男の友情は殴り合い
と、少々イライラしたりすることもありつつ、初日の授業だし先生とも初対面でいろいろ噂もしたいだろうし、わからないことだらけで相談したいこともあるに違いないとと諦めつつ、午前中の二限が終わる。一限が朝九時から十時半、二限が十時四五分から一二時一五分、一二時一五分から一時半までが昼休みで、一時半から三時に三限目がある。……というか、三限しかない。たった三限しかない。びっくりするよね。
「さあ、待ちに待ったお昼ですわよ! ふーっふっふっふ。ラミア、バスケットをちょうだい」
ラミアからバスケットを受け取ると、スキップしそうなのを抑えて殿下の元へと足を運ぶ。
「な、なんだ、フローレン、俺に用事か?」
殿下に首を振って見せる。
「リドルフト様、生徒会の皆さまはお昼はどちらでいただくのでしょうか?」
殿下が驚いた顔をしている。
「なっ、リドルフト、お前、フローレンと知り合いだったのか? 昨日まで、俺がいくらフローレンの話をしても会ったことがないので分かりかねますがとか言っていたじゃないかっ!」
リドルフト様が、なぜ自分に声をかけたんだという恨みがましい目つきで私を見る。
「あら、知り合うには一日あれば十分じゃありませんこと? ねぇ、リドルフト様。ただ、婚約の申し出を会ってすぐにされるとは思いませんでしたが」
と、事実を口にしただけなのにリドルフトが青ざめた。
なんだよ、言ったことを隠したいくらいなら初めから言わなきゃよかったのに。
「リドルフト、お前……フローレンがあまりにも美しいからって、一目ぼれしたのか? こ、婚約の申し出とは、どういうことだっ」
あら? 殿下の口から私が美しいという単語が出ませんでしたか?
聞き間違い? 殿下は私を美しいと思っている? え?
「いやー、本当にびっくりしたよなぁ。公爵令嬢フローレンっていえば、デブで不細工って聞いてたからさぁ。うちの姉もお茶会で初めて見た時は驚きすぎて声をかけることができなかったつってたくらいだし。なんでもピンクのドレスを着た立派な豚がいるようだったって」
殿下の側近その二。攻略対象でもある次期騎士団長だとも将軍だとも噂されるレッドが口を開く。
「なぁんで、そんな女のこと殿下は気にしてるのかと思ってたら、噂とは全然違う美人だもんなぁ。そりゃ婚約者いないなら是非にって思……ぐふっ」
殿下が、レッドの腹にこぶしを入れた。
ちょ、何してるの。
「よくも、フローレンを豚だなどと言ったな! 謝れ!」
おい、お前の口がそれを言うか?
もしかして、自分が豚だと言ったことで私が豚だと噂が広がった責任を感じている? としても、再会したときの豚発言は帳消しにならないからね!
「そ、それに、フローレンに婚約の打診など……そんなことは……俺の許可もなく、許さないからなっ! リドルフト、お前もだぞ!」
殿下……。もしかして、側近の婚約者に私が収まることには反対なのかな。
だから、冗談とはいえ勝手に私に婚約を申し込むことに怒っている?
リドルフトもレッドも大変だねぇ。婚約するにも殿下の認めた女じゃないと駄目だなんて。……ん? ってことはヒロインを取り合うときどうするのかなぁ。「彼女を任せられるのはお前しかいない。彼女のことを頼んだ」みたいなやり取りが裏であるのかな? あるよな。うん。殴り合いとか裏でしてそうだ。男の友情は殴り合いだもんなぁ(偏見)。
リドルフトとレッドが視線を合わせため息を吐き出す。
それから二人で、殿下の肩をポンポンと叩いた。
「いつだって、私はエドワードの味方ですよ」
「そうだ。お前の気持ちはよくわかってるからなぁ。ふ、ふ、ふ、まぁせいぜい頑張れ」
うん、仲よさそう。




