義弟イーグルたんはいつだってかわいい
入学式が終わり、屋敷に戻る。
「お義姉様、お帰りなさい。学園はどうでしたか?」
馬車を降りるとすると、すかさずイーグルたんが手を差し伸べてくれる。
なんと自然な動きで女性をエスコートできる立派な子に成長したのでしょう。
ぷくぷくな子ブタちゃんだったイーグルたんもかわいかったけれど、ダイエットに成功した上にすくすくと身長を伸ばしたイーグルたんの美少年っぷりと言ったら。
現在一四歳。前世日本の中学二年生とは全くもって別の生き物だわ。一七、八には見えるよ。日本人換算だとね。
一七〇センチ近くすでに身長はあるし。あ、でもまだ成長期真っ只中なので、最終的には一八〇センチは超えると思う。お父様も一八五センチくらいあるし。
少年から青年へと変わっていく貴重な時間。
「ただいま、イーグル。相変わらず殿下は不愉快な人でしたわ」
豚発言を思い出してちょっとほっぺを膨らますと、イーグルたんが嬉しそうに微笑む。
あれ? なんで喜んでるの?
「ああ、でも、大蔵相の息子のリドルフト様は思ったよりもいい人でしたわ」
今度はイーグルたんがむっとした表情を浮かべた。
「お義姉様、リドルフト様はそれほど素敵な方だったのですか? 宰相の座を狙っていると噂の人ですよね?」
ああそうか。イーグルたんが宰相を目指しているならライバルになる男だ。
ライバルを褒めるようなことを言えばいい気はしないだろう。
これはいけない。ちゃんと伝えないと。
私はいつだってイーグルたんの味方だって言わないと!
「イーグル、リドルフト様に婚約しないかと言われたわ」
イーグルたんが差し出した手に乗せていた手を激しくつかまれる。
「お義姉様、まさか、リドルフトと婚約の約束をしたんですか?」
怒りなのか焦りなのか恐れなのか、いろいろな感情が入り混じったような激しい表情をイーグルたんが浮かべる。
いや、悲しみなのかな? ギリギリと力を込めて握られる手。
「痛っ」
いつの間に、こんなに力も強くなったんだろう。男の子ってすごいなぁ。
「あっ、ご、ごめんなさい、お義姉様……」
イーグルたんが慌てて私の手を離し、泣きそうな顔を見せる。
「お義姉様を傷つけるつもりはなくて……その……ああ、お義姉」
うん、びっくりしたんだよね。悪気がなく、お皿とか落として割っちゃった時のイーグルたんを思い出す。
「ごめんなさい、ごめんなさい、わざとじゃないです。今度からちゃんとしますから、僕を追い出さないで」って、めちゃくちゃ泣いた。
あれは、まだイーグルたんがうちに来て間もないころ。まだ細くて折れそうな体をしてたころだ。
「大丈夫。怒ってないよ」
あの時と同じように、イーグルたんをぎゅっと抱きしめる。
「イーグルは私の大切な弟だよ。大丈夫だからね? ずっとずっと、イーグルは私の大切な家族。何があっても、あなたの姉よ」
抱きしめるイーグルたんの体は私よりも大きくなったけれど、やっぱりまだ子供なんだろうなぁ。
子供のときと同じね。不安になって泣きそうにな顔をするんだもん。
もうすっかり家族のつもりだけれど、まだイーグルたんは本当の家族だとは思えないのかな? 血のつながりなんてなくたって関係ないのに。
「ああ、そうだ。僕が言ったんだ。ずっとお義姉様でいてくれますか? って……。あの頃は……、大好きなお義姉様とずっと一緒にいるには、それしかないと思っていたから……」
ふえ?
「イーグル、もう一度聞かせて、今、大好きだって言ったわよね? 私も、大好きよイーグル!」
うーん、もう、かわいい義弟だこと!




