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最後の戦い⑵

「あんた何言ってんのよ?」


 エルザさんの厳しい声に、従者の男ははっと気づいたように手を顔の前で振る。


「いえいえ、別にうちの主が女好きだと言う意味じゃ無いですからね!? 誤解しないで下さいよ!?」


 勇者が乗り込んで来たというのに、全く緊張感の無いこの男に対し、わたし達のボルテージも上がっていく。


「魔王を出さないなら、お前を倒した後、我々でこの城をしらみつぶしにするまで」


「まあまあ、そんなに興奮なさらず。うちの魔王様、100年も引きこもってるから説得にちょっとお時間下さいね。それまでこちらでおくつろぎ下さい」


 パチン

 と指先を鳴らすと、突然立派なダイニングセットが現れた。

 しかもテーブルの上には湯気をたてた紅茶のポットと皿から零れそうになるくらいに盛られたフルーツがある。


 そして一瞬目を離した隙に、男は煙のように姿を消していた。


胡散(うさん)臭い男ね」


 はーっと息を吐き出して、すぐに緊張を解いたのはエルザさんだ。何の疑いも無くその怪しさ満載の椅子に腰掛けた。


「罠かもしれませんよ!?」


「大丈夫よ。私の心眼は誤魔化せない。これは正真正銘、呪いも毒もない普通に豪華なダイニングとティーセットよ」


 エルザさんは大魔導士だ。

 攻撃魔法はもちろん治癒魔法や防御系魔法なども使いこなす。


 ざっくりと胸元の開いた魔法衣を身につけていて、胸の谷間の少し上には大きくて艶やかな楕円形の黒真珠がある。


 それが彼女の言う『心眼』だ。


『心眼』は罠や呪い、気配を感知することができる。それは肌に埋め込まれていて、本物の第三の眼のようだ。


 エルザさんが言うのなら間違いないんだろうけど、さすがにテーブルの上の食べ物に手をつける気にはなれない。

 ただ5日の間、ろくに寝ることもできず、魔物と戦いつつ歩いてきたのだから疲労困憊ひろうこんぱいだ。


 わたしも確かめるように座面を触ると、エルザさんの隣の椅子に腰掛けた。


 女性陣2人が座っても、やっぱりカール様は休むことはない。さすがはレイヴン王国の国境騎士団長を務めるほどの筆頭騎士は心構えが違う。


 彼は周囲への警戒を怠らず剣も抜いたままだ。


 旅の中で出会う人々がカール様のことを勇者だと思うのは当然だろう。

 付け焼き刃の勇者なんかよりも、威厳のあるたたずまいはまさに理想の勇者そのものだ。


 この世界に召喚されて5ヶ月、何の特技も無い平凡な高校生が、異世界で勇者としてあがめられ、半ば強制的に冒険の旅に出るなんて死刑宣告に近い。


 それを支えてくれたのがこのカール様と、隣に座るエルザさん、そして勇者だけが扱える武器──【聖剣シュプリンガー】だ。


 魔法なんてゲームか映画の世界のもの、想像上の産物に過ぎない。

 そんなわたしが魔法を使えるのは、あらゆる魔法陣を刻印している聖剣があるおかげだ。


 棺みたいな箱に収まっていた剣は、わたしの身長くらいある巨大な剣だった。

 手に取ると、意外やそれは軽くて、そして光輝きながら徐々に縮んでいった。


 聖剣は勇者に合わせて形を変える。

 縮んだ聖剣は刀身が細く薄く、自分の顔が映るほどに艶々としていた。


 どこか日本刀に似ているのは、わたしが日本人だからだろうか?


 剣術にいたっても、魔法と同じく、わたしなんて未経験のど素人だ。


 短期間で強大な魔物を相手にできるほど剣が扱えるようになったのは、カール様の教えが良かったからだろう。(わたしは魔法よりもいくらか剣の方が得意みたいだ)

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