ヒロインまだー?
多分私が眼福ありがたしなんて思ってる気持ちと全然違うんだろう。家族を失ってこの家に来たイーグルたんを思い出す。
孤独な少年。家族だよといった時のあの時のイーグルたん……。
「私は、ずっとイーグルの家族だからね。たとえ離れて暮らしていても、私はイーグルの義姉だから」
イーグルたんの頭を両手でつかんで肩の上に乗せ、ぐりぐりとなで回す。
「いつまでも義姉では困るんですけどね……離れて暮らすつもりもありませんし」
ん? 何かつぶやいたけど、なんて言いましたか?
「あっ、そうだ、思い出したわ! イーグル、養鶏を始めましょう! 土地があれば養鶏場。土地が確保できないのであれば養鶏団地! 卵を大量生産するのよ! 卵はパン屋に欠かせないわ!」
イーグルたんが笑顔を顔に張り付ける。
え? 張り付いた笑顔……?
「僕はお義姉様のためなら何でもしますよ」
「イーグルたん、いつもありがとう」
イーグルたんの抱えている書類の束を見る。私、またイーグルたんの仕事を増やしちゃった?
……えっと、振り回してたりする? で、でも、ほら、私、我儘な悪役令嬢だから仕方がないのよ? え? 流石に甘えすぎかな……。
「夕飯は、新しい料理が食べられるからね? 期待していて?」
「はい。楽しみです」
今度は本当に笑顔になった。
「手伝うわ。いえ、イーグルが手伝ってくれてるんだったわね」
ん? なんかしっくりこないな。私が手伝ってるのか私が手伝ってもらっているのか。どちらもちょっと違う感じがする。
「手伝うとか手伝ってもらうじゃなくて……そうだ、二人で一緒に領地のために頑張りましょう」
「二人で一緒に……そうですね。僕とお義姉様の二人の共同作業。二人は一心同体。僕は義姉の手足。義姉は僕で、僕は義姉……」
さすがに私はイーグルたんを自分の手足としてこき使ったりしてないよね?
そのつもりがなくても、そう感じてる?
「イーグル、その、無理しないでいいからね? 専門家に頼むこともできるし、えっと、その、人を雇えばいいし、えーっと」
「僕は必要ない?」
イーグルたんが冷たい声を出す。
「僕はお義姉様に必要ないの? もういらない? そんなこと言わないで」
「ち、違う、単にいっぱい頼み事ばかりして悪いなぁって」
「僕が必要?」
「当たり前よ!」
「じゃあ、僕が必要だって、僕がいてくれないとダメだって言ってよ僕なしじゃ生きられないって……」
バサバサと音をたてて、イーグルたんの手から書類が落ちる。書類を手放したイーグルたんの両腕は私の背中に回った。
ぎゅっと抱きしめられる。
初めて会った時の、あのやせっぽちで折れそうな体の小さなイーグルたんが、こんなに成長したのか。
私よりも身長が伸びて、鍛えている体は筋肉がバランスよくついている。息ができないくらい強く抱きしめられる。力も強くなってきたんだね。
また家族を失うことにおびえているのかな? ……こんなイーグルたんを置いて修道院に行くなんて、私はひどい義姉だろうか。
「大丈夫よ……」
ヒロインと真実の愛に目覚めれば大丈夫。
ん? ってことは何だ?
殿下エンドでもレッドエンドでもルドリフトエンドでもなくて、目指すは義弟エンドなのでは?
イーグルたんのために私がすべきことは、ヒロインとイーグルたんの仲を応援することだったりする?
「イーグルが不幸なら、私は幸せになれないわ。だから、イーグルの幸せを私はいつも願ってる」
ポンポンと背中をたたくと、私を抱きしめるイーグルたんの手の力が緩んだ。
「僕は、お義姉様がいれば幸せだよ……だから、僕の幸せを願うなら、ずっとそばにいて……」
消えてなくなりそうな小さな声が耳に届く。
どうして、そんな不安げな声を出すのだろうか。私が修道院へ行こうと画策しているのを肌で感じている? だとしたら私のせいだ。
早くヒロインよ、イーグルたんの心を救ってあげて!




