もっちもち
「お義姉様、行ってらっしゃい……早く帰ってきてくださいね」
学園へ向かう私を、イーグルたんが馬車まで送ってくれる。
「ああ、なんで僕はお義姉様と同じ年じゃないんだろう。まだ入学まで一年もあるなんて……お義姉様と二年しか一緒に通えないなんて……」
寂しそうな顔をするイーグルたんの頭をなでなで。
「土産話を期待してちょうだい」
お弁当の入ったバスケットを掲げて見せる。
「イーグルたん……イーグルもお昼には同じものを出してもらうように頼んであるから。場所は離れていても、同じものを食べましょうね」
イーグルたんって思わず口にしそうになって焦る。さすがに子供扱いしすぎだよね。危ない危ない。
「義父上にも持たせていましたね? 柔らかいパンですか?」
「お昼を楽しみにしてね」
イーグルたんの質問には答えずに馬車に乗り込む。
くっくっく。早くお昼にならないかなぁ~。
「お荷物をお持ちいたしますわ!」
侍女のメイが馬車を下りると、慌てて私のバスケットを持とうとする。
「だめよ、メイ。学園は関係者以外立ち入りが禁じられていますから。侍女を連れていては、公爵令嬢という立場を笠にきて特別扱いを要求しているように思われてしまうわ」
……ん?
悪役令嬢ならそれでいいのでは? でもメイが叱られるのは申し訳ないわよね。
「ううう、ですが、フローレン様にこのような大きな荷物を持たせるなど……」
まぁ、確かに欲張りすぎてちょっと大きなバスケットになってしまったわよね。
「大丈夫よ。パンを皆様に食べていただくためですもの」
そして、柔らかいパンのとりこにしてドライイーストを売り込む。柔らかいパンが定着したころに、ドゥマルクの秘蔵特産品を投入するのですよ。
くっくっく。
「あ、あのっ!」
メイからバスケットを受け取ろうとしたら声をかけられた。
「あら、あなたは」
名前を知らない子爵令嬢がいた。
……名前は知らないけれど、しっかり顔は……いえ、体型は覚えている。餅令嬢だ。
「私に、運ばせてくださいませ!」
「は? えーっと、あなたは昨日の……」
固い決意を胸に秘めたような表情で令嬢は私の顔を見る。
そして、あまり美しいとは言えないうえに、体のお肉が邪魔をしてふらふらになりながらもなんとか腰を落として礼を取り名乗った。
グラグラしてる。あ、倒れる、倒れちゃうよ!
「コーラル子爵家が長女、ラミアと申します。昨日の非礼をお許しください」
グラグラ……。危ない。
「ラミア、顔を御上げなさいっ」
このままではぶっ倒れちゃうわよっ! 餅令嬢がしりもちなんてダジャレになっちゃうわ!
焦って声をかける。
あれよ、悪役令嬢補正からすれば、私が子爵令嬢を転ばせたとか噂が立つんですよね、自分でラミアがぶっ倒れたとしても。
……って、悪役令嬢的な噂をされても別に構わないか。いやでも、この巨体で受け身も取らずにすっころんで怪我をさせるのもかわいそうじゃない?
顔を上げ、礼の姿勢から戻ったラミアはしっかり地面を踏みしめ、ぐらつきは収まった。
よかった。普段使わない筋肉を使ってプルプル震えていることもないわね。
あ、いやでも、顔がプルプル震えている。
「お許しくださりありがとうございます」
と、待って、私は何を許したの? 昨日の非礼って何?




