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学園入学

 あれから五年。

 領地に引っ込んで生活してたけれど。貴族子息令嬢の義務として通う王立学園に入学するため、戻ってきた。王都へと。

 そして、今日はその学園の入学式。

 豪華な正門の前に立ち、奥にそびえる校舎を眺める。

「まぁ、あの方はどなたかしら?」

「何と美しい」

「お茶会などで見かけませんわね?」

「今年入学するご令嬢に髪と目の色が合う方いましたかしら?」

 ふっ。ふふふふっ。

 だぁれも、私が五年前に豚と言われるほど太っていた公爵令嬢フローレンだって気が付いてないみたいね? 

 そうよね。

 領地に引っ込んで、ダイエットしたもの。完璧な天使ボディを取り戻すために。

 いや、まぁ、私は所詮悪役令嬢として幽閉されるために生きてるから、別に太ってようが構わないんだけれどね。

「お姉様、美味しいです」

 と、いっしょの物を食べてニコニコ笑う天使が私にはいるのよ。

 その名はイーグルたん。

 将来、イーグルたんが豚公爵だなんて馬鹿にされるのだけは我慢ならないっ! 

 そのために、イーグルたんのかんっぺきボディを取り戻すために、頑張った。

 幸いにして、公爵家の領地は海沿いの土地。魚介類はダイエット向きの食事! 

 海の幸万歳! カニは美味しかったなぁ。昆布で出汁を取ったスープも深みがあった。鶏ガラわかめスープもダイエットには最高だったな。新鮮な魚はちょいと焼くだけでご馳走。

 ……まぁ、米も味噌も醤油もないので若干物足りなかったけれど。

 ダイエットといえばオートミール。オートミールを米化してご飯の代わりに食べたよ。

 昆布出汁で米化するのはお勧めだよ。

 ん? ありゃ? 五年間の記憶をたどると、なんだか食べていた思い出しかないぞ? 

 いや、そんなはずは……。記憶の糸をたどる。

「いいこと、私はそのまま食べたいと言っているのよ、切ったら出しなさい!」

「お、お嬢様のご命令でも、こればかりは無理でございます!」

 ほら、ちゃんと食べた以外の思い出もある。

 料理長との激しいバトル。

「もういいわ! あなたがやってくれないならば自分でやりますわ!」

「お嬢様、お待ちください。皆、包丁を死守しなさいっ! それから護衛にお嬢様の行動監視を! ロッテンさん、すぐに旦那様に連絡をっ」

 すぐさま調理場にいた料理人たちが包丁やナイフなどを手に私から遠ざかる。

 そして、護衛兵たちがいつでも私の行動を制止できるようにと心持近づいてきた。

 侍女のロッテンは、承知したとばかりに大きく頷き調理場を出て行く。

「もうっ! どうしてよ! 大丈夫だって言ってるでしょ? 新鮮な魚であれば、問題ないの! この私が言っているのよ?」

「大切なお嬢様に万が一があってはいけません……肉や魚には必ず火をしっかり火を通すというのは、調理人の基本中の基本です」

 料理長の言葉に、調理人がうんうんと頷いている。

 争うこと三年。刺身抗争に、私は勝利することができなかった。

 くっ。残念すぎる思い出だ。ウニもいたのに。大量にウニが取れたのに。ウニ鍋しか許されなかった。護衛も監視が強すぎるわ! 

 断罪されて幽閉されるならば、海沿いの町の修道院がいいわね。

 新鮮な魚を差し入れてもらって……。幽閉されてる身なら、護衛の監視も緩むでしょうし……。

 ぐふっ。ぐふふっ。刺身を食べるわ! 海沿いの修道院に幽閉されて、自堕落な生活をしながら刺身を食べるわ! なんて素敵なんでしょう! 

 ああ、それまでに山葵とか醤油が見つかると嬉しいなぁ。想像だけでよだれが出そう。

「豚だろ」

 そうそう、山葵は肉の防腐にも使えたはずよね。水に溶かして肉を浸してから引き揚げ、山葵水コーティングするとちょっと長持ちするとか。

「おまえ、豚だろ」

 は? 私が好きなのは牛肉ですけど? 

 なんで勝手に豚肉が好きだって決めつけられてるんでしょうね? 

 声の主を探して文句を言ってやる! 

 と、校舎に向けていた視線を戻すと、目の前に黒髪に深い緑の瞳のイケメンが立っていた。

 あ、この顔。

「こ、皇太子……殿下っ」

 なんでこいつがここに! 

 いや、学園だし、同じ年の皇太子がいるのは当然だけど。たしかゲームでは入学と同時に生徒会長だよね。今頃入学式の準備で生徒会室とかにこもってるんじゃないの? 

 いや、そんなことよりも、だ。

「人違いではありませんこと?」

 こいつ、私のこと、豚って言ったわよ。

「私のどこが豚だとおっしゃるのですか?」

 何度も鏡を見たけど、もう太ってないよ! ちょっと太ってるけど現実から目を背けて太ってない太ってないって思いこもうとするタイプじゃなくて、本当に太ってないからね! 

「俺が、お前のことを見間違えるわけないだろ、ずっとお前のことを思って過ごしてきたんだ」

 はぁ? 私のことを思って? 

 まさか、まだハンバーガーを狙ってたのか? しつこいな! 

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― 新着の感想 ―
[一言] >オートミールを米化して  こんなのがあるんですね。知りませんでした!
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