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ここには無い何か⑴

 驚いたのは魔王の居室の明るさだ。


 壁一面大きな窓が連なり、ドーム型の天窓もある。そこから豪華なクリスタルのシャンデリアが下がりキラキラと太陽の薄い光が反射している。


 お化け屋敷(洋風)みたいなのを想像していたからギャップが凄い。


 この部屋に入ってようやく離してもらえたけど、抜き身の剣を持ったまま魔王の消えていった奥の扉を警戒する。

 いっそ窓から飛び降りようかと思ったけれど、下に見えるのは底の見えない崖だった。黒い翼を持った大きな魔物がそこを飛び交っている。


 冷静に考えよう。

 わたしをどうにかする気なら、さっきの大広間で殺されていたはず。


 扉が開いて魔王が戻ってきた。

 

「お前に見せたい物はこれだ」


 大きなダイニングテーブルの上に一冊の本がぽとりと置かれた。


「……えっ?」


 脳みそがショートした。

 あるはずの無い物が普通に存在していると、あり得ないと思いこんでいる自分の方がおかしいんじゃないかと頭が錯覚する。


 だってそこに置かれたのは『ファイヤーストーム8』と書かれたマンガ本だったのだ。


 視線に気付いて顔をあげると、無表情の魔王と目が合う。


 いやいや、やっぱりあり得ない。

 マンガと魔王だなんて、マンガの世界に魔王がいるからオッケーな訳で、実際のマンガと魔王が並んで存在すると違和感しかない。


「これは行商の魔人が持ち込んだ物なんだが、絵画集なのか説話なのかよくわからんのだ。異世界より持ち込まれる稀なる異物だと言われているのだが、客人まれびとのお前にならわかるか?」


「……ええ、間違いなくわたしの世界の、しかもわたしの国の本ですね」


「おおそうか!! お前の国の物か!? やはりそういう予感がしていたのだ」


 フフフと魔王は興奮を隠しきれないといった様子で、嬉しそうに笑顔を浮かべた。

 

 ま、魔王が笑ってる!?

 

 なんだかとてもビックリした。

 魔王という存在なんて怖いものでしかないのに、こんな風に笑うなんて全くの想定外だ。


「これには何と書いてあるんだ? 美しい絵が描かれているがどういう順序で見ていけばよいかもわからん。これは何なのだ?」


「これは『マンガ』という読み物です。タイトルはファイヤーストームっていうんですけど、うちのお父さんも全巻持ってるくらい昔大ヒットしたみたいですね」


「どういう話だ?」


「えっと……」

 

 そこでようやく気づいた。

 驚きすぎて思わず普通の会話をしていたけれど、わたしはこの魔王を倒しに来たんだった。

 何をのん気にマンガの話なんて。

 

 ほんの微かな気配の変化に気づいたようで、魔王がわたしの腕をぐっと掴んできた。


「その剣をしまえ」


「こんなくだらない話をしに来たわけじゃないわ」


「俺は話をしたいだけだ」


 もう一度自分に気合いをいれるように、魔王の顔を睨みつけた。

 

「じゃあ、今すぐ人間の町への侵攻をやめて!!」


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