第21話『ついにバレた、幽霊退治事情』
「……というわけでして」
「…………」
人形の中にいた男児の霊を退治して数十分後、私は白川家の居間にいた。机を挟んだ対面にモモちゃんと彼女の父親が、歪んだ表情で私の話を聞いている。正座で痺れてる足よりも視線が痛かった。
因みに、奥さんはまだ意識が戻っていないため、隣の部屋で眠っているらいしい。
「ほ、本当に幽霊の仕業だったんですね……」
「まあそうでないと、さっきまでの事に説明がつかないが……」
さっきまでのことを一通り説明し終え、私は一旦息をつく。原因になった悪霊の他、退治方法を説明するために剛じいとユウちゃんのことも明かした。下手にぼかすよりかは正直に話した方が良いと判断したからだ。
「……しかし、本当に守護霊が君に? 可能であれば見せてくれないか?」
それでも信じきれないという表情で昭さんがいる。ここまで来たらとことん証明しようと思ったが、剛じいは私以外の人以外に見えないはずだ。
「俺は物理に干渉するのが難しいから……ユウちゃん、代理で頼めるか?」
「お任せ下さい」
二人の会話を確認した後、私は昭さんの顔を一度見てから口を開く。
「分かりました……ねぇ、ちょっとそこの座布団を浮かせてみて?」
その言葉の直後、ユウちゃんが近くの座布団に憑依して宙に浮く。それを見て2人はギョッと身構えたが、その後ゆっくり座布団が降りるのを見て警戒を解いた。
「……とまあ、こういう感じでして」
「じゃ、じゃあ先輩がこの前巻き込まれた事件も、本当に幽霊がらみで……?」
「うん。たまたま悪霊に襲われたところを、巫女さんと守護霊に助けてもらったの」
変に委縮すると心配をかけると思い、私は少し明るく返す。モモちゃんはそういう性格だ。頬をかきながら笑って見せていると、彼女の父親が深々と頭を下げた。
「……なるほど、よく分かった。この度は助けていただき、本当にありがとうございます」
「いえそんな、私は当然のことをしただけで……」
幽霊退治が当然のことかと言われれば否だが、私は先輩として、モモちゃんを助けるために頑張るのは当たり前だ。なので手を横に振って気にしないで欲しいと願う。
「……それに、退治する過程で家の物を色々壊しちゃいましたし、本当に申し訳ないです」
そういう意味も含めて気にしないで欲しい。いやホントに。
「家など直せる。桃音と妻が無事だったことが何よりだ」
よし、どうやら弁償とかの心配はしなくて良さそう。やったね。
「特殊な状況に身を置いているとはいえ、他者のために命を懸けられる人は多くない。そういう意味でも君は立派だ。本当にありがとう」
「いえそんな……」
「……それに比べて、一家の柱になるべき私が危険の元凶を作っていたなんて情けない。父親失格だ」
「お父さん……」
顔をしかめて俯く昭さんを、モモちゃんが何とも言えない表情で覗き込む。人の顔色をうかがいながら生きてきた私なら分かるが、あれは心配と困惑が混ざっている顔だ。
だから、私は2人の心を繋げるために言葉を紡ぐ。
「そんなことありませんよ。貴方は家族の安全を第一に考えて、迅速な行動をしました。だから私達が間に合って、全員無事だったんです。ご立派ですよ」
「……そうだろうか?」
「はい。ですからこれを機に、普段から家族のことを考えているってことをアピールしても良いんじゃないですか?」
「それはどういう…………?」
昭さんが疑問に思ってモモちゃんの顔を見ると、彼女は反射的に目を逸らした。それを見て彼は察したのか再び俯く。
「…………」
「…………」
しばらくの沈黙。この空気を作ったのは私だけど、ここから先は親子の問題だ。2人が自分の言葉で本音を語らないといけないので、邪魔者は退散するに限る。
「では、私はそろそろ失礼しますね。モモちゃん、また明日学校で」
「は、はい。本当にありがとうございました」
「心配する必要ないかもしれんが、夜も遅いから気を付けて帰るんだぞ」
「はい。あ、それと……今回の件は内密にお願いします」
「勿論だ。墓まで持っていくと約束しよう」
「わ、私も……!」
「助かります。では、失礼します」
最後に御辞儀をして、私は居間から立ち去る。そのまましばらく親子2人きりの沈黙が続いたが、
「……桃音、俺が嫌いか?」
「……うん。というより、怖かった。いつも怒鳴るから」
「そうか……すまない。つい肩に力が入る性分でな」
「……いつか殺されるんじゃないかって何度も思った」
「そ、そんなこと…………いや、そう思われても仕方ないか。だから今回も先輩を頼って……」
「お父さん……?」
「悪かった。お前を刀に近づけたくなかったし、オカルトにハマって変なことをしないか心配だったんだ。ああいう言い方しかできなくて、本当にすまん」
「え……私のことが嫌いなんじゃないの? だからいつも怒って……」
「そんなわけないだろう、大事な一人娘だ。これからはお前の心も大事にできるよう、努力するって約束する」
「……お父さんっ! 怖かった、怖かったよぉぉぉぉぉ!!」
感情の発露と共に、お互いを抱きしめた。
「ふぅ。どうなることかと思ったけど、一件落着だね」
「ええ。まさか霊力目当ての事件だとは思いませんでした」
星一つない暗雲の下、私達3人は自宅を目指す。夜道は危険と言われたが、道中の浮遊霊は来る時に剛じいが全て倒してしまったので、帰りは気楽だった。モモちゃんも助けられて清々しいまである。
「…………」
しかし肝心の功労者である剛じいは浮かない顔をしていた。普段一番うるさいのが黙っていると流石に気になるので声をかける。
「剛じい、どうかしたの?」
「ああいや、今回はモモちゃん達を巻き込んでしまっただろう? それがちょっと罪悪感でな……」
「うっ……それは確かに」
「俺や奈鈴が狙われるのは100歩譲って仕方ないとして、無関係な人にまで危害が及ぶのは看過できんからな」
100歩どころか10000歩譲っても嫌だけど、まあ言いたいことは分かる。私の『霊視を治す』っていう個人的な理由に周囲を巻き込みたくはない。
「俺が力をつけるほど、俺を狙ってくるやつもいるってことか。もっと強くなって、早く霊視関係を解決しないとな」
「純粋な疑問なんだけど、霊視が治れば解決するの? 剛じいが狙われるってことは、私にも矛先が向くってことなんじゃ?」
「ああ、そこに関しては大丈夫だ。詳しくは霊視が治る目途が立った時に話すぞ」
勿体ぶる剛じい。正直気になったが、珍しく話を濁しているあたり複雑な事情でもあるのだろうか。まあ剛じいが私の安全を考えてくれているのは一応分かってるし、深堀はしないことにした。
「そっか……じゃあ早く強くなってね。私も元の生活に戻りたいし」
「任せておけ! ここ数日の戦いで確実に強くなっている。この調子ならすぐだぞ!」
一転して笑顔でマッスルポーズを決める。引っかかることはあるけど考えても仕方がないし、当の本人がやる気を見せているなら問題ない。
「でも、また心霊スポットに行くのはやっぱり気が乗らないなぁ」
そんな愚痴を言いながら道の角を曲がろうとしたその時、
「よう江宮。こんな遅くに会うなんて奇遇だね」
その先から声をかけられ、ビクッとして立ち止まる。そこには黒髪に朱色のメッシュが特徴的なクラスメイト、佐野山黒江さんがスマホ片手に佇んでいた。
「うわ! びっくりした……脅かさないでよもう」
「え、アンタならこれくらいじゃビビんない思ったんだけど」
「どんな根拠で……」
「だって幽霊と戦ってるみたいだし?」
その一言で顔が凍った感覚があった。え、この人なに言ってるの?
「……いやいや、例の噂の話? そんなの信じられても困っ——」
「いや、それっぽいところ実際見ちゃったからさ。はいこれ」
そう言って佐野山さんが持っていたスマホを取り出した。そこには、
『アハハハハハハハハハハハハハハ!』
『ぎゃあああああああああああ!』
白川家の玄関で、人形に襲われそうになった私の動画が映しだされていた。
『う、うん平気……それよりそっちは……やっぱり中を調べなきゃダメなのね』
ただ剛じいとユウちゃんの姿や声は映っておらず、私の悲鳴と共に浮いていた人形が静止・大破、そして独り言と共に家に入って行くと言う、何ともおかしい絵面になっていたが。
「……えーっと、これはその」
「私もこの目で人形が飛んでるの見た。最初は何かの仕掛けかと思ったけど、壊れた人形の頭がまた浮いて家に入って行ったのを見て、本物だと確信したってわけ」
ドッキリの類とかで言い訳しようと考えていたが、それより先に説明されて退路が塞がった。ヤバい、これは非常にヤバい。
「つまりこれで奈鈴さんを揺すろうと? それなら少し痛い目に合わせないとですかね……」
ユウちゃんがいつの間にか佐野山さんの後ろに回り、見たことも無い形相で睨んでいる。そっちの意味でも非常にヤバい。
「待って……それを見せて、佐野山さんは何がしたいの?」
「そうだなぁ、この動画だけじゃ幽霊うんぬんの話が信じられるかっていうのは微妙なトコだけど、少なくとも江宮が巫女見習いだとかっていう話に拍車はかかるよね」
「例の噂をもっと広めたいってこと?」
「いいや。ドラマとかでよく見る『この動画を消して欲しければ言うことを聞けー』的なやつをやりたい」
「随分ストレートに言うね……」
「やはりここで落とし前を……!」
ユウちゃんステイ! とりあえず要望を聞いてみてから判断しよう!
「私に何をしてほしいの……?」
「それを言う前に、私の質問に答えて」
そう言うと、佐野山さんは改めて私に向き直った。いつものダルそうな表情からは想像できないような、キリッとした顔で。
「幽霊はいるらしい……なら、運気だとか開運グッズだとか、超能力者っていうのも本当に存在するの?」
「へ?」
予想外の言葉に、思わず間抜けな声が出た。剛じいとユウちゃんもポカンとしたが、佐野山さんの表情は真剣そのものだった。
「正直に答えて。そこんところどうなの?」
「えっと……私は幽霊しか見たことないし、分かんない」
幽霊2人も、肩をすくめて首を横に振っている。どうやらオカルト存在本人でも分からないらしい。
「そっか……まあ、この際ホントにあるのかはどーでもいいや」
「えっと、それはどういう……?」
私が首を傾げていると、佐野山さんはゆっくり私に近づき、両手で肩を掴んで頼んで来た。
「……アンタの力で、私の両親の目を覚まさせて欲しい。もう限界なんだ!」
「ご両親を……?」
力強く頷く佐野山さん。これはまた、面倒なことに巻き込まれそうだ……。




