮というのは、牛の皮? でも、革製品を作るために牛の皮は売れるわよね? 売れ残りではないのでは?」
牛の皮は、食料としては出回ることはほぼない。革製品にした方が値が付くからだ。でも、おいしいから食べちゃえという国もあるそうだ。だから、食べられないものではない。こりこりしているとか。……気になる。食べたことないのよね。
「その、しっぽや足や顔などの……」
ああ、広い面積をとれない部位の皮か。それは確かに革製品にするにも手間がかかるものね。
「食べてみたいわ」
どんな味なのかな。こりこりといえば鶏軟骨が思い浮かぶし、噛み応えがあるなら牛ホルモンというのも。ハツモト、センマイ……何に近いんだろう。煮るの? それともやっぱり焼肉?
私の言葉に、ラミアが顔を上げた。
「た、食べますか? あの、その……、ハンバーグとは別に、私の好きなものを持ってきたんです。売れ残りで作った料理なんて失礼かもと思ったのですが……」
「何を言っているの? そのいつも食べているものがラミアの美しい肌や髪を作っているのでしょう? 私はそれを知りたいと言ったの。売れ残りどころか、これからはそれが売り物になるかもしれませんわよ?」
ラミアがハッと息をのむ。
「売れ残りが売り物に?」
「そう。そうなれば、もう売れ残りとは呼べませんわ。だから、私が食べるのは売れ残りではなく、新製品よ。ラミア、食べさせてくださるわね?」
「は、はい。お口に合うかわかりませんが」
と、ラミアがバスケットから取り出したものは、どう見ても肉じゃなかった。
ご覧いただきありがとうございます。
鶏皮ならぬ、牛皮……でなく、牛革ですか?!
なんだか昔の映画で、牛革の靴を料理して食べるのを笑いにしている物がありましたが、牛革って食べれるそうです。そもそも、美味しくて食べている地域があって、外国の人がその地域を訪れたときに「食わずに売れば金になるのに、なぜ食う!」と驚愕したエピソードがあるそうです。
引き続きよろしくお願いいたします。
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