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子供お茶会にて~ぶたぶたこぶた一家の出来上がり


 ――なんて、思っていたころもありました。

 そして、事件は起こった。あれは、初めて王宮での初めてのお茶会のこと。九歳でしたわね。

「おい、豚!」

 あらいやだ。どこに豚肉が? 

 ……なんて事件が起こるまでの私の生活を思い出してみよう。


 イーグルたんが来た五歳から九歳までの生活。

 この世界、野菜を使った料理はとにかくまずい。

 その結果、悪役令嬢として我儘いっぱい食事にはダメ出しをさせていただきましたよ。

「こんなまずいもの食べられないわ!」

「この私に、このような物を食べさせようというの?」

「私が食べたいと言うのよ、さっさと持ってきなさい!」

 うふふーん。めっちゃ悪役令嬢よね。この調子で「幽閉コース」へまっしぐら。

 夢の読書と刺繍の引き籠り生活ゲットよ! 

 まぁ、それで、食べてた物と言えば、蜂蜜をたっぷり塗ったパン。ジャムをたっぷり載せたパン。砂糖でコーティングしたパン。

「おねーしゃまおいしいでしゅ」

 と、食の細かったイーグルたんがもりもりとパンを食べてくれる。

 さて、パンの他には肉をメインとした食事をしております。

「ぼく、もういいでしゅ」

 あれ? お肉よ? 焼肉よ? ステーキよ? 

 イーグルたんが、お肉をあまり食べてくれない。どうしてなの? 男の子は肉でしょ? まだ四歳だから? でももうすぐ五歳よ? 

 首をかしげる。

「お肉嫌い?」

 分からないので尋ねてみた。

「おにくしゅき。でも、かみかみつかれちゃうの」

 は! 

 確かに、実は気になっていた。

 公爵家の財力を用い、最高級の肉を手に入れているはずなのに、固い! めっちゃ固いんだよ! 

 最高級の牛肉なのにぃ! この世界の価値観、肉は硬ければ固いほど高級とか言わないよね? ! 

 ぐぬぅぅ。くっそ固い肉め! 成敗してくれるわ! 

「お姉様に任せて! 料理長を呼びなさい! こんな固い肉を公爵令嬢である私に食べさせるなんて許しませんわ!」

 悪役令嬢なので。料理長を呼びつけてクレームをつけるなんて、どってことないわ。

 イーグルたんに柔らかくておいしいお肉を食べさせたい。

 いっぱいいっぱいたべて、健康優良児になってもらわなくては! 

 ふんぬっ! 

 てなわけで、ミンチにしてハンバーグを作らせた。

「お義姉様、これなら僕にも食べられましゅ」

 したったらずがなくなってきて成長を見せるイーグルが肉をたくさん食べられるようになった。

「お姉様、お肉……お代わりほしいです」

 もじもじと顔を赤らめながらイーグルたんが小さな声で呟いた。

 お、おかわり! 

 あの食が細かったイーグルたんがおかわり! 

 ……って、まぁ、甘いパンはもりもり食べてますけど。お肉をお代わりなんて初めてのこと! 

 ふおおおおっ! と感動しながらどんどん持ってこさせる。お父様も何度かお代わりしてがつがつ食べている。

「素晴らしい、フローレンこのレシピを我が公爵家考案として登録するぞ」

 ん? レシピを登録? クックパックンみたいなやつでもあるんですかね? 

 そんなこんなでハンバーグに、肉団子、ミートボール、つくね……と。ミンチ肉料理が我が家の定番。

 まずい野菜もすりおろして混ぜてしまえばそこそこ食べられるんですよね。栄養大事。

 こういうのが食べたいと言えば、料理長が研究開発してくれるので、ついに柔らかいパンも焼いてくれるようになって、ハンバーガーも食べられるようになりました。くふふ

 酵母作って膨らませても柔らかいパンにはならないんだよ? っていうか、酵母ってビールで十分で、エジプト文明とかずっと昔からパンは膨らんでた……。なのに固い! 柔らかくするにはちょっと高い材料混ぜないと駄目なのよね。公爵家でよかったわ! ほーほっほっほ。金に物を言わせ玉子やら牛乳やら砂糖やらバターやら色々混ぜてパンを焼くように料理長に命じたら、いろいろ美味しいパンが出来上がりました。分量とか全然私は知らないので、料理長が三年の月日を費やして作り上げてくれた。

 

 まぁ、と言う感じで過ごしたんですよね。

 私は九歳。イーグルたんは、先日誕生日がきて八歳になったところです。

 九歳になった私は、初めて王宮の子供お茶会なるものに招かれることになりました。

 ちなみに、一五歳一六歳一七歳が漫画の舞台となる貴族たちが通う学校。

 社交界デビューも一五歳。で、その一五歳になる前に子供達を交流させたり、プレ社交界としてマナーを実践したり、色々な理由で九歳から子供お茶会が開かれるんですよね。参加するのは、九歳から一四歳の貴族の子息令嬢。

 一応家庭教師なりなんなりついて、九歳になるまでにある程度のマナー教育は受けるものの……。

 前世で言えば、九歳など小学校低学年のガキです。

 走っちゃ駄目なのに、走り回る男の子たち。

 大声を出しちゃだめなのに、大声で騒ぐ女の子たち。

 うん。ここは小学校か? 

 一三歳一四歳の子たちなんて……。

 すでに色目を使う女の子や、退屈だからとゲームを始める男の子……。いや、その年齢でも男の子のが精神年齢低いですわ。さすが中学生。

 そんな子供達を横目に、私は大人しく会場の隅に用意された食事をつまんでいた。

 茶髪の令嬢に絡まれたりしたけれど、私が公爵令嬢だと分かると蜘蛛の子を散らすように厄介な人たちはいなくなった。

 てなわけで、テーブルの横に立って果物を口に運んでいたときのことです。

「おい、豚!」

 唐突に声が聞こえてきた。

 うん。豚肉料理なんてあったかな。いや、いろんな料理が並んでるのは知ってるけど、不味いだろうなって思ってあんまり真剣に見てなかったんだろうな。このブドウはなかなかの味。もぐもぐ。

「おい、無視するな! この俺様が話しかけてやってんだぞ!」

 ……と、肩をつかまれた。

 はぁ? 

「申し訳ございません、私豚肉料理には興味がなく、話しかけられているとは気が付きませんでしたわ」

 ったく。誰だよ。

 口にいれたブドウをごくんとよく噛まずに飲み込み、にこやかに笑って失敬な人間に対応する。

 仕方ないわ。ガキの集まりだもんな。私は大人。大人の私が我慢しないと。

 振り返ってみれば、金髪に碧眼の一〇歳前後のぽっちゃりした生意気そうなガキがいた。

 顔の作りは悪くない。痩せれば美少年なんだろな。

「気が付かないわけないだろう! 豚なんてお前以外いないだろう!」

 何をいっしゃる。私の目の前のお前こそ豚じゃねぇか。ちょっとまだ肉付けは足りないけれども。

「申し訳ございませんぶひっ」

「は? 馬鹿にしているのか?」

「ぶひぶひ」

「おいっ!」

「私はあなたから見て豚のようですので、豚らしく対応しませんと失礼かと思いましてぶひ」

 ぽっちゃり君は、ふっと目を細めて私を見下した。

「謝罪は受け入れよう」

 は? 

 私、何か謝罪しました? めっちゃ馬鹿にしたつもりですけど? 

「うむたしかに、俺が豚と言ったことで、真に豚になり切ろうとするのは謝罪として誠意ある対応であろう。ぶひぶひというのは申し訳ございませんという意味なのだろう?」

 ……大丈夫か? 誰かしらないけど、このぽっちゃり君。

「何の御用でしたでしょうか?」

 面倒くさい臭いしかしないので、さっさと用件を済ませて逃げよう。

「お前と婚約してやる。ありがたく思え」

 は? 

「そうか、嬉しいか。豚の分際でこの俺様と婚約ができるんだもんな。ぶひぶひ鳴くがいい!」

 なんで、私と婚約? 

「申し訳ございませんが、子供たちだけで決められることではないと存じます。失礼いたしますっ」

 すぐさまその場を立ち去る。

「待て!」

 ぐっと腕をつかまれた。

 レディに向かって豚と呼ぶような方と誰が結婚するもんですか! ぜったいいやだわ! 何様だよ、お前! 私は悪役令嬢様だぞ! 

 と、心の中で悪態をついて捕まれた腕を振りほどいて会場を後にする。

 怒って家に帰った私を、お父様とイーグルたんが出迎えてくれた。

「どうだったかい、初めての子供お茶会は」

 どうしたもこうしたも、失礼な人に絡まれて散々でしたわ! わざとぶつかってくる令嬢はいるし。

 天使の私に向かって豚とかいうやつはいるし。

 ……。

「はあーーーー! ! 嘘、嘘でしょう? !」

 ガラスに映った大天使、天使、超天使の三人の姿に驚愕する。

 うそ。あの映像は何? 

 豚、豚、子豚……が、映っている。

 え? 

 驚いて、大天使なおとうさまに視線を向ける。

 ……太ってる……少しずつの変化で気が付かなかった……。いえ、気が付いてはいたんですよ。少しふくよかになってきたなと……。でも、まだイケオジからはみ出てないと、現実から目をそらして……。

 超天使のイーグルたんに視線を向ける。

 ほっぺたがもちもちでなんて可愛らしいのかしら! 

 ……って、八歳児がこんなもちもちほっぺって普通だったかしら? 

 わ、分かってます。本来なら、ぷっくぷくのもっちもちを卒業してしゅっとしてくるころだというのは……でも可愛いからいいじゃぁい! と、これまた現実から目をそらしておりました。

 そして、わ、た、し。

 日々洋服のサイズが変わっていたけれど、成長期だし、こんなもんだと……現実から目をそらしていました。

 だって、誰も、太り過ぎだとか言わないんだもん。

 可愛いですとしか言わないから……言わないから……。

 あの、失礼なぽっちゃり君に言われて初めて気が付いた。

 ぽっちゃり君など、私たち豚豚子豚の三匹に比べたら、ぽっちゃりなだけだわ。

 豚……立派な豚が……。

「ぶひー!」

 これではいけないわ! 

 ……って、何がいけないのかしら? 

 別に、引き籠り幽閉生活送るのに、スタイルなんて気にする必要はないのよね……。

 別に問題ないわ。

「お姉様どうなさったのですか? さっきからあっちを見たりこっちを見たり。嘘というのは?」

 かわいい超天使なはずなのに、イーグルたんの背中に見えるのは天使の真っ白な羽根ではなく「ぶひぶひ」という効果音。

 ぎゃーっ! 

「何か嫌なことでもあったのかい?」

 イケオジ大天使なはずなのに、頭から光差す代わりに、ピカピカお顔の脂が光っている。

 ぎゃーっ! 

 このままでは、お父様とイーグルたんの人生を台無しにしてしまう! 

 イーグルたんは学園に通うようになると、豚公爵令息とか言われて虐められちゃうんだ。

 婚約者が見つからなくて、なんか婚約した女性はかわいそうな犠牲者だと思われちゃうんだ。

 こんなに可愛くていい子なのに! むきーっ! ゆるさんっ! 

 悪役令嬢の私が色々言われるのは構わないけれど、イーグルたんを馬鹿にさせるものですか! 

 お父様だって、誰にも馬鹿にさせないわ! 

「ダイエットよっ」

 思い返せば、甘いパンと肉中心の生活が良くなかった。

 贅沢しているはずの貴族たちですらスマートなのは、食事がまずいせいだったのだ。まずいは正義。まずいは必要。まずいは……

 やだーい! いまさら不味いものなんて食べたくないっ! 

 ぶひぃ。ぶひぃ。

 おっと失礼。身も心も豚になってしまうところでした。

 とにかく、ダイエットしなくちゃ。ぐぬぬっ。

「ところでフローレン……もしかして、会場で婚約の打診とかなかったかい?」

 お父様が声を潜めて聞いてきた。

 イーグルたんが真っ青な顔になっている。

「は? ありませんでしたわ……いえ……そういえば……」

 なんか思い出したぞ。

「婚約してやる、ありがたく思えとか言われたかも」

 私の言葉に、お父様も顔を真っ青にした。

「なんだと! 私のフローレンに何と失礼な! 絶対に許すものか!」

 お父様が激怒した。豚って言われたことは黙っておいてあげるわ。親切親切。

「どこのどいつだ?」

 知らない。

「えっと、黒髪に、こげ茶の目をした一〇歳前後の……」

「ふっ、任せておきなさいフローレン。いくら相手が王室でも、好きなようにはさせない」

 って、王室? 

 もしかしてあのぽっちゃり君は王族だったのか。

 ……まぁ知らんけど。どうせ私は悪役令嬢として皇太子に幽閉されちゃう運命なんだから、失礼の一つや二つへっちゃらだし。なんなら、不敬だ! と、学園入学前に幽閉されちゃっても、へっちゃらだし。コミュ障だから、学園で他の貴族の子たちとうまくやる自信もないし、なんかもう人と顔を合わせて会話するだけでストレスだし。

「もちろん、フローレンには指一本触れさせん!」

「あ、そうだ、お父様。しばらくイーグルと一緒に領地に戻って、海沿いの別荘で生活したいんですけど」

「何故だ、突然!」

 ダイエットですよ、ダイエット。

 別にもう子供お茶会には出たくないという理由じゃないですよ。ええ。ええ。まぁ、出ないですむなら喜んで田舎に引っ込むけど。

 海沿いの別荘には理由がある。ダイエットするなら、肉より魚! 流通網が整っていないこの世界で魚を堪能するには、自分が魚の方に移動するのが一番。

 肉断ちからの、おさかなダイエットですわ! 

 残念ながらお父様は王都で仕事があるので一緒に行けませんが……。

 でも、だいじょーぶ! 

「ああ、それから、この屋敷の料理人は連れて行きますので、しばらくお父様は外食で御願いします」

 外食イコール、あんまりおいしくない食事で食欲減退、これでお父様のダイエットは完璧なはず。

 スパルタですが、仕方がありません。

「え、え、えええええ? ! フローレン、ど、どういうことだ?」

 てなわけで、海沿いの別荘生活の始まりです。一か月後には立つことが決まりました。


「おい豚、一体どういうことだ!」

 どういうことだと聞きたいのはこちらの方ですけど? 

 なんで、皇太子がうちを尋ねてくるわけ? 

 お断りしたのに、来るわけ? 

 家人を振り切って部屋に突入してくるわけ? 

 別荘出発前で忙しいんですけど、もぐもぐ。

「豚、聞いてんのか? なんで、先週の子供お茶会に来なかったんだ!」

 先週? ああ、そういえば、子供お茶会は定期的に開催されてましたね。一月に一度だっけ、二度だっけ。たいていの子供はできる限り参加するんだっけ? 領地にいて王都が遠いとか、病弱だとか、ドレスなどにお金を回せないだとか、そもそも出入り禁止だとかそういう事情がないかぎりほぼ参加。

 参加は強制じゃないものの、貴族同士のつながりを強めるためと、マナーなどの勉強をするためにと通い続けるのが普通。

 知るか! 

 貴族同士のつながりなど強めたって仕方ないじゃないか。一〇年もしないうちに……正確には、あと七年ほどで私は幽閉されるんだ。しかも、しっかりつながりを持ったと思った人たちに裏切られる形でだよ? 

 ばかばかしい。はっきり言って、出席する意味がないどころか、出席することの労力が大損だわ。

「ぶひぶひ」

 誰が行くもんか、ばーかばーか。と、心の中で悪態を続けながら食事を続ける。

「何しに来たと思っているだろう?」

 はっ。まぁ近からず遠からず。超能力でも持ってるのか! 

「俺をじらす気か?」

 は? ぼっちゃり君が私の両肩をつかんだ。

「俺をじらして、結婚するのにより良い条件を引き出すつもりか?」

 ばっかじゃねぇのか! 

 どこをどうすればそう言う結論に達するんだ! 

 婚約も結婚もしないって拒否られたって理解できないの? 

 じらす? 

「お、お姉様は、殿下とは結婚しません。お父様もそう言っておりました」

 イーグルたんが、私をかばうように前にでて殿下を睨みつける。

「なんだ、この子豚」

 な、な、イーグルたんを子豚ですって? 

「かわいいな」

 ぽっちゃり君が目じりを下げて笑った。

 へ? 殿下が、私の超天使豚のイーグルたんを見て、可愛いって、可愛いって言いましたか? 

「そうでしょ、そうでしょ? イーグルは可愛いでしょ?」

 おっと。相手になんてするつもりがなかったのについ反応してしまいましたわ! くっ。だがいい。皇太子、存外悪い人間じゃないのかもしれない。イーグルたんの可愛さが分かるなんて。

「髪の色が同じ……そうか、お前の弟なのか。なら可愛いはずだな」

 そうそう、私の弟なら可愛いに決まって……ん? 

 んん? 

 それって、私もかわいいって言っているように聞こえなくはないですよ? 

 いや、まさかね。うん。可愛いと思っている女性に向かって豚なんて言う愚かな人間がこの世にいるわけないもんな。

 そもそもこの皇太子が最終的に選ぶ女性、私を断罪の罠にはめる女ってば、髪の毛ピンクのほわほわよ。私は寒色。あっちは暖色。真逆人間だわな。私は背が高くなってスラっと美人。あっちは背は低くて小動物系美少女。真逆なのだわ。

 勘違いするところだったわ。ぽっちゃり君が私を可愛いなんて思うわけないじゃぁん。

「とにかく、じらすつもりならそんな必要はないからな! 誰でも皇太子である俺と結婚したいというのは知っている」

 はぁ? 何勘違いしてる。いや、子供お茶会で散々ご令嬢に囲まれまくってるなら勘違いしても仕方がないのか? 

 でも、私は違うからね! じらすつもりなんて全くない! 本心の本心から、結婚する気などこれっぽっちもない! 

 もぐもぐ。

「ところで、さっきから何を食べてるんだ?」

 ちっ。気が付いたか。いつまでも不敬だとか言わないから気が付いていないかと思ったわ。

「失礼いたしましたわ。食事中でしたので殿下とはお会いできないとお伝えしたはずですが?」

「俺は、食事中でも気にしない。それより、その手に持っているものは何だ?」

 気にしろ! 

 気にして食事中に突入してくんな! 失礼なやつだって怒って帰れ! 自分に気がないと気が付け! 

「ハンバーガーですわ。パンにハンバーグを挟んだものです」

 殿下が首を傾げた。

「ハンバーグは柔らかいが、パンは固いだろ? そんな風にパクパク食べれるものではないと思うが……お前、歯が丈夫なのか?」

「人を野獣のように言わないでくださいます? パンも柔らかいから誰でもパクパク食べられますわ!」

 なんせ、うちの料理人が頑張って、私のあやふやな説明で作ってくれたのだから。

「パンが柔らかい? 食べてもいいか?」

「ごめんなさい、もうありませんわ」

 私が食べているハンバーガーが最後だもん。

 パクリとかじりついて目の前で食べるのを再開する。

 と、何を思ったのか殿下は、私がかじっているハンバーガーの反対側にかぶりついた。

 ぎゃっ! 

 顔が近い! 

 っていうか、人が食べてるものにかぶりつくとか、ありえない! 

「すげーな、これは本当にパンが柔らかい。それにほのかに甘みもあって……」

「な、何をなさるんですかっ!」

 殿下にこれ以上かじられないように、距離を取る。

 もう明日には海沿いの別荘に移動するというのに。ダイエットを始めるというのに。

 このハンバーガーは「ダイエットは明日から!」って言って食べている最後のごちそうなのに! 

「俺によこせ」

 殿下が手を差し出した。

「差し上げられませんっ」

 取られてはなるものかと、急いで食べようと口に運ぶ。

 殿下が近づいてきて、また私のハンバーガーに逆側からかぶりついた。

 ちょっ! 

 慌ててハンバーガーをもって走り出す。

 どこの皇太子が、人の食べてるハンバーガーを奪って食べようとするんだよっ! 

 走って逃げながら食べる。もぐもぐ。

「あー、俺のハンバーガー食べたなっ!」

 ふぅ。無事に食べ終わった。ってか、いつからお前のハンバーガーになったんだ! 

 殿下がガクッと肩を落として、椅子に座った。

「夕飯にハンバーガーを……」

 はい? 居座る気? 

 イーグルたんが殿下にニコニコした顔で話しかけた。

「殿下、二食続けて同じメニューは出てきません。今日はおかえりください」

 そうだ。イーグルたんの言う通りだぞ! 

「ぜひ日を改めて。次に会うときにはハンバーガーを用意させますので」

 ええ? イーグルたん、何を言ってるの? 

「わかった」

 殿下が素直に帰った。素直に帰ってくれたけど、そんなこと言ったら、また来ちゃうじゃんっ! 

 イーグルたんが私にぎゅっと抱き着いてきた。

「明日から、海沿いの別荘にお義姉様と二人で行ける……楽しみです」

 あ、そっか。もうここにはいないもんね。

 次に会うのは、何年後になるかしらねぇ? 

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