補正
「そ、そこまで……その、殿下は不敬だと言う様な方ではありませんよ?」
あれ? 確かに。私はなんでそこまで頑ななのかな?
うーんと考える。
「女の嫉妬は怖いのですわ。殿下を手に入れようとする女性に三年後、このことを掘り起こされて、皇太子殿下を練習台にさせた不敬行為を行った罪で私は断罪されるかもしれません」
「いや、それを言うなら、食べさせた俺が罪に問われるんだろ?」
「いいえ。なぜか、レッド様やリドルフト様をそそのかした悪の根源として、私が罪に問われるのですわ。いくら私がそんなことはしていないと言っても、証拠はそろっていると言われて……しかも、ドライイーストは未知の調味料。もし、殿下がおいしさのあまり食べ過ぎてお腹を壊してしまったとしても、調味料が原因だった、毒に違いないと……。私は皇太子に毒を盛ったと言われかねませんわっ」
あり得るわ。十分あり得る。悪役令嬢補正を侮ってはいけない。
修道院に引きこもり快適幽閉コースはありがたいけれど、さすがに皇太子毒殺未遂なんて加算されたら、国外追放とかもうちょっと重い処罰が下りかねない。それはさすがにノーサンキュー。
ああ、そうか。そういうことか。
殿下に関わることは、のちの冤罪断罪内容に影響する。だから下手なことはしない方がいい。だから、きっと、こんなにも殿下に関しては頑なに拒否したくなるんだ。……よね?
「いい方法がある、フローレン、婚約したらどうだろう? そ、そうすればその……嫉妬しても仕方がないだろ? すでに俺はフローレンと婚約してる状態なら」
何、閃いた! みたいな顔してるのか。
私がむっとすると、リドルフトが慌てて、殿下の腕を引っ張って、内緒話を始める。
「でっ、殿下ぁぁ! 何言ってるんですか、今のはどう聞いても、パンが食べたいから婚約すると言っているように聞こえますよ」
「え? え? あ、あ、ああああっ」
殿下の絶叫がこだまする。それからちょっと涙目になりながら殿下が私の前に来て頭を下げる。
「フローレン、すまない。やっぱりパンが食べたいからと婚約は無理だ」
当たり前だ! 何の話だ、何の!
「仕切り直してくれ。お、俺は……俺は、その、初めて会ったとき……いや、会う前から、初めてフローレンを見た時から、その」
昼休み終了を告げる鐘の音が鳴り始めた。
「あら、昼休みは終わりのようですわね。急ぎましょう。あ、レッド様リドルフト様、お願いしたことはよろしいですわね? 殿下には……いえ、王室に渡すようなことはしないと誓っていただけますわね?」
二人がこくこくと頷いた。
教室に戻ると、ラミアを三人の令嬢が取り囲んでいた。
ラミアは俯いている。ちょ、何があった。
ラミアの元へと近づこうとしたら、取り囲んでいたご令嬢の一人が私の前に立った。
「フローレン様、ちゃんとラミアにはよく言い聞かせましたわ」
は?
「公爵令嬢とあろう者が、子爵令嬢のせいでこのような前方の席に座ることになったのですから」
「そうですわ、フローレン様、私たちは侯爵家と伯爵家の者ですから、後方の席に問題なく座ることができますわ」
何の話? 自由席でしょ? だから、私は自由に真ん中くらいの席に座ったんだけど?
さぁさぁどうぞとばかりに、上の段へと連れて行かれる。
その場に残されたラミアの周りにはさらに別の令嬢たちが集まり取り囲み始めた。
「まったく、ちょっと牛肉人気で領地が栄えてて陞爵したからって、いい気になってるんじゃないわよっ」
「そうよ、子爵令嬢風情が、公爵令嬢フローレン様のおそばに居られると本気で思っていらっしゃるの?」
「しかも、あなたのようにブクブク太った醜い令嬢が」
「フローレン様に恥をかかせる気なの! 一緒に歩いているだけで見るに堪えない光景だわ!」
聞こえてますよ。
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