皇太子妃になるのは誰?
「そんなお前を、フローレンはそばにいることを許した。それはなぜだと思う?」
取り巻きがいたほうが悪役令嬢っぽいからですけど?
「お前を、他の者たちの悪意から守ってやるためだろう?」
はい? 守る?
私が、ラミアを? いやいや、いやいや、そんなつもりは全然なかったけれど。
ラミアがハッと驚きの表情を見せる。そうだよね、守ってもおうなんて思ってなかったよね? 痩せるためだよね? ラミアは痩せ方を教えてほしくて、私は悪役令嬢としての体裁を整えるため、そういう関係だよ?
「ラミア、お前がすべきことはその恩に報いるために努力することだ。見捨てないでとすがることではない。頭を下げて同情を誘うことでもない。見捨てられないように学び努力し成長することだ」
「はい。殿下。その通りでございます。私は必ずフローレン様のお役に立てるようにいたします」
ぷにぷにの柔らかいラミアのほっぺがなんだか心なし、引き締まって見える。
「ああ。そうするがいい。もし、いつまでも役立たずであれば、俺がお前がフローレンの側にいることを許さない」
ちょ、待って、なんでラミアが私の側にいることに殿下の許可がいるのよっ!
「あ……ありがとうございますっ!」
ラミアが殿下に深々とお辞儀をする。
え? なぜお礼を……。
「まさか……お許しがいただけるなんて」
ラミアがほほを紅潮させている。
「必ず役に立てるよう成長いたします。子爵令嬢の私でも、将来の皇太子妃のお側付きでいることができるように」
ラミア、将来の皇太子妃って誰のことかな? 私じゃないわよ?
とはいえ、そういうことか。役立たずであれば側にいることを許さないということは、役に立つ人間であれば側にいてもよいということだ。
つまり、まぁ今は公爵令嬢である私にだけど、身分差など関係ない、一緒にいていいよと。殿下がお墨付きを与えたってことよね?
そっか。殿下も見てたんだよね。昨日の……公爵令嬢とともに過ごすのに子爵令嬢はふさわしくない、侯爵令嬢や伯爵令嬢の自分たちのほうがふさわしいと主張する人がいた一幕。
それで、ラミアのことは自分が認めていると……公言することで収めようとしてくれたってことかな?
なんだ。いいとこもあるじゃん。
とはいえ、役に立つとか立たないとかで回りにいる人たちを選別したりしないからね?
それからラミア、私は皇太子妃になる予定はこれっぽっちもないからね?
……ああでも、殿下の認める優秀な人物になれば、誰が皇太子妃になっても、お側付きになれるかもね。ヒロインは、イーグルたんと幸せになる予定だから、誰が皇太子妃になるか知らないけど。
殿下の姿が見えなくなってから再び教室に向かって歩き出すと、柱の陰からリドルフトが姿を現した。
「フローレン様、ご相談が」
おい、教室に行くまでに忙しいな!
ヒロイン並みのイベントの発生率よ。攻略対象キャラに順番に遭遇するじゃん。こりゃヒロイン大変そうだね。疲れるだろうよ。
「何かしら? 今でなければなりませんの?」
教室入りが遅くなると席埋まっちゃうでしょ。
「席についてご相談が。できればもう少し後方の席に座っていただけませんか?」
なんでよ。
「はっ! まさか、近くに来てほしいということ? ごめんなさい、私はお気持ちにこたえることはできませんわ」
「いえ、近くに来てほしいと思うのなら、自分から近くに行きますので……」
「あら? 確かにそうよね」
「って、違います、近くに行きたいとかそういうことではなく……。僕が近づくなど、絶対にありえませんから。ええ、天地がひっくり返ろうとありませんよ。殿下に何を言われるかっ」
ぎょっとした表情で、全力でリドルフトは否定している。
……失礼ね。そこまで全力で否定しなくても。




