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魔王⑴

 男の姿が消えて、結構時間が過ぎた。少し気が緩んでいたのは間違いない。

 だけどわたしは反射的に立ち上がる。


 静電気に産毛が立ち上がるみたいな感覚──と言えばわかりやすいのかもしれない。

 今まで感じたことのない強烈な存在が近くにいる。


 立ち上がった弾みで椅子が勢いよく倒れた。と同時に剣を鞘から抜いて構える。

 わたしの只ならぬ様子に、2人とも警戒を強めた。


 玉座の奥からでも無く、従者の男がいた回廊からでも無く、背後にあるわたし達が入ってきた扉が音も無く開く。


「おまたせしましたぁ~」


 さっきの従者の声がすると、彼と共に扉から入って来たのはスラリとした背の高い若い男だった。

 

 印象的な紅の瞳に白い肌、鼻筋の通った美しい顔立ち。長い黒髪は肩の辺りで緩やかに結ばれている。ゆったりとした藍色のローブを羽織り、どこか気怠そうな雰囲気だ。

 けれど男の重たい視線だけは、まっすぐにわたしへと向かう。


 聖剣が意思をもった生き物みたいに、ビタリと掌に吸い付いてくる。

 こんな事は初めてで、そしてわたしは確信する。


 間違いない。

 この男が魔王だ────。

 

「どうですかジオン様!? 言った通り少女だったでしょ!?」


 ピンと張り詰めていた空気を騒々しい声が割って入る。


「まだ子どもではないのか?」


「そうなんですよ! こんなに若いのに頑張ってここまで来たんですよ? ジオン様も見習わないと」


「俺だってやるべき事はやっている。お前が細かいだけだぞ?」


 突然青白く光る魔方陣がわたし達の目の前に現れた。

 その中央から吹き出す白い煙が辺りを包み込んだ。


 敵の攻撃では無い。

 まず動いたのはエルザさんだ。魔方陣を展開させて、防御と魔法防壁の呪文をわたし達にかけた。


「あなたが魔王ね。覚悟してもらうわ」


 大広間にわたしの声が響く。

 やるべき事はただ一つ。


 魔王を倒せば平和が訪れるんだ。


「覚悟? 何の覚悟だ? だいたいお前達は──」

 

 カール様よりも速く、わたしは走り抜ける。


 心は想像していたよりも静かで、これまでの戦いの中でも一番と言えるくらいに頭は冴えわたり体は軽い。


 空中へと飛び上がり、聖剣に導かれるままに魔王へと振り下ろした。


 瞬きをした彼の瞳は間近で見ると、宝石みたいに美しい。

 紅の瞳は中心にいくほど濃く黒く、まるで暗い夜空をかき消す夜明けの赤────次の瞬間には不快そうに眉をひそめた。


「娘。人がまだ話しているのに礼儀を知らんのか?」


 魔王はいとも簡単に聖剣の刃を左手で受け止めた。


「なっ!?」


 これ以上振り下ろせない。でも引き抜くこともできない。

 魔王は刃を掴んだまま、上方へ剣ごとわたしは引っぱりあげる。軽々と体が浮き上がり、そのまま右腕で体をがっちりとホールドされた。


「ハル!!」


 血相を変えたカール様が魔王へと剣を振り抜き、援護するようにエルザさんが魔方陣から氷の刃を放つ。


「うちの主の邪魔をしないでくださいね~」


 にこやかに直立していた従者が、短剣でカール様の長剣を受け止めた。もう片方の手でエルザさんの氷の刃に触れると、かき氷みたいに削られ、ふわりと床に落ち消えていく。


 最強の剣士と大魔導師だ。なのに魔王の従者1人を相手にまるで歯が立たない。


 こんなに力の差があるなんて……!


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