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第25話『学校の怪談、全壊』

『夜に体育館倉庫に入ると、鍵がかかっていないのに閉じ込められる』


『グラウンドの中心に3分経っていると、サッカーボールをぶつけられる』


 トイレでの一件後、残った4つの怪談のうち、2つを私たちは調べることにした。結果どうなったかというと、内容通りの怪奇現象に遭遇し、その原因はやはり霊たちの仕業だった。


 そして、私たちを体育会倉庫に閉じ込めようとして剛じいに殴られたのも、男子の霊たちだった。トイレの時と同じく会話は出来ないものの、悪意だけはヒシヒシと伝わってきた。


 グラウンドの霊も男の子で、霊力で生み出したサッカーボールを、私めがけて蹴り飛ばしてきた。それを剛じいが受け止め、ピンポイントで顔面に投げ返したのは流石(さすが)に吹いちゃったけど。ともかく一連の怪奇現象の原因は男子の霊、しかも複数による仕業だと分かった。


「……やっぱりこれさ、いじめの現場って感じしない? リアルな嫌悪感がある」


 サッカーボールを顔面にめり込ませた霊の消滅を見届けながら、私は二人に話しかける。ちなみに絵面的にこっちがいじめているように見えるというツッコミは無しだ。


「階段からの突き落としに、監禁遊びやボールでの暴力、確かに低俗な子供がやるいじめ行為そのものですね……集団で一人を暴行をするなんて、許せません」


 ユウちゃんは静かに、しかし力のこもった声で吐き捨てた。彼女自身にも思うところがあるのだろうか。いつもの強気な啖呵とは違う迫力を感じる。


「……怨霊は生前の行動を覚えていて、それを繰り返すものだ。つまりはそういうことだろう」


 剛じいも、腕をグルグル回しながらぶっきらぼう呟く。こっちも相当イライラしているみたいで、ストレッチ運動を終わらせると食い気味に情報を確認しに来た。


「さっさと終わらせて帰るとしよう。奈鈴、次の七不思議はどんなのだ?」


「……駐輪場の一番奥を開けておくと、夜に血まみれのバイクが現れる、だって」


「明らかに、今までのものとは毛色が違いますね……?」


「さっきの奴らとは無関係の霊かもしれん。注意して行くとしよう」


 私たちは頷き、周囲を警戒しながら駐輪場へと向かう。元々外にいたからすぐに到着し、その一番奥に目をやると、確かに赤いバイクがあった。他に置いてある自転車等は無いため、かなり目立っている。


「……ごくり」


 腰を低くしながら全員でゆっくり近づく。よく見るとバイクそのものの色は黒で、赤い血がべったり付いているから車体が赤く見えていただけだった。そう考えると凄い量の血が流れたことになる。私はそれを想像して血の気が引いた。


「……霊が生み出した残留思念の一部だな。原理としてはさっきの霊のサッカーボールと同じだ。無意識に出している分、霊力の密度は低いがな」


 剛じいはそう言いながら、バイクの座席を軽く叩いて感触を確かめた後、


「そいっ!」


 グシャアッ!


 文字通りバイクを叩き潰すように消滅させた。本物のバイクじゃ見られない光景だね…………見られないよね?


「っと、そうだ。さっきみたいに霊が攻撃してくるとかは無いよね?」


「……周囲に敵意を孕んだ気配はありません。本当にこれだけのようです」


 その言葉を聞いて、私と剛じいは肩から少し力を抜く。襲撃が無ければそれに越したことは無い。でもそれなら、あのバイクは何だったのだろう?


「全部終わった後で、ゆっくり調べれば良いだろう。それより、次で最後だな」


「そ、そうだね。最後はあの……銀色の腕時計を付けて夜の校舎裏に行くと幽霊に襲われる、か」


 今までも霊に襲われていたから他と変わらないという感じもするが、この七不思議だけ『襲われる』とはっきり明記されているため、事前に覚悟と準備は万全にしておくべきだと全員が判断していた。剛じいの顔にも険しさが再び宿る。


「それじゃあ、行くよ……」


 私はポシェットから銀の腕時計を取り出し、左腕に付ける。ここに来る前、事前に調べてお父さんのものを勝手に拝借しておいた。高価な物だから壊さないようにしないとね。


 腕時計をしたのを確認して、全員で校舎裏に向かう。荒れ果てた花壇や手入れされていない木がそのままになっており、その物陰に何かが潜んでいるのを想像できてメチャクチャ怖い場所だった。開けていたグラウンドとは比較にならないレベルだ。


「ひいいい……ね、ねえ! ちゃんと守ってよね!?」


「任せておけ! 指一本触れさせんぞ!」


 既に足がガクガクな私を、剛じいはいつもの調子でマッスルポーズを見せつけてくる。くっそう、これを見ると少し安心するようになってきた自分の感性が憎い。


 そんなことを考えながら、比較的視界が良い場所を探し、壁を背に向けて校舎裏に佇む。そして、しばらくもしないうちにユウちゃんが口を開いた。


「嫌な気配が近づいて来ます。前方から、私たちを囲むように。数は7人ほどかと」


「……ごくり」


 それを聞いて剛じいは戦闘態勢に入り、私は唾を飲み込んで覚悟を決める。そして、草木の陰や校舎の角から、男の子たちがゆっくり姿を現した。全員、足のない幽霊だった。


「真正面から来たか。今までと違って正々堂々だな?」


 剛じいが構えながらそう呟く。確かに、さっきまでの七不思議は後ろから突き落としたり、ボールを飛ばしてきたりと、不意打ち的なものばかりだった。そう思うと、正面から姿を現してくれるのは分かりやすくてありがたいかも。


「まあ、それはともかく……お前ら、俺たちに何か用か?」


「……ナマイキ」


 複数の男子の霊のうち、その真ん中に佇んでいる霊がそう返した。それに同調するように周囲の霊も騒ぎ出す。どうやらこの子がリーダー各のようだ。


「ウデドケイナンテ、ナマイキ」


「カネモッテルアピールカ?」


「オマエダケイイオモイ、ユルサナイ!」


「ムカツクカラ、ナグラセロ!」


 そんな理不尽な暴言を一方的に吐いてきたと思ったら、霊たちがにじり寄ってきた。ああ、この感じは明らかにいじめだ。


「ウラァァァァ!」


 霊の一体が拳を振り上げ、私めがけて飛び掛かってくる。普通なら恐怖で立ち尽くし、そのまま殴られる流れとなるのだろうが、


「うらああああああああああっ!」


 ここには剛じいがいる。男子の霊よりも力強い雄たけびを上げ、力強い拳を顔面に強打。霊を吹き飛ばして消滅させた。


「俺が直々に教育してやる! かかってこいガキども!」


「暴力による体罰教育は良くないけどね」


「いじめ加害者相手、しかも実在人物でもなく霊とくれば、その法則外かと」


「まあ、それはそう」


 ユウちゃんの冷静なツッコミを耳にしながら、私は剛じいの暴れっぷりを淡々とした気持ちで眺める。いつもの流れ、しかもそこそこ気合いが入っている様子のため、戦いの結果は目に見えているからだ。


「オラァ! 一方的に殴られる怖さを教えてやるわぁ!」


「ギャアアアァァ!」


 そこから先はもうグッチャグチャ。剛じいが複数人相手に殴る、投げる、締め上げるのやりたい放題。しかもあえて一撃で消滅しないよう手加減しているようで、悪ガキたちの悲鳴がしばらく廃校に響き渡ることになった。


「来世で二度とこんなことできないようにしてやる!」


「グワァァァァー!!」


 剛じい本人の怒りも乗せた攻撃が、霊の顔、腹、みぞおち、股間と、的確に痛い所を全力で襲う。もし霊になっても痛覚が人の時と同じならば、その痛みと苦しみは想像に難くない。股間に関して私は無知だけど、この世の終わりのような痛みが襲うとはよく聞く。


「アガ……アガガガガガガ……!」


 そして一通り暴れ終わった後、最後に残ったリーダー各の霊が、ボロボロの状態でへたり込んでいた。それを剛じいが鬼の形相で見下しつつ、ゆっくり胸ぐらを掴んで持ち上げる。


「おい、生前に誰をいじめていたかは知らんが、もう二度とやらんと誓うか?」


「チ、チカウ……チカウ……」


「よーし、なら今ここで、その相手に大声で心から謝罪しろ」


「アアア……ハマイタ、ゴメンンンンンン!」


「ごめんなさい、だ!」


「ゴメンナサイィィィィィ!」


「よし、その言葉を来世でも魂に刻んでおけ!」


 剛じいはそう叫ぶと、空いていた左拳で霊の顔面を殴り飛ばし、魂の叫びと共に消し去った。なかなかエグイ倒し方だったけど、正直スカッとして気分が良い。


「分からせ、完了!」


「お疲れさまでした。今回もお見事です」


 ふんすっと鼻を鳴らす剛じいと、活躍を労わるユウちゃん。その光景を見て私も、今回も無事終わったなーという実感が湧く。まあ、その感覚になることに慣れてしまった自分が怖いのだけれど。


「一連の騒ぎは、いじめっ子たちの霊の仕業だった、ということで解決だな。俺が残らず倒したから、もう七不思議が起こることもないだろう」


「まあ、廃校だからここに来る人なんていないだろうけどね」


「私たちみたいな物好きがやって来る場合もありますので、新たな被害者が出ないに越したことはないかと」


 ユウちゃん、確かにその通りなんだけど、私たちのことを物好きって言うのだけは止めてくれない? これ好きでやってるわけじゃないから!


「校舎に漂う嫌な感じも消えたし、帰るとするか」


「そうだね……私もなんだかどっと疲れたかも」


「もう深夜ですからね。夜更かしはお肌の天敵です。早く帰りましょう」


 こうして、やることをやり終えた私たちは、早急に校舎を後にした。怖い思いもしたけど、なんだかんだ無事に終わったし、いじめっ子を成敗したという結果から気分は晴れやかだった。心なしか夜空がさっきよりも澄んで見え、星が綺麗だと感じる余裕もある。今ならキラキラ星を鼻歌で歌えそうな気分だ。剛じいとユウちゃんがいるからやらないけど。


(……って、そういえば。いじめっ子たちの霊はともかく、最初の音楽室の霊はなんだったんだろう?)


 キラキラ星を学校の授業で歌ったことを思い出し、そこから音楽室の霊について引っかかった。明らかに関係ない一件だったけど、何かあるのだろうか?


(……関係ないっていうなら、バイクの件もそうか。見落としとか、ないよね?)


 私は不安になって振り向くが、既に校舎は遥か彼方。今から引き返そうという距離ではない。


「ん? どうした奈鈴?」


「何かありましたか?」


 剛じいとユウちゃんが、私の様子を心配してくれている。その二人が特に何も感じず、疑問にも思っていないなら大丈夫だろうか。


(……まあ、後でネットで調べるだけ調べておこうっと)


 私は引き返すという選択肢を捨て、そのまま帰路を進むことにした。




 そして、帰りの電車内。


「……いじめっ子というより、もはや珍走団ってレベルだったみたい」


 引き返しはしなかったものの、ピアノとバイクの件がどうしても気になったため、私はスマホで改めて学校のことを調べてみた。結果、ピアノについては全く分からなかったが、襲って来た霊たちに関する情報らしきものは見つけることができた。


 過去に、その学校の生徒がバイクを乗りまわして迷惑行為を繰り返し、その果てに事故を起こして死亡したという新聞記事を見つける。そこに男子のバイクの写真が載っており、私たちが駐輪場で見たバイクと全く同じだった。


「つまり、あのバイクはそいつの残留思念から生まれたってことだな」


「死してなお映し出すとは、バイクに対する愛は本物だったのでしょうか?」


「どうだろうな。死んだときの記憶が強烈で、無意識に生み出していただけかもしれんぞ」


 剛じいとユウちゃんはしばらく議論していたが、考えても仕方がないと言って切り上げていた。その間に私は、リーダー各の子が言っていたハマイタという人物も探してみようと思ったが、同じ名前の人が多すぎて候補が絞れないため諦めた。いじめられていた過去を知られたくないだろうし、また、あるいは……いや、これ以上考えるのはよそう。


 ただ、ピアノの件に関しては本当に何も出てこなかった。これ以上調べても時間の無駄だと判断し、私はこれ深く考えることを止める。


「…………ふわぁ~」


 そして一息ついた瞬間、思わず大きな欠伸が出る。ほぼ終電の時間帯のため、車両の中に乗客は私一人だけ。誰もいないという安心感と、除霊が終わった後の少しの充実感と疲労感、そしてリズミカルに揺れる車体が合わさり、私の眠気がピークに達していた。


「まずい、これ本格的に寝そう……」


 ウトウトしながら、自分の声で少しでも目を覚まそうと意識する。でも、それを聞いたユウちゃんが優しく声をかけてくれた。


「…………降りる駅に着く前には起こしますので、少しくらい眠っていても大丈夫ですよ。剛一郎様も、それで良いですよね?」


「…………んー、まあそうだな。分かった、寝ている間の守りは俺に任せろ」


 二人の反応が少し遅れたように聞こえた。ヤバイ、本格的に意識が飛びそうなんだね私。それじゃあ、お言葉に甘えようかな。


「ありがとう……それじゃあ少し寝るね。降りる駅の一つ前くらいで起こしてぇ……」


 感謝を口にして安心した直後、私の意識は緩やかに黒く染まっていった。






 そうして、しばらく眠った感覚があった後、電車のアナウンスがほのかに聞こえてくる。


「次は、活け造り、活け造り~」

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