たがために
「はい。俺も殿下に賛成。フローレン様は優しい女性で、裏があるわけないよ」
レッドがサンドイッチを口に入れる。いったいいくつ目だ。
「裏のある令嬢がこんな美味しい差し入れしてくれるわけないじゃん」
……。いえ、裏だらけですよ、この差し入れに関して言えば。
こりゃ、レッド、ヒロインに胃袋つかまれて速攻篭絡される感じですかねぇ。
「まぁ、裏があろうがなかろうが、ラミア嬢にとって助けになることは間違いないのですから、フローレン様の行動は賞賛しますけど」
リドルフトはそう言い殿下の機嫌をうかがった。
「昼休みは無限ではございませんわ。試食して気が付いたことを何でも教えていただけませんか?」
と、言った瞬間殿下が口を開いた。
「これ、何て言う名前の料理だ?」
あら? まだ、教えていませんでしたか?
「このようにパンで何らかの具を挟んだものをサンドイッチと言います。ハンバーガーとの違いはパンの形状ですね」
日本ではだけどね。
本来はパンでサンドしたものは全部サンドイッチ。ハンバーガーもサンドイッチの一種。アメリカでは牛一〇〇%のパテを挟んだもののみをハンバーガーと呼ぶとかフィッシュバーガーとかはハンバーガーにあらず。……パンすら使わないライスバーガーなんてのも日本ではあるので日本流だと本当に「形」だけの分類だよね。まぁ、ほら、日本人は食事は目でするとか言うし。見た目大事。
「なぁ、この中にはさんでいあるやつ、肉だよな? これだけ食べても美味そうなんだけど」
いいことに気が付きましたねレッド。
そう、そのまま食べても美味しいです。
「牛カツですよ。牛カツのサンドイッチ、これは牛カツサンドです」
私の言葉にリドルフトがサンドイッチのパンをめくって牛カツを凝視する。
「牛肉……にしては、ハンバーグにしていないのにずいぶん柔らかい。それにジューシーだ」
それは企業秘密としておきましょうか。だって、うちの領の特産品とは関係ないし。
とにかく、この世界の牛肉は硬い。安い焼肉屋の肉より硬い。焼いただけの肉なのにビーフジャーキーか! という硬さになる。いや言い過ぎだけど。柔らかくするためにミンチにしてハンバーグにして食べるのにもさすがに飽きた。で、思い出したのがミルフィーユ。
柔らかい肉が食べたくて作ったんだもの。そりゃミルフィーユカツは柔らかいのよ。薄切りにしたお肉を何枚も重ねる。間に牛脂も挟んであるからジューシーだしね。
「この肉の周りの黄色っぽいの何だ? サクッとして上手い、あと、ソースもめちゃくちゃうまいあと、それから」
レッドが立て続けに質問を口にする。
カツはいろいろなものに応用できますよ。ハンバーグっぽいもので作るメンチカツ、いろんなコロッケ、それから領地ではアジフライにエビフライ……他にもいろいろと。あ、想像だけでよだれが出そう。ソースは料理長が三か月の歳月をかけて作り上げたものです。詳細レシピは知りません。
「ふふふ、皆さまは、お食事でおいしいものが出るたびにそのように作り方を知りたがるのでいらっしゃいますか?」
私の言葉に、料理のあれこれを根掘り葉掘り聞くことがあまりマナーとしてよろしくないということを思い出したようだ。
「いや、ここまで美味しい物を食べたのは初めてだったのでつい……。失礼しました」
「ああ、悪かった。マジでうまくてなぁ。また食べたいと思うあまり」
そうそう、食べた過ぎて人の食べてるハンバーガーにかじりついた前科持ちもいますけどね。それよりはましですけどね。ちらりと殿下を見る。
「フローレンの考える料理はどれもとてもうまいんだ。俺の言った通りだったろ?」
なぜかドヤ顔をしている。どうして殿下がドヤるんですか!
サブタイトルの「たがために」は「誰がために」のことなんですけど、「誰がために」を「だれが」と読まれると、イメージが違っちゃうので、ひらがなにした。




