ネイルアート
「爪を美しく保つのは芸術でございます。巷ではネイルアートが流行しております。ご存知でしょうか」
「とっくの昔に知っておる。予はナウでヤングなのだ」
「……」
もうその「ナウでヤング」はやめましょう。死語を蘇らせるのは自然の摂理に逆らっております。
「だがあれは可愛い女子がするから価値があるのだ。考えてもみるがよいデュラハンよ。回っていない止まっている寿司屋でネイルアートをした手で握ったマグロの握りを卿は食えるのか」
「ネイルアートで握ったお寿司でございますか」
爪に施された小さなラメや宝石が……誤って寿司に入れば異物混入? ……ガリッ? ガリじゃないのにガリッ?
「しょうがないのではありませんか」
ガリだけに……冷や汗が出る、寒すぎて。
「もちろん大将はおっさんぞよ。頭にねじり鉢巻き、カッパ巻き」
おっさん――! 頭のカッパ巻きってなんだ――。……だいたいの想像がつくのだが。
「さらにはネイルアートした爪と指の隙間は黒く、独特の匂いと例えようのない隠し味が出るのだぞよ」
ひい~!
「おやめください! 味の想像がつきませぬ――!」
ひょっとして、それこそが有名店の美味しい秘訣なのかと勘違いしてしまいます――! 寿司屋の大将だけが持つ特殊能力!
「深爪であれば無用な心配は起こらない。深爪こそ正義なのだ」
……。魔王様がドヤ顔で正義論を唱えないで欲しい。
「おにぎりだって同じだぞよ」
――ック、痛いところばかり突いてくる。
「おにぎりは……サランラップかビニール手袋を使って握ればよいのです。その方が雑菌の繁殖が抑えられて衛生的です」
賞味期限も大幅にロングります。あえて深爪にする必要はございません。ネイルアートをしていても安心して握れます。
「そこに愛情はあるのかぞよ?」
……?
「愛情……でございますか」
そこにって、どこにっだ?
「生手で握るからこその愛情ぞよ」
なんだろう、頭が痛くなってきたぞ。生手の愛情って……なんだ。両手がガントレットの私には理解できない感覚なのだろうか。
「いや、そんな難しい問題ではない。魔アイドルの握手会とかで手袋をしていたら……どう?」
あーそれな。
「生手の方がいいです! 手袋して握手されてもぜんぜん嬉しくございません――!」
「そーぞよ! そーぞよ! 絶対に生手の方が愛情いっぱい伝わるのだぞよ! そして、自分が握手した直後にアルコール消毒されていたらピエーンぞよ!」
「ピエーン!」
アルコール消毒……納得できそうで納得できない。いや、できる。
「おにぎりも同じで生手が一番ぞよ。
――料理をする者と食べる者との信頼関係こそが料理の愛情なのだ――!」
料理の……愛情……。
「いや、やっぱそれは違います。やっぱり食品は安全衛生こそが第一です」
ここは譲れません。握手とおにぎりは別問題です。
「魔アイドルが生手で握ったおにぎりよりも、品質管理され衛生的なおにぎりを私は食べたいです」
本当か? 本当なのか? 言っていて半信半疑になるぞ。もし、魔王様が生手で握ったおにぎりなら……あーどうだろう、深爪を許すことになってしまう~――!
「ヌヌヌヌ。だが、サランラップもビニール手袋も海洋プラッチック問題に拍車をかけるぞよ」
「――!」
魔王様が起死回生の笑みを浮かべるのが……イラっとする。少しだけ。
「ウミガメがビニール手袋を頭にスッポリ被って泳ぐ動画が撮られ「バズる」日がくるかもしれぬのだぞよ」
ウミガメの頭にビニール手袋がスッポリ……? 大丈夫なのだろうか。
「カメの……頭?」
「ウミガメぞよ~! 亀を強調して想像してはならぬっ」
「――申し訳ございません!」
はあ、はあ、危なかった……。魔王様も息を切らしている……。
「予が深爪を好むのは、予のためだけではないのだ。世のためなのだ」
「……微妙」
結局は色々な言い訳や御託を並べて自分の思い通りにしたいだけのような気がする。
まさに魔王様だ……。
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