魔族の性分⑵
カッカと熱くなった体を冷まそうとバルコニーへ出る。
ユリアさんが変なことを言うもんだから、イヤな汗が出た。
そういえばいっさい気に留めたことは無かったけど、ジオン様って独身なんだ。
恋人とかはいるのかな?
いやいや、そんなのどうでもいいんだけど。
ふと視線を落とすと月明かりの中、わたしとジオン様が落下したあの池が見えた。その中央辺りに、この前はなかったはずの小さな建造物がある。
「一度見に行ってみるか?」
「ぎゃあっ!!」
いきなり耳元でジオン様の声がしたから、わたしは飛び上がって驚いた。
「なんだ!? 驚かすな!」
「驚かすなって、こっちのセリフですよ。勝手に部屋に入ってきて、いきなり後ろから囁くのはやめてください」
「俺はちゃんと声をかけて入ったからな?」
「聞こえませんでしたけど」
まったくもう。
女の子の部屋にこんなに遅い時間に来るのもどうかと思いながら、もう一度外へと視線を戻した。
ジオン様が何事も無かったように話し出す。
「あれはレイヴン王国から持ち帰った神殿だ。あそこに移設してある。魔法陣の書き換えも進んでいるようだから、一度見に行ってみるか?」
「ええ、そうですね。行ってみたいです」
「よし」
ジオン様がそう言って腕を広げた。
「え? なんですか?」
「このまま飛んで行けば早かろう? 転移でもいいが」
「今から行くんですか!? もう暗いし、わたしお風呂に入っちゃったから明日の方がいいんですけど」
「明かりはついているし、少しだけ見て戻ればいい」
ジオン様がいきなりわたしの手をとった。
それは心臓がドグンと鼓動したのと同時だった。
バジンッ────
稲妻が弾けたような音がして、ジオン様の手が跳ね上げられる。
「え?」
見ると指先から細い煙が上がっている。
「大丈夫ですか!?」
手の平をのぞき込むと小さなほくろみたいに黒く焦げた場所がある。
ジオン様の治癒能力なのか、みるまにそれは消えてしまった。
何が起こったのかわからなかったけれど、「ハルの方こそ大丈夫か?」とジオン様が気遣ってくれる。
確かにあの威力であれば、わたしの手だってただでは済まない。
手をくるくるとひねりながら見てみるけれど何ともない。痛くなかったから当然か。
「わたしは大丈夫みたいです」
「いや、よく見せてみろ」
顔を近づけぐっと手を引っぱられると、心臓がまたドキンと跳ねた。
バジンッ────
今度こそわかった。
これは紛れもなくわたしの力で、そしてジオン様を攻撃している。
「……なぜ魔法を使う?」
ジオン様もそれに気付いたらしく、目を大きく見開きどこか愕然としているようだ。
「ちょっと待って下さいよ。わたしの力みたいですけど、魔法は使えないんですよ? だってシュプリンガー持ってないし。ほら」
チェストの上に置いている聖剣はぴくりともしていない。
「どういうことだ?」
「どういうことか、さっぱり」
怒っているのかなんなのか、ジオン様は瞬き一つせずジッとわたしの事を見ている。その瞳が燃えるような赤色になっていることに気付いた。
自宅ならTシャツとスウェットがテッパンなのに、今お風呂上がりに着ているのは胸元が開いてるパフスリーブのネグリジェだ。
急に素肌が出ているところが心もとなく感じて、首や鎖骨の辺りをさすってしまう。
うー……これ以上、熱視線にさらされるのはムリ。
居たたまれなくて、変な汗が噴き出してきた。
「あ、あの、もう今日はとりあえずこれで解散ということで、また明日にでも────」
視線を逸らして距離をとろうとした時だった。
いきなり背中に手を回され、よろけるようにジオン様の腕の中に体がすっぽりと収まってしまう。
「俺を避けようとするな」
ジオン様の吐息がこめかみの辺りにかかり、カーッといっきに血が巡る。
「離して下さい!」
パアァァァン!
何の力かわからない能力が発動してジオン様を体ごと弾き飛ばす。
これはやっぱり魔法じゃない。
魔法じゃないんだけど、たぶんこういう事だ。
ジオン様を意識しすぎて、わたしの中の何かが強烈に反応している。
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