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レッドクレイン城⑶

 その時ゆらりと足下に赤い魔方陣が展開されたのに気付いた。

 部屋の隅を円形に炎が渦巻き、人々が騒然とする。


「お前達は勘違いをしている」


 ジオン様がパチンと指を鳴らすと炎は消えた。


「今のは幻だが、これ以上ハルを侮辱するならいつでも本物を出してやろう」


 ジオン様が脅したのはわたしじゃ無いんだけど、ドッと冷や汗が出た。

 

 部屋の中は水を打ったように静まり返る。


「えーっと、あの、その、つまりそういう事なんです。ジオン様がもしも人間を滅ぼそうと思えば魔物なんか使いませんよ。こうやって簡単にお城にも来られるし、強大な魔法だって使えるんですから」


 口元を押さえたまま黙っていたエドゼル王がわたしの顔を見た。


「魔物は魔族とは無関係に人間を襲っているのだな?」


「そういうことです」


「なんたることだ」と陛下は苦しそうに顔を歪め、手で顔を拭う。


「我々は間違った相手に、勇者たちを一方的に送り込んだのだな。ジオン殿、われわれは────」


 ジオン様が片手を上げて、陛下の言葉を遮った。


「わかってもらえれば言葉はいらん。それよりも話の続きだ」


 ジオン様って空気が読めなくて言いたいこととかその場ですぐに口に出してしまうけど、今のは陛下が謝罪をしなくていいように取りはからったように見える。


 正式な場所で王様がたくさんの臣下の前で頭を下げないで済むように?


 ジオン様が条件に出した、もらい受けたい物とは、わたしが召喚された魔法陣のことだった。


 召喚を転じ、元の場所に対象を戻すには同じ魔法陣を使う方がてっとり早いのだそうだ。そうしなければ全く別の場所だったり、時間軸にズレが生じる可能性があるらしい。それはそれで困る。


 レッドクレイン城のすぐ側に白い石造りの神殿がある。壁は無く石柱と屋根だけがあり、初めて見た時はギリシャとかにある神殿に似てるなあなんて思った。

 その神殿の中央に、わたしが召喚された魔法陣がある。

 巨大な円に沿って不思議な形の文字が羅列している。一つ一つの文字がツルツルの黒い石の床に丁寧に彫り込まれている。

 

 ジオン様はこれをどうやってもらい受けるつもりなんだろう?


「皆下がれ」


 ジオン様が声をかけると、神殿の外に出てみんなで何が起こるのかと見守った。


 片手を上げると巨大な赤い魔法陣が神殿の上空に現れた。そのまま下降していくと神殿丸ごと光の粒子に覆われ消えてしまった。


 見ていた人たちのどよめきが起きる。


「すごっ」思わず声が漏れた。


「建造物の転移魔法など信じがたいな。しかもこの城には結界が張られているというに」


 わたしの隣で陛下がぽかんと口を開いて呆気にとられている。


「レッドクレイン城には結界が張ってあるんですか?」


「どこの城にも張ってあるのだ。敵が急に城の中枢に転移してきては困るからな」


「なるほど。だからわたし達が現れた時、みなさん驚いてたんですね」


「人間と比べれば圧倒的な力の差だな。確かに魔族は魔物とは関係ないようだ。そうでなければとうに人間は滅ぼされていただろう」


 陛下は確信したように言いきった。

 ジオン様の力を直接見て納得したらしい。

 百聞は一見に如かずというやつだ。

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