サロン
「フローレン様、荷物をお持ちいたしますよ」
リドルフトがひきつった顔をする。
しまった! エスコートじゃなくて、荷物のほうだったか!
なんか、お手をする犬のように、手を差し出されたらちょいと乗っける癖がついていたわ。
「あら、ごめんなさい。イーグル……義弟がいつも手を差し伸べエスコートしてくれるものだから、つい……」
家の中でも、どこでもエスコートしようとするのよね。あの調子で学園で女性たちをエスコートしまくったら、モテモテになるわよね。天使のような微笑みで、お手をどうぞお嬢さんなんて……。あら? イーグルたんってそんなキャラだったかしら?
慌ててリドルフトの手に乗せた手をどけると、代わりにバスケットを手渡す。
すると、殿下が私の前に手を差し出した。
「もう、持っていただくような荷物はございませんけど?」
首をかしげると、後ろでレッドが噴き出した。
「ぶはっ。いや、すまん、フローレン様、素ですよね? これは確かに殿下の言うようにほかの令嬢とは違うよな」
殿下……ちょっと側近にいろいろなことしゃべりすぎなんじゃない? 一体、どういう話をしてるっていうのか。
こんな腹を抱えて笑われるようなこと……した覚え……。いえ、殿下にハンバーガーを奪われないようにと逃げ回ったり、急いで口に押し込んだりしましたけど。
あれは、奪うほうが悪いと思う。反省はしていない。
……というか、今になってみれば、ひそかに兄弟喧嘩みたいでちょっと楽しかったというのは内緒だ。
「エスコート……だ」
殿下ぼそりとつぶやいた。
「必要ありませんわ。先ほどリドルフト様の手には思わず反射的に体が動いてしまっただけで。誰かにエスコートしていただかなくては移動ができないというわけではございませんの。お気遣いありがとうございます。では、まいりましょう!」
すたすたと先陣を切って歩き出す。
「こりゃ手ごわい」
「五年ぶりに会うことはできたのですからこれからですよ」
「そうそう、会話もしてくれるじゃないか、な?」
ぼそぼそと三人が会話している声が聞こえる。何を言っているのかわからないけれど、私のこと?
こうして学食に到着。教室のある校舎とは渡り廊下でつながった別棟。
学食というよりも、レストランのイメージに近いだろうか。いや、ホテルの食堂かな。
特にメニューもなく、皆同じものを食べるところは給食に近い。
学食の奥にいくつかの個室が設けられている。全部で五つ。ゲームの中では個室はサロンと呼ばれていた。
生徒会執行部が使用する部屋意外は、誰でも使用できるものの、上位貴族の定位置があった。生徒会の隣の部屋は公爵令嬢フローレンのサロンだった。取り巻きと一緒に食事をしてたわけね。時折食堂では出ないお菓子や珍しいお茶を振る舞うプチお茶会を催し、取り巻き以外の人間を招待して派閥を形勢していったのよね。
部屋に入ると、すでにテーブルには食事が準備されている。
何がすごいって、私の分まで並んでいるということだ。私も向かうとどこかで情報を入手して素早く手配したのだろう。スタッフ優秀だね。
「初日のメニューはハンバーグだな。ドゥマルク公爵考案のメニューが初日を飾るとは名誉なことだろう?」
そう? 名誉なの? リドルフトの言葉に首をかしげる。
ご覧いただきありがとうございます。
……(*´ω`*)




