偽りの黒帯
「相手の力を利用して投げる」
合気道のキャッチコピーとして定着していますね。嘘ではないです。
しかしこれは別段、合気道に限られたものではありません。
柔道、レスリング、相撲などの組み技格闘技では当たり前に使われている技術です。
打撃系でもカウンターなんかは当てはまるでしょう。
もっと言ってしまえば、これらの格闘技は技術水準が合気道よりも高いと思われます。なぜかといえば、柔道やボクシングは「力の利用」の前にフェイントなどで「相手を誘う」というプロセスを踏んでいるからです。とても高度な技術であり、合気道でそういった水準で「力の利用」ができるのは開祖の高弟かその内弟子くらいです。
でもいいのです。「できたらいいな」くらいに思っておけばいいのです。合気道にはもっと大切なことがあるのですから。
それは「自分の身体を利用する」ことです。ちょっと分かりにくいですね。「自分の体重を活かす」とも言われていました。
例えば私の体重は60kgなのですが、私が突きを打ったのならば60kgの鉄球を叩きつけた時と同じ衝撃を生むことがベストなのです。また、相手に押される状況では60kgの銅像の如く動かないことが求められます。
「相手」がどうだなんて「自分」のコントロールが出来なければ無理ですし、無意味です。
では合気道家はどれだけ「自分の身体」を使えているのでしょうか?
60kgの身体で、60kgの重量利用ができる段階が100%とすれば、黒帯とりたての子たちは20%しか使えてないと思います。そこから一年間稽古を続けたとしても、いいとこ25%。頑張れば三年後には30%になれるかもしれませんが、たぶんそこらで頭打ちになると思います。そのくらい身体操作は難しいものなのです。
この身体操作こそが、合気道の核をなすファクターなのです。
それを理解していない合気道家は非常に多いです。どうして、そう、言えるのか?
ウエイトトレーニングをやっていないからです。加えて身体を大きくする食事をとる努力をしていない。
操作可能な割合が低く、頭打ちも見えているのであれば、母数、つまり体重を増やすのは当然の流れです。
同体格で黒帯取得後という基準で計りましょう。そこからたいして稽古はしていないが、一年間で10kg増量した人間。合気道の稽古だけを一生懸命やった人間。この二人を比べたら、先ず前者の方が強いのです。
こう書くと技術がないがしろになっているようですが、そうはならないです。
多少強引でも型にはめ込めれば、あとは徐々に脱力を意識すればいいだけなのです。その脱力のプロセスの中でこそ技のメカニズムは学習できます。
型稽古だけをやっている人間は壁にぶつかった時どうするか?延々と型稽古を続けるしかないでしょう。そして、そこに学びがあるかといえば、まあ無いです。
当然、前者の方が上手くなり、強くなります。しかし悲しいことにほとんどの合気道家は後者なのです。
私が黒帯を貰った際に、先輩からこう言われました。
「強くなったわけじゃないよ。初段なんてのは合気道を学ぶスタートラインに立てたってだけだから」
先輩の思うところとは違うのでしょうが、言葉そのものには賛成です。
ウエイトトレーニングをしていない子は合気道の本質を理解していません。もし黒帯を持っているのであれば返上すべきです。まだスタートラインに立ってないわけですから。
とはいっても「そこまでして強くなりたいとは思わない」というのが大多数の合気道家の意見でしょう。そりゃ、そうでしょう。知っていましたとも。合気道をやる人間ってのは心身共に弱いのですから。