くるしゅうない。面を上げよ
「バスケット、食堂の個室に運んでおこうか?」
ん?
「それは生徒会の個室で預かってくださるということ?」
確かに教室では邪魔になる。特に、前方の方の席は大人気でぎちぎちに人が座っているのだ。
「いや、それでもいいが、フローレン様も個室を取るだろう?」
ああ、そういえば、フローレンもゲームの中では生徒会の隣の個室をサロンにしていましたね。取り巻きを呼んでお茶会だの派閥づくりだのする気はないけれど……。
食堂メニューを食べるときはいいけれど、持ち寄った料理を食べるときは人の視線は確かにないほうがいい。
なんといっても「貴族らしからぬ」ものだし。
だって、貴族よ? 手づかみでパンは食べる。だからサンドイッチやハンバーガーはセーフだけど、それ以外を手づかみで食べるのはだめ。
おにぎりもサンドイッチの仲間だと思うんだけどなぁ。お父様がぎょっとしていたから、ダメなんだろう。
悪役令嬢だから、何を言われてもいいけれど、おにぎりを愚弄されるのは許せないわけよ。野蛮人の食べ物とかさ。切れる自信があるね。お百姓さんに謝れ! 米一粒には神様が一〇八人いるんだぞ! って。米粒じゃないけども。一〇八って煩悩の数だっけ? あれ? お米には神様何人だっけ? いや、オートミールなんだけど。いるよね? オートミールにも、いるよね? 神様。
「そうですわね。今日は個室を予約しますわ」
と、食堂へと向かおうとしたら、レッドが制止する。
「運ぶついでに手続きもしといてやるよ。取った部屋にバスケットは置いておけばいいよな」
「ありがとうございます」
お礼を言うと、ラミアがちょっぴりぶぜんとした表情をしている。
あれ? ここは、レッド様素敵な方ですわよねってぽーっとした顔して見送るところじゃない?
「私にも運べましたわ! フローレン様の大切なお荷物を運ぶのは私の役割なのに……」
はい?
「個室のことは……私、知らなくて。フローレン様お役に立てなくて申し訳ありません。精進いたしますので、これからもどうかおそばにいさせてくださいませっ」
深々とラミアが私に頭を下げている。
その様子を生徒たちが遠巻きに見ている。
おや、これ、悪役令嬢が取り巻きをしかりつけてる感じに見えてない? しめしめ。
「頭を上げよ」
ちょっと待てい、誰ですか! 悪役令嬢ごっこの邪魔をするの!
「で、殿下っ」
ラミアが頭を上げて息をのんだ。
いつの間に現れたのか、私の横に殿下が立っていたわ。いや、近づいてくるのは見えていたけれど、見ないようにしてたのに。
「ラミアだったな。お前はフローレンのことが信じられないのか?」
へ?
「フローレンは役に立つとか立たないとかで人を判断するような人間だとでも思っているのか?」
正しい。殿下の言うことはね。役に立つからそばに置くんじゃない。好きだからそばにいたいんだよ。
そういえばイーグルがんが必要とされる人間にならなきゃと必死だったけど。私は知らない間にまわりの人を不安にさせてるんだろうか?
「お前は子爵令嬢だろう? 爵位は低い。そのうえ、取り立てて優秀というわけでもない。何の利用価値もなければ役にもたたぬ」
殿下がズバリとラミアに言った。ちょ、ひどくない? 流石に人に豚っていう男だよっ!




