レッツダイエット
「じゃあ、ラミア、明日のお昼にいつも家で食べているものを見せていただいてもよろしくて?」
「あ、はい。もちろんです。……あ、でも、持ってこられないものも……」
「もちろん持ってこられるものだけで構いませんわ」
刺身を毎日食べてたって、刺身は持ってこれないもんねぇ。腐ると困るし。生臭さが広がってもだめだし。あー、刺身食べたいなぁ。
刺身……マグロにサーモンにタイにヒラメに……。あ、そうだ!
まだ最上段にいる三人の元へと浮かれ気味の足取りで歩み寄る。
「どうした、フローレン。この後、時間ならあるぞ?」
殿下が微笑む。
「レッド様、お尋ねしたいことがありますの」
殿下、お前に用はないのだ。
「あ? 俺? 何が知りたい? 殿下の弱点なら」
ごすっと殿下がレッドの腹にこぶしを……って、これはもしかして男同士のじゃれあいなのか?
「いえ、兵というか軍の……、役に立たなくなった馬はどうしていらっしゃるのかと思いまして」
貴族と平民と軍じゃ、馬の扱いも別だろうと思って確認。
「は?」
「えーっと……」
レッドの服の裾を引っ張り、殿下とリドルフトとラミアから少し距離を取り背を向ける。
「軍馬は戦場などで負傷した場合はそのまま食料になさるの?」
血なまぐさい話だし、庶民は馬を食料には普通でも貴族からすると「犬を食べるようなもの」に感じるかもしれないと。不快な思いをさせないようにひっそりと尋ねる。
「……あ、ああ。よく知っているな。貴重な食料だ。……ただ、やはり愛馬に何かあってもとても食料になどできる自信はないが」
レッドが辛そうな表情をする。
「それで、その際に、生で食べることはありますか?」
馬刺し、馬刺しがあったよ。馬刺し! もうすでに食べてる人がいるなら、料理長を説得できるってなもんよ! そして、馬刺しも食べたい。ショウガのっけて食べたい!
「ありえんな」
あっさりきっぱりレッドが答えた。
「え? で、でも、その、火を起こすわけにいかない状態とか、その……」
「そこまで切迫している状態で馬をさばく余裕があると思うか?」
うっ。確かに!
「それに、弔いの意味を含めて口にするのだ。丁寧に扱うのは当然。肉を切り裂き生のままかぶりつくなど……そのようなこと」
なんだかレッドが号泣しそうになっている。愛馬の死を想像しちゃったのか。
「わ、分かりましたわ。教えていただいてありがとうございます!」
めんどくさいことになる前に立ち去ろう。
「ではごきげんよう」
ぺこりと頭を下げて段を降りていく。
私の後ろにはラミアが続く。
「おい、フローレン、俺に用があるんじゃないのか? 時間なら」
「殿下、生徒会の仕事があります。時間はありません、行きましょう」
「レッド、お前、俺のフローレンとなんの話をしたんだ?」
「愛馬の話です」
「は? まさか、愛馬に乗せてくれとか? 遠乗りの約束したんじゃないよな?」
ん? 後ろが騒がしいけど、なんの話をしているんだろう。
「はぁー」
大きくため息が漏れる。
「フローレン様、どうなさったのですか?」
ラミアが心配そうな目を向けてくれる。初日のあの憎しみのこもった目はどこへやら。
「馬刺し文化、なかった」
「?」
「いえ、明日のお昼楽しみですわ。私も、痩せる食べ物を持ってきますわ」
迎えの馬車まで、ラミアは空になったバスケットをもってついてきてくれた。自分で持つと言ったけれど、かたくなに拒否られた。




