お父様はくいしんぼう
「ですが、リドルフト様がおっしゃったんですのよ。王都に次ぐ国内第二の都市を領地に作るつもりだと」
イーグルたんが苦虫を噛み潰したような顔をする。
「第二の都市はドゥマルク領都ですよね? それを追い抜こうというのですか?」
ふふっと笑う。
「それを聞いて、私、決意いたしましたの。お父様が宰相職で忙しいというのであれば、私とイーグルで領地を発展させていこうと」
お父様が更に目をウルウルさせ始めた。
「産業を興し、まずは王都へと売り込み、各地へ。いえ、国外への輸出もして発展させようと思うのですわ」
「お義姉様、パン屋を始めるというのは、柔らかいパンを王都に広めて売り込むためですか?」
イーグルたんに頷いて見せる。
「確かに、このパンを一度食べれば何度も食べたいと思うだろうが……。しかしパンを領の特産品というのは無理があるんじゃないかな? せっかくの柔らかいパンも日にちが経てば固くなってしまうだろう? 領地からここまで一日かかるんだ。王都の人の手に渡るころには二日はかかるだろうから……。私もたくさん持って帰って食べようとしたけれど無理があったよ」
なに?
お父様ったらいつの間に。そういえばある日料理長がお父様が来た日に大量にパンを焼いていたことがあったけれど、王都に持って帰って食べるつもりだったのか……。
固くなるだけじゃなくて、柔らかいパンはかびたりくさったりしやすいんですよ。そういった面でも主食がパンの国では柔らかいパンは生まれにくかったわけですよ。毎日パンを焼くなんてとてもできないからね。何日か分まとめて焼くなり買うなりして生活してるから。
まぁなので、私が作るパン屋のパンは少しだけ贅沢品。外食用とかお金持ち用。そういう人たちは、すぐに「自分たちにも作れないか」って思うわけよ。
レシピを研究し始めるはずよ。
スパイだの従業員の引き抜きだのあるかもしれない。どうぞ、どうぞ、やっちゃってください。
むしろ、どんどんレシピは広めるつもりだ。そうしなければ、領地の特産品が売れないもの。
ドンッと、領地から持って帰ってきた小瓶をテーブルの上に乗せる。
一見すると乾いた砂のようなものが詰め込まれた瓶だ。
「売るのはこれですわ。先日ついに完成し、大量生産のめども立ちましたの」
もともとは幽閉生活後も柔らかいパンが食べたくて作ったものだけれど。まさか領地発展の役に立つとは。
我ながらよく作れたもんだ。ある程度の偶然もあったからだけれど。
小学校の頃に工場見学をしたときの知識が役立つとは思ってなかったよ。うろ覚えだったのに、作れちゃった。
お父様が、小瓶を手に取って顔に近づけて中身を見ている。
「何だい、これは?」
瓶を振ると、中の砂のような細かな粒がサラサラと揺れる。
「リンゴやレーズンから作った酵母から、質のいいものを取り出して培養し、遠心分離して取り出した後に洗浄脱水したものを乾燥させたものですわ」
お父様がイーグルたんの顔を見る。




