友達⑵
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全校生徒がグラウンドで行われているサッカーの決勝に集まる中、わたしはこっそりと一人抜け出し、誰も居ない中庭のベンチに座っていた。
考えなくちゃいけないことがたくさんある。
あれだけジオン様には目立つことはしないでと話していたのに、言ってる本人がこのありさまだ。
戻ってからは体を動かすことも無かったし、日常生活の中じゃ全くわからなかった。
まさかあんなに跳躍力もパワーも上がっているなんて。
自ら進んでスポーツはやらないから大丈夫だとしても、問題は体育の時だ。自分の力を考えて行動しないと、とんでもないことになる。
シュプリンガーがあっちの世界にあるから、せめて魔法が使えなくて幸いだった。
「ここいいかな?」
突然声をかけられ見上げると、知らない男子が立っていた。
「バレー大活躍してたね」
面識の無い人からも声をかけられるくらいに目立つ行動だったんだと思うと、自分が嫌になる。
「いいえ、あれは力みすぎただけで。あの、わたしはもう行くんでここどうぞ」
ベンチを譲ろうとすると「ハルちゃんの隣がいいんだよ。まだいいでしょ?」とすかさず横に座ってきた。
ハルちゃん?
知らないと思い込んでいたけど、ほんとは知り合いだっけ?
わたしは立つタイミングを失い、隣に座った男子の横顔を見る。
目鼻立ちのくっきりとした愛らしい顔立ちで、サラサラの茶髪。
アイドルグループにでもいそうな爽やかさがあって、流石に知り合いなら忘れない気もするんだけど。
「緋岡ハルちゃんだよね? クラスの子に名前聞いたんだよ。校舎も違うから全然接点無いもんね。俺4組の植草リヒト。よろしくね~」
「……はあ」
やっぱり知り合いじゃなかったらしい。
知り合いでもないのに、知らない異性の名前に『ちゃん』付けって、距離感の縮め方がえげつない。
「ねえねえ、ハルちゃんはどっちが好き?」
彼の手の中には紙パックのジュースがあって、イチゴミルクとスポーツドリンクだ。
これはどっちか選ばなくちゃいけないやつ? でも知らない人だしな。
「じゃあ、はいどうぞ。ハルちゃんはイチゴミルクって感じかなあと思ってさ」
押し付けられたイチゴミルクを困惑しながら受け取る。
「イチゴミルク嫌いだった?」
「いいえ、嫌いじゃないですけど」
「じゃあ良かった」
「どーぞ」と満面の笑みですすめる彼に逆らうことができずに、「いただきます」と紙パックにストローを差した。
蝉がミンミンとうるさい中庭の木陰で、知らない人と二人、どういう理由かわからずにおごられたジュースを飲む。
この謎の時間は何なんだろう?
「俺のふるさとにはさ、イチゴミルクはあるけどスポドリは無いんだよねぇ。だからこの絶妙な甘ったるさって新鮮で好きなんだ」
「……はあ」
他愛も無いジュースの話に、不抜けた返事くらいしかできない。
でもスポーツドリンクが無いって一体どこの人なんだろう? 紙パック入りのスポーツドリンクが売ってないって意味なのかな? 確かにコンビニでは見かけないや。
「ハルちゃんはここ出身?」
「えっと、はい。地元です」
「そうなんだ? ここの人じゃないのかと思った」
言葉でもなまってた?
そんなこと言われたのは初めてだ。これでもひいおじいちゃんの代から住んでる地元中の地元なんだけど。
ちらりと隣を見ると、目が合った。
正面を向いてひたすら返事だけをしていたわたしとは違って、彼はずっとすぐ隣のわたしの方を向いて話していたようだ。
気まずくて慌てて視線を逸らす。
「……な〜んか馬鹿らしくなってきたな。ハルちゃん全然警戒解いてくんないんだもん。甘いジュースでも飲めばちょっとはなごむかと思ったのにさ……むっず!」
ほんわかとした雰囲気で話していた彼のムードが一転する。
「女の子ってあっちから寄ってきてくれるし、自分からアプローチすることも無いからさあ。だから警戒されることも無いし、どうすりゃいいのかわかんないんだよね? っていうかぶっちゃけ遠回しに話すのもだるくなってきたし」
もしかしてわたしは可愛い顔をしたゴロツキにからまれている?
「バレーの時さ、必死に力抜いてたよね? あのままじゃ言い訳できないレベルのアタックするとこだったもんねえ?」
ぎくりとした。
観察でもするみたいに、あの試合でのわたしの動きをつぶさに見ていた人がいるんだ。
ヘラリと笑う彼がベンチの背もたれに肘をついて距離をつめてきた。
「ハルちゃんって何者なの?」
いつも鈍くて無反応のわたしの警報音が、遅ればせながら頭の中で鳴り出す。
この人は危険だ。
すぐに逃げた方がいいやつだ。
「ふ、普通の運動音痴の高校生です」
さっきまで天使みたいに可愛かった顔が、今や意地の悪そうな笑みを浮かべてスポドリをちゅーっと吸い終わった。
「そんな事言って誤魔化せると思ってんだ? 参ったなあ。ハルちゃんのことどうしちゃおっかな~?」
彼が人差し指をすっと上げた。
明るい陽光の中、紫色の光が浮かび上がる。思わず足下に目を落とすと小さな魔法陣が展開されていた。
まさか魔法!?
ぞわりと背筋に悪寒が走り、それを避けようと反射的に跳び上がった。着地したのは目の前の花壇の向こう側。
ベンチからの距離、およそ5メートル……。
ヒュウッと彼が前のめりになり口笛を吹くと魔法陣が消えた。
「やっぱただの人間じゃないじゃん。しかも魔法陣だって見えてるみたいだし」
猫の姿でしゃべりだそうとしたジオン様の比じゃない。
今のわたしの行動の全てがアウトだった。
思いっきり魔法陣を見て避けてしまった上に、ノーモーションからいきなり5メートルの大ジャンプ。
わたしもアウトだけど、彼、植草リヒトにとってもそれは同じことだ。
この世界でわたし達以外に魔法を使える人がいるなんて、そんなことありえるの?
「あ、あなたこそ何者なのよ!?」




