悪役令嬢ですから!
一時間目は数学の授業。
日本の数学とは少し違い、簿記だとか経理だとか、予算だとか、領地運営そのほかの数字に関してを含んだ授業だ。
そのため、計算は日本人の記憶がある私には楽勝なんだけれど、それ以外のことはちんぷんかんぷん。税金の金額の決め方とか知らんがな。脱税の見分け方なんて、もっと知らんがな。給金の決め方とかもあるんだ。最低賃金とか決まってたのか。役職によってお最低賃金が違う……。何人雇うといくらでしょう。あ、数学……じゃないな算数の計算問題みたいに締めくくられてる。
それから、戦争時の兵糧。一人どれくらい必要なのか、兵を何人、馬を何頭……へぇ。
こりゃ勉強になるな。計算だけ延々とさせられるよりも楽しい。
そっか。一日一〇〇〇人の兵を養うだけどそれくらい……そりゃ戦争は金がかかるわな。
え? これって、国が負担するんじゃなくて、兵を出した貴族負担なの? そんなん貴族は兵を出したくないやん。
ん? その分活躍すれば報奨金もあるし、爵位が上がるなどのご褒美が……。へー。そうなんだ。
……って、ちょっと。前方の席が騒がしいとまでは言わないけれど、私語が多くないですか?
何? 令嬢は戦争に興味がない?
……興味がないなら黙っとれ! むしろ、興味がある人間が周りの人間とこういう場合はどうなんだとかうちの領ならどれくらいの規模のとかいろいろ話をしちゃうのは分かるが、とにかく、うるさいわ。先生の話が聞こえないだろう。
先生も、私語を注意してくれませんかね? ……分かってますよ。先生とはいえ爵位は生徒より低く注意ができないんですね。分かりますが、納得できないわ。
左端前から三番目の生徒もメモを取りながら授業を真剣に受けてるけど、その隣の令嬢が別の令嬢とけらけらと笑っている。
時折迷惑そうな視線を向けるも、それだけ。
「なるほど……」
背後からリドルフトのつぶやきが聞こえてきた。
え? 今、先生の説明に何かなるほどと思うことあった? 私には全然なるほどポイントがわからなかったよ。
二時間目は貴族の系譜。流石に派閥がどうのみたいな話はしないけれどね。どこの貴族とどこの貴族が縁戚関係にあるとか、隣国との婚姻による結びつきなど。興味なし。
てなわけで、ぼんやり過ごすことにする。そうなんだよ、いくら興味がなくてもおしゃべりして人の邪魔をするようなことはしない。
ちらりとラミアを見ると、必死にメモを取っている。
……ああそうだよね。子爵令嬢なら、失礼があってはいけない相手が多いから大変よね。間違えたら軽く見ているとにらまれたりするわけだし。
これに加えて、派閥なども覚えないといけないってことよね。大変そうだなぁ~。貴族ってめんどくさいね。
そう考えると、私は早くに前世の記憶が戻ってよかった。悪役令嬢で修道院にゆるゆる幽閉コース確定だって知らなかったら、今頃私も必死に人の名前と関係を覚えないといけなかったんだよね。いや、悪役令嬢なら覚えないかな? でもサロンに声をかける人やかけない人とか自分の派閥に誰を引き込むだとかなんだとか考えないといけなかったんだよね?
私はラミアだけでいいや。一人は流石にさみしいけど、一緒に行動する人が一人いれば十分だよ。あ、でも私が冤罪で断罪されたあと私の味方をしていたとラミアも処罰されちゃだめよね。……ってことは私が断罪されたあとラミアのことを任せられる人を……じゃないな。ラミアは私にひどい目にあわされていたと思われれば大丈夫なのか?
ということは、ちょこちょこ意地悪しているところを目撃させておかないと駄目ってことね。
よし。早速ラミアに意地悪してみよう。
ラミアの手元のメモを覗き込む。
美しい字だ。字を罵ることはできなさそう……と、メモを目で追っているとごちゃごちゃと書いては消してしてしっかりメモが取れていない部分を発見。
よし。ごめんね。私がいなくなった後にラミアが同情してもらうためだからね?
「あら、ラミアはニーチャ王国へと嫁ぎ、現在の国王の生母の名前もご存じないのですか?」
突然上げた声に、先生は黙り、生徒たちはこちらを振り返った。
よしよし、証人大量ゲットよ。ラミアはかわいそうに悪役令嬢であるフローレンからひどい言葉を投げかけられている被害者です。




