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第24話『学校の怪談、半壊』

『隣県の廃校に、かつての生徒の霊が現れる』


 陽介から貰ったリストの二つ目。それを確かめるために私達は電車に揺られ、バスを経由し、さらに歩いて計2時間。目的の心霊スポットに赴いていた。教師の不祥事や生徒の暴力事件で評判が悪化し、十五年前に廃校となった中学校らしい。


「いやぁ、なかなか雰囲気のあるところだな。まさに心霊スポットって感じだ」


 剛じいが弾んだ声で言いながら、腕を回して戦闘準備に入る。やる気があるのは結構なんだけど、何でまた夜中に来ちゃうかなぁー……。


 霊を見つけて倒すのが目的なため、出やすい夜に合わせて来ている。おかげで雰囲気倍増、前回の廃病院と同じく、懐中電灯片手に乗り込むことになってしまった。


「嫌だぁー……私もう帰りたい……っ!」


「これくらいの場所、今までも赴いて来たでしょう。そろそろ慣れて来ても良いのでは?」


 弱音を吐く私とは対照的に、ユウちゃんは相変わらずどっしり構えている。姿勢を見習うべきなのかもしれないけど、自分は生身の人間なので参考にできるかは別問題だ。


「で、かつての霊が現れるとか何とかって話だが、詳しいことは分かったか?」


「ああ、うん。えーっと……」


 私はスマートフォンを取り出し、メモ帳アプリに保存していたテキストを呼び出す。事前に学校のことを調べ、それをまとめておいたのだ。


「元々この学校には怪談というか、七不思議みたいなものがあって、その中のいくつかに霊が出るって内容があるみたい」


「そうか、なら1つずつ試していくとするか」


「え、何で? 霊が出るっていうやつだけを試して倒せば良いじゃん」


 直接的に『霊が~』と謳っているものは、七不思議の中で二つのみ。それ以外は関係ないと切り捨てて早々に帰ろうと思ったのだが、


「何を言う、七不思議全部が霊の仕業って考えるのが普通だろ。なら残らず倒しておかないとな」


 この守護霊は殲滅する気満々らしい。か弱い私の精神状態も少しは守護してもらいたいんだけどね!


「よーし、奈鈴の霊視治療の為に頑張るぞ! というわけで、廃校に乗り込めぇー!」


「おー!」


 先導する剛じいと、それにノリノリでついて行くユウちゃん、そして震える手で懐中電灯を握る私。もう諦めの境地で校門から敷地内へ一歩踏み出すと、


 ゾワゾワゾワッ……。


「ひっ!?」


 猛烈に背筋が寒くなり、反射的に声を上げてしまった。幽霊二人も何か感じ取ったのか、周囲の警戒を始めている。


「この気配、確実にいますね」


「ああ。少しは楽しめると良いんだがな!」


 二人の発言から、怨霊がここにいるのは間違いないらしい。ああ、やっぱり今回も厄介事だったよ。


「頼むから、心から頼むから私をしっかり守ってね?」


「ああ、任せておけ!」


 いつものマッスルポーズを見せつける剛じい。この暑苦しいテンションのおかげで少しは恐怖心が薄れることが唯一の救いだった。


「はぁ……それじゃあ行くよ。まずは音楽室からかな」


「承知! さあ行こう!」


「危険が迫れば私がお知らせしますので、ご安心ください」


 心を決め、私達は廃校の中へ入る。廃病院の時と同じで中は砂埃まみれ、窓もいくつか割れており、机や椅子といったかつての備品が壊れた状態で乱雑に放置されていた。そんな状態の教室を横目に、怪談を上がって音楽室に向かう。校内地図は残っていた学校のホームページに載っていたため迷うことは無かった。


「こ、ここだね……」


 重い防音扉をギィーと開きながら、私達はゆっくりと音楽室の中へ。部屋の隅に大きなグランドピアノが置いてある、何の変哲も無い内装だった。


「ほっ……音楽家の絵画とか置いてなくて良かった。あれ結構怖いよね」


「まあ気持ちは分かる。それより、ここの七不思議の内容は?」


「えーっと……音楽室のピアノを叩くと、悪魔が現れて仲間にさせられる、だって」


「悪魔ねぇ……」


 剛じいが露骨に肩をすくめた。幽霊がいるんだから悪魔も実在してもおかしくはないが、当の幽霊にとっては眉唾らしい。


「ともかく、試してみるしかないでしょう。奈鈴さん、お願いします」


「えっ!? 私が叩くの!?」


「実体を持ってピアノを叩けるのは奈鈴さんだけなのですが」


「……はい」


 まあ正論だけど、やりたくないって気持ちの方が強い! でもその言葉をグッと飲み込み、私はピアノの前に立った。


「でも、叩くって変だよね。普通は弾くじゃない?」


「でもそれだと、ピアノを使った物全員が悪魔の仲間にさせられることになりますが」


「だから『叩く』んじゃないか? 文字通り暴力的な意味で」


「そういうこと……?」


 私は首を傾げながらも、剛じいが言ったようにピアノの鍵盤カバーをグーで軽く叩いた。ドンドンという音が室内に響く。


「…………」


 しかし何も起こらなかったため、私はもう一度、さらに強い力で叩いてみた。


 ドンドンドンッ!


 さっきよりも大きな音が音楽室に響き渡る。すると、


 …………ドンドンドンッ!


「ひいっ!?」


 出入口の防音扉からも打撃音が聞こえたかと思うと、次の瞬間。


「アアァァァァァァー!!!」


 中年の男の霊が現れ、悪魔のような形相でこっちに向かって来た。


「ぎゃああああああああああ!」


 腰を抜かして座り込む私に、音楽室の悪魔は一直線に向かってくるが、


「ぶるぁぁぁぁぁっ!」


 それを許す剛じいではなく、真横からの顔面パンチで部屋の壁際まで殴り飛ばした。攻撃をモロに受けた悪魔は三回転くらいしたあと、きりもみ落下で床に叩きつけられる。


「オゴッ……オオォォォ……!?」


「お前が悪魔ぁ? 違う、お前は怨霊だ」


 どっちも同じようなもんでしょ、と私は思った。種族的なこともそうだが、このシチュエーションだと剛じいのほうが悪魔や怨霊染みている。


「で、お前は一体なんなんだ? 何故霊となってここに残っている?」


「ピアノヲ……ガッキヲソマツニスル、オロカモノメ……!」


 剛じいの問いに、音楽室の悪魔はそう呟きながら身を起こし始めた。あれ、もしかしてピアノを叩いたことを怒ってるだけ?


「……これ、状況としてはこちらが悪いのでは?」


「ユウちゃん、多分それ正解。あの……悪気があったわけじゃないんです、ごめんなさい。どうか許してくださ——」


「ユルサァァァァァーン!!!」


「やっぱりぃー!?」


 かなりオカンムリのようで、問答無用で再びこっちに向かってくる。だがそれを剛じいは片腕で顔面を掴んで持ち上げ、動きを無理やり止めた。


「俺達が悪いし、ピアノに対する愛は認める。だが生きている人間に害を成す時点で容赦はできん」


 そう語り、もう片方の腕で渾身の腹パンをお見舞いした。音楽室の悪魔は大きな呻き声を一瞬上げた後、そのまま消滅していった。


「ちょっと可哀想だが、これで一つ目は完了だな」


「そ、そうだね……ホント、可哀想だったけど」


「それに結局、どうしてこの地に霊として留まっていたのかも分かりませんでしたね」


「他の七不思議を調べるうちに、それらしい痕跡があればラッキーくらいに考えておこう。というわけで奈鈴、次に行こうか!」


「は、はぁ~い……」


 もうどうにでもなーれ、そんな心持ちで行くことにした私は音楽室を出ると、今度は東棟の2階にある廊下の階段まで移動した。ここに二つ目の七不思議があるらしい。


「ここを下る時、鼻歌を歌っていると霊に突き落とされるんだって」


「被害がリアルで嫌だな……」


 そこそこの段差があるので、もし突き落とされたりしたら大怪我必須。これが本当なら悪質だし、何より……。


「ねぇ、これも私が実際にやってみないとダメなの?」


「正直、奈鈴さんに試してもらうのは気が引けますね……」


 怪我するかもしれないって分かってて試すのはマジで怖すぎる。流石のユウちゃんも同情してくれた。


「そうだな……試しに一回、俺がやってみよう」


 剛じいがそう言って、鼻歌を歌いながら階段を降りてみた。しかし何も起こらず、霊が出てくる様子も無かった。というか剛じいは足が無いから、階段を降りるっていう表現が合っているのかも微妙だ。


「では、次は私が……」


 同じようにユウちゃんも試してみたが、結果は変わらず。非常に残念だけど、やっぱり私がやるしかないみたい。


「信じてるから、絶対守ってよ!?」


「ああ、約束する!」


「気配の察知も最大出力で行いますので、ご安心を!」


 全員が警戒心MAXの状態で、私は鼻歌を歌いながら階段を一歩、二歩とゆっくり降りていく。するとその直後、


「伏せろ!!」


 剛じいの叫びが聞こえ、私は咄嗟に伏せた。その背後でボガッっと殴る音が聞こえたと思うと、


「アアァァァァ……!」


 何かの呻き声が聞こえ、振り向くとそこに剛じいが男の子の霊を組み伏せている姿が目に飛び込んで来た。


「な、何!? どういう状況!?」


「奈鈴さんが降り始めた直度、その者が背後に現れて付き落とそうとしたのです。それを剛一郎様が殴って止めて捕まえた、という感じです」


「そ、そう……ありがとう剛じい、おかげで助かった」


「うむ、これくらい朝飯前だぞ!」


 ニカッと笑って見せる剛じいだったが、その直後、組み伏せていた男の子の霊が消滅した。剛じいはそれを見て思わず「しまった」と漏らす。


「いかん、褒められたのが嬉しくて、つい力を入れ過ぎた」


「また霊から話を聞き出す機会が無くなっちゃったね……」


「まあ、過ぎたことはどうしようもありません。次に行きましょうか」


「相変わらず切り替え早いね?」


 思うところはあったが、私としても早く帰りたいという気持ちの方が強いため、同じように切り替えて次へ向かった。三つ目は3階西棟の男子トイレだ。


「一番手前の個室に入ると、ドアを揺すられるんだって」


「揺すられるだけか? さっきと違って被害が少ないな」


「確かに……でも、私としてはこっちも同じくらい試すの嫌だけど」


「やはり怖いですか?」


「それもそうだけど……ねぇ、私も男子トイレ入らなきゃダメ?」


 二人が「そっち!?」と言わんばかりにガクッとする。でも年頃の女子としてはそういうのも気になるんだってば!


「あー……さっきと同じ流れだと、奈鈴が入らないと多分ダメだと思うぞ。それに奈鈴が入らないと守護霊の俺も同じ場所にいられん」


「ああ、やっぱりそうなるよね……」


 恐怖と羞恥心、というかプライド? を天秤にかけるシチュエーションとなったが、やっぱり早く解決して帰りたいという想いが勝ち、私は踏み入ることを決めた。


 中は小便器が4つと、個室は三つという内装。その一番手前の個室が七不思議にあるトイレだと思うのだが、


(……男子トイレって、本当にこういう構造してるんだ)


 私としては小便器につい目が行ってしまう。ドラマや漫画とかで描写されているのを見たことはあるが、本物を生で見るのは初めてだった。本当に男の子って立って用を足すんだね……。


「奈鈴さん、気持ちは分かりますが今は七不思議を調べましょう」


(うわっ!? 心読まれた……!)


 小声で指摘され、私は顔を赤くしながら問題の個室の前に立つ。ゆっくりドアを開けると洋式トイレが一つ佇んでいるが、それ以外に不自然なところは見当たらない。


「入るだけで揺すられるんだったか?」


「みたい。とりあえず、皆で入ってみようか」


 本来なら個室一つに3人が入るとギュウギュウ詰めだが、剛じいとユウちゃんは霊体のため狭い思いをしなくて平気だ。私が便座に座り、その前後に剛じいとユウちゃんがスタンバイする。


「それじゃあ、行くよ……」


 扉を閉め、一応鍵もかけて様子を見る。しばらくは何事もなかったため、これはガセネタかなと思い始めた次の瞬間、


 バンバンバンバンバンバンッ!


「うひゃああああっ!?」


 ドアから凄い勢いで音が鳴り、同時に振動も伝わってきた。


「これ、揺するっていうか叩くじゃない!?」


「この状況でもツッコミができるのは流石ですね。それより剛一郎様、扉越しに気配が二つありますよ」


「承知! 任せておけ!」


 剛じいはすぐに扉をすり抜けて外に出ていき、その次の瞬間に「フンッ!」という掛け声と共に音と振動が止まった。


「もう出てきて大丈夫だぞ」


 その声を聞いてゆっくりドアを開けると、剛じいが霊を二人、両腕で首を掴んで一人ずつ捕まえていた。容姿はさっきの階段の霊と同じような男の子の姿をしている。


「グギギギッギギッギ……!」


「オゴォォォォ……!」


 さっきの怖い怪奇現象もどこへやら。元凶の怨霊たちは苦悶しながらうめき声を上げている。その締め上げを筋肉隆々の大男がやっているというのだから絵面が酷い。


「さーて、こんなところに留まってお痛をしてる理由を吐いてもらおうか」


「剛一郎様、その状態では何も吐けないかと」


「おっと失敬」


 そう言って最低限喋れるように剛じいが力を緩める。男の子たちはそれで喋れるようにはなったのだが、


「フザケルナァァァァ!」


「ナマイキ! ナマイキィィィィィー!」


 敵意むき出しの怨嗟の声を上げるだけで、まともの会話ができる状態ではなかった。何度締め上げてもそれは変わらず、情報を引き出すのは無理っぽい


「あー、こりゃだめだな。会話ができるような理性は残っておらん」


「いつぞやみたいに、名前が分かれば自我が戻るんじゃない? まあ分かんないんだけどさ」


「分からないなら仕方ありません。剛一郎様、お願いします」


「ああ。じゃあな坊主ども、来世ではまともな人生を歩めよ?」


 そう言って剛じいが両手にグッと力を入れ、そのまま首を潰されるような形で霊たちは消滅した。トドメの刺し方がなかなかにエグい。


「ふん、子供相手とはいえ、悪さをする怨霊に容赦はせん」


「そうですね。今のは明らかに邪気を孕んでいました。無邪気なイタズラで済まさず、徹底的に解らせるのも教育です」


 剛じいはともかく、ユウちゃんがそういう言い方をするのが超怖いんですけど。そっちも子供だよね? 年齢偽ってないよね?


「奈鈴さん、急にジッと見つめてどうしました? 何か考え事でも?」


(うわっ!? もしかして顔に出てた?)


 すっごい失礼なことを考えていたところだったので、私は何とか話を逸らそうと考える。そしてすぐに頭に出てきたことを口から出力した。


「えーっと……その、なんだか七不思議っていっても変な感じだなぁって。最初の悪魔はともかく、さっきの二つは相手が人間でもありそうな内容だし、不思議っていうよりいじめのシチュエーションって感じ。私も似た経験があるけど――」


「えっ?」


「え? あ……」


 完全に無意識で喋っていたが、ユウちゃんの声で我に返った。いらないことまで喋ってしまい、その場の空気が重くなる。そういうつもりじゃなかったのに。


「奈鈴さん、貴女は……」


「……大丈夫、気にしないで。昔のことだから」


 私は笑顔をユウちゃんに見せる。自分としては本当に昔のことで、乗り越えた過去だから心配してほしくなかった。自分で口に出しちゃったのは悪かったけど、本当に、もう大丈夫なんだよ。


「それより、今の流れで気づいたんだけどさ……」


 軌道修正のためにスマートフォンを取り出し、七不思議についてメモをしてアプリを立ち上げて二人に見せる。残りはあと4つ、約半数が残っていることになるのだが、


「……残りの不思議も、似た感じの内容になってない?」


 その言葉に、剛じいとユウちゃんは眉をひそめた。


もしかして、本当はこの七不思議は――

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