魔物の森⑵
最初の騒々しさから一転、森は不気味なほどに静まりかえっている。
カール様とエルザさんと森を往く時は、気配をけしつつ、辺りに細心の注意を払っていた。だから不意打ちを食うということはなく、それでも遭遇率は他のどんなダンジョンよりも高かったと思う。
だけど歩き出してかれこれ30分以上が経つ。その間小さな魔物にすら遭うことなく、わたしたちは歩いていた。
もしかして、ジオン様がいるから他の魔物が避けているのかもしれない。
考えてみれば魔物にとっては獲物になり得ない魔王に遭遇しても何一ついい事は無い。何より野生の勘ともいえる警戒心が働いているんだろう。
さっきの森の喧噪はジオン様から逃れようとする魔物達の啼き声だったんだ。
どれほど進んだかと空を見上げる。
分厚い雲に覆われてお日様は望めないけど、遠くにある山脈の頂が枝葉の隙間からそろそろ見えてもいい頃だ。だけど木々の向こう側に見えたものにわたしは絶句する。
だってそこにあったのは魔王城、ヘルシャフトの尖塔だったからだ。
うそ! これって戻ってるよね!?
どう考えてもわたし達は人間の町ではなくて、魔王城に向かって歩いている。
「……あの、ジオン様。このまま歩くとヘルシャフトに戻っちゃいますよ?」
何か意図があって来た道を戻っているのかと、おそるおそる尋ねた。
ジオン様はピタリと足を止めた。
「何を馬鹿なことを……」
「だってほら」
指さす方を見て、一瞬目をまん丸とさせた事をわたしは見逃さなかった。
「……そろそろ昼では無いか? ハルも腹が減っているだろう?」
「減ってませんよ。まだ朝食とってから2時間くらいですよ?」
まるで食事のために戻った風を装うジオン様に、わたしは疑惑の目を向ける。
この人まさかとは思うけれど……いやもしかすると方向音痴なんじゃ??
2時間も無駄にしたと思うとわたしは嫌気がさした。
魔物に遭わなかったのはラッキーだけれど、ジオン様について行ったんじゃ町には永遠にたどり着けない。
「あの、よければわたしが前を歩いてもいいですか? 昨日まで森の中にいたんで、方角はなんとなくわかるんです」
「ああ、かまわないぞ」
とにかく偉そうだなと思ったけれど、時間も無いことだしわたしはさっさと歩き出した。




