レッド!
次の日の朝。
「お義姉様、これは……?」
食卓に並んだのは、色とりどりのおにぎり。
いろんな味を楽しめるように小さめサイズにしてもらっている。コンビニおにぎりの二回りくらい小さなサイズ。
……残念ながら米はないので、オートミールだけどね!
食べなれてしまうと、これはこれでまぁいけなくはない。
「海の幸のおにぎり尽くし! ラミアに持っていく痩せるメニューの試食も兼ねた朝食よ!」
イーグルたんがおにぎりたちを凝視して考えている。
「イーグルもおにぎり好きよね?」
米粒を……いえ、オートミール粒をほっぺたにくっつけて「お義姉たま、おいちいです」って言っていたイーグルたんの姿を思い出してニヨニヨする。あ、そのあと、ちゃんとほっぺたの粒は取ってあげた。「お義姉たまもついてましゅ」と、イーグルたんに倍の数の粒を取ってもらったっけ。
「お義姉様、おにぎりを、領地の特産品にと考えてますか?」
ん? その手があったか?
領地から持ってきた日持ちする海産物を使ったおにぎりたち。でも、見た目も味も地味よ? 売れる?
やっぱり、まずはあれからでしょう。パンに合うものからでしょう。
「いいえ、これはあくまでもラミアのためだけよ?」
ダイエット用だからね。
イーグルほっとした顔をしている。何? これ以上仕事が増えたらどうしようかと思った?
いや、だから誰か人を雇えば……という言葉は飲み込む。ヒロインと出会ってイーグルたんの不安が拭い去られるまではね。
学校に到着し、馬車の停車場所にはすでにラミアが立って待っていた。
手にはバスケットを持っている。
おう、あれが肌髪つやつやになる食べ物が入ってるのね。お昼が待ち切れない。でも、何が入っているのか尋ねるのは野暮ってものよね。
ラミアは私が馬車を下りると、侍女のメイの手に持つバスケットに手を伸ばした。
「お持ちいたします、フローレン様」
いやいや、自分のバスケットに加え、私が持ってきたバスケットを?
両手にバスケットを持たせるなんて流石に……。
「いえ、大丈夫ですわよ? 自分で運びますわ」
メイから受け取ろうとバスケットに手を伸ばすと、ひょいと目の前からバスケットが消えた。
「運んでやるよ」
レッドだ。
侯爵家なので馬車停車場所が近いのだろうか。馬車停車場所は爵位によって決まっている。歩く距離が短い場所が高位貴族。
「え?」
「ほら、そっちも寄こしな」
レッドは、ラミアのバスケットも手に取った。
お、おお。
「レッド様は男前ですわね」
公爵令嬢の私の荷物を運ぶだけでなく、ちゃんと子爵令嬢のラミアの荷物まで持ってくれるなんて。筋肉のくせに気遣いのできる男だ。
「はぁ? いや、あー……普通だろ?」
レッドがカーッと顔を赤くした。
普通かなぁ? むしろ、お猿さんジョージなんかラミアに荷物押し付けそうだけど。「なんで伯爵家の俺に荷物持たせるんだ、お前が持てよ」みたいな……。下手したら、浮気相手の女性の荷物までラミアに運ばせそうだよ。あ、妄想で腹が立ってきたわ。
「いえ、なかなかできることではありませんわ。自然に行動できるなんて、騎士道精神が身についていらっしゃるのね」
騎士たるもの、女性や子供をなんたらかんたらみたいなのあったよね。
「あはは、そういってもらえると荷物持ちを買って出たかいがあるな」
レッドが嬉しそうに笑った。
そういえば、レッドは騎士にあこがれを持っていたのだっけ。
うっかり褒めちゃったわ。悪役令嬢なのに好感度上げてどうする。下げなきゃ、評価。
「本当は、また食べられると思って荷物持ちを買って出たのではありませんこと?」
レッドがバスケットに視線を落とす。
「この中身はまたサンドイッチか?」
レッドの顔がぱぁっと明るくなった。
え? 本当に、別に食べ物のおすそ分けを期待していたわけじゃないの?
驚いて口が半開きになってしまう。
「え? 俺、なんかおかしなこと言ったか?」
「い、いいえ……」
びっくりした。裏表なく、爵位に関係なく、人助けできる人なんだ。あ、いや。ゲームの中では確かにそうなんだけど。それはヒロイン中心での話なのでまさか、悪役令嬢の私や、モブのラミアでも助けてくれるとはなんか……驚いた。
「サンドイッチではありませんわ。今日は、体によい食べ物ですわ。ラミアとお互いに教えあうことになっていますの」
バクバクとする心臓を知られないように、視線をラミアへと移す。
「は、はい」
ラミアが緊張気味に返事をすると、レッドがバスケットを上に掲げた。
「なんだ、今日は俺たちにはおこぼれはなさそうだな」
お預けを食らった犬みたいにしょげた顔をする。
……バスケットを運んでもらったお礼に少し分けてあげようかな。でも、今日はおにぎりだけしか持ってきてないからね。
三人で教室へと向かうと、途中でレッドが何かを思いついたように私の顔を見た。




