利用価値?
「まさか、皇太子殿下という立場であれば、嫌がる女性などいないとお考えですか?」
そういえば、昔「俺と婚約できるなんて嬉しいだろう」と疑いもなく言ってたな。
殿下が大きく頭を横に振った。
「いや、そんなつもりは……その、つい……」
「つい? 私が女性だということを忘れていたとでも? 殿下の目には豚に見えていらっしゃるんですものね?」
嫌味をにこやかに繰り出すと、殿下の顔が赤くなったり青くなったり白くなったり。イケメンなのに、残念なことで。
「あまりいじめないでください……」
なぜかリドルフトにお願いされた。
「あら? いじめられているのは、豚だと言われる私の方ではなくて?」
首をかしげるとレッドがポンッと手を叩いた。
「そうだ、フローレン様すげーな。まさか子爵令嬢を一番に陣営に引き込むとは思ってなかったよ。あれだろ? いじめられないように盾になってやろうというんだろ?」
え? ラミアのこと? いじめられないように盾に? そんなつもりは毛頭ないけど。
「太っているというだけで、社交界でいろいろ言われていたみたいだからなぁ。黙っていられなかったんだろ?」
レッドの言葉に首をかしげる。
いえ、あの子の方から弟子入りさせてくれと付きまとってきたんですけど……。盾になるもなにも、取り巻きがいたほうが悪役令嬢っぽいだろうからと、利用するつもりで……。
「最近めきめきと台頭してきた子爵家を取り込もうとしているだけではないのか? 王都の隣の小さな領地とはいえ、主要産業が牛肉ということでハンバーグ流行以来の成長は目覚ましい。この料理にも牛肉が使われているだろう?」
リドルフトがサンドイッチに視線を落とす。
あの子の領地、牛の産地なの? 牛がいっぱいいるってこと? 王都の隣の領地って、日帰りできる距離だよね? そこで牛? 王都への牛肉の供給地なの?
「利用できそうだから彼女に近づいた……と、リドルフト様はおっしゃるのですか?」
そうじゃないけど、これからはそうする。言い情報ありがとう。
感謝の気持ちでリドルフトに顔を向けると、殿下がリドルフトに腹パンした。これこれ。
「フローレンに失礼なことを言うな!」
ちょ、全然失礼じゃないし。
「フローレンは純粋に、豚と言われていることに心を痛めて子爵令嬢を助けようとしただけだ! それというのも、俺が過去にフローレンに誤って豚と言ってしまったことで深い傷を負わせてしまったせいで……。フローレン……すまない。君を豚だと思ったことなど一度としてない。豚だと思ったから豚と言ったわけではないんだ。何度も言い訳がましいかもしれないが、緊張しすぎて……つい」
おい、ついじゃねーよ。
今、何回豚って単語出したよ? 一度も豚だと思ったことがないのに、よくもまぁ、何度も何度も人のこと豚豚いいますね?




