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魔王様、深爪はやめて


「なぜだ。予が身だしなみをおろそかにしていては魔族全体の評判を落としかねぬではないか――」

「さようでございましょう。ですが何事にも程度がございます」

 パチンッ!

 ――!

 絢爛豪華な装飾が施された玉座に座り……丸いゴミ箱を両足で挟んで爪を切らないで欲しい……。百均の爪切りだ……。切った爪がゴミ箱に入らずに床に落ちていることにも気付いて欲しい。

「魔族にとって爪は武器になります。魔王様の爪は武器としては……微妙かもしれませんが、いくらなんでも深爪はやりすぎです」


 深爪はやめて頂きたいのです――。

 パッチンッ!

「指先が丸まっちく見えます。エレガントやシャープには見えません。すなわち、人間共がぜんぜん怖がりません!」

 パチンッ!

 ……。床にまた切った爪が一つ転がる。一番遠くまで飛んできた。爪を切る音で返事しないでいただきたい……。

「魔王様の迫力に欠けます――!」

 爪を切る手がピタリと止まり魔王様が切れ長の目で睨みつけてくる。

「迫力に欠けると申すのか。……見た目重視の予に対してちょっと無礼ぞよ」

 魔王様が……見た目重視?

「それのどこがだと言いたくなる。言わないけれど。冷や汗が出る」

「――ごっそり聞こえているぞよ! 言っとるぞよ! 冷や汗が口に出とるぞよ!」

 はっ! 私としたことが!

「申し訳ございません」

「……デュラハンよ。卿の謝罪の言葉は、ぜんぜん気持ちがこもっておらぬ。いっつも、いっつも? いっつも!」

 たしかにそうだった……耳にタコができそうだ。首から上は無いのだが。

「テヘペロ」

「……」

 パチンッ! パチンッ! パチンチンッ!

 無言で爪を切り続ける魔王様も……人の言う事をぜんぜん聞かない。……まさに魔王様だ。


「そもそも、予の爪は……深爪になどなってはおらぬ」

 指を立て私めに爪を見せてくれるのはいいが……中指一本だけ立てるのになんの意味があるのだろう。

「――そんなはずはございません。失礼します」

 さりげなく手に取って確認する。どう見ても……どの方向から見ても立派な深爪だ。ひいき目に見たとしても深爪だ。指はうっとりするほどお綺麗だ。家事や水仕事を一切していないお美しい指だ。

「さりげなく手に手を取って見るでない! 照れるではないか――」

 魔王様は慌てて掴まれた手を引っ込めた。……少し頬が赤い。(くれない)い。

「照れてはなりません。ボーイズラブのタグは貼っておりませぬ」

 冷や汗が出る。

「ボーイズラブッ! 幸せのヨーカン、きっとあなたを感じてるぞよ~♪」

「ボーイズラブッ! □マンスの神様どうもありがとう~♪ ――ってえ! それはボーイミーツガールでございます!」

 「ボーイズラブ」では意味がググっと変わってしまいます。ボーイミーツボーイでもございませんっ! 冷や汗が出る、古過ぎて。


 パチンッ、パチンッ。

 さらに魔王様の爪を切る音が玉座の間に響く。そして……より一層深爪になっていく。

「ああーあ、だから深爪になりますって! 適当に切らないでください」

 子供か! 私が代わりに切って差し上げたい。手に手を取って美しく切って差し上げたい!

「どうせまた伸びてくるのだぞよ。自慢ではないが予の爪は伸びるのが人一倍早いのだ」

 たしかに自慢にならない。魔王様はムッツリスケベだ。

「予はムッツリではないわい!」

 玉座の前で跪く私のところまで唾が飛んできそうだ。

「新陳代謝が旺盛なのだ。予には無限の魔力があるのだから」

「……怖いぐらい伸びそうですね」

 是非とも無限の魔力で爪を伸ばさないでください。いくら無限とはいえ魔力の無駄遣いはおやめください。サステナビリティに反します。無限の魔力って……。


「普通の魔王様であれば紫色や青紫色の尖った爪をしています」

「普通の魔王様って……酷いよ」

 魔王様は普通ではございません……。が、異常とは申せません。

「そして、尖った爪の先には毒がたんまり塗られていて、敵を少し引っ掻くだけでマヒさせたり死を与えたりする恐怖の武器なのでございます」

 故に魔王様は接近戦でもお強いのです。毒の爪は……ある意味チートです。

「マヒや死を与えるチート武器とな――! 怖すぎるぞよ」

 アワワと指先を口元に持っていかないでください。それ毒を塗る武器なんよ。

「魔王様はラスボスなのですから、それくらいのカリスマ性が必要なのです」

 でなければ興醒めです。

 ――深爪のラスボスなど興醒めの極地でございます。

 取っ組み合いの引っ掻き合いで戦っても~ミミズ腫れ程度の傷しか負わせられないでしょう~。


「だが、爪の先に毒を塗っていれば、ポテチ食べるのも命懸けになるではないか! 自殺行為ぞよ!」

 爪が唇に少しでも触れたら……猛毒で下痢するとか……唇が紫色になるとかか。

「スリリングでさぞかし美味しく感じられることでしょう」

 キノコやトラフグや黒い点々が見え隠れする食パンを食べる時のように……。

「指先に着いたポテチの塩を舐めるのが美味しいのだぞよ」

「それはしらん」

 しらんようで知っている。カラ〇―チョならなおさらだ。冷や汗が出る。辛すぎて。

「ヌヌヌヌ。ラスボスのカリスマ性はちょっとだけ欲しいけど、爪先に毒を塗れば蚊に刺されても掻くに掻けないではないか!」

 「ウフフ」と痒いのを笑って我慢するのが気持ちよいのでございます。とは言えない。我慢して我慢して掻いてしまうのが気持ちいいから……。

 ――でも!

「掻いてはいけません。ムヒを塗ればよいではありませんか」

 白くなるくらい厚塗りに……。

「卿はムヒが好きよのう。スポンサー契約でもしておるのか」

 魔王様もポテチが好きではありませんか。冷や汗が出る。スポンサー契約ってなんだ。

「ムヒは万能薬にございます。鼻の下に塗るとたまりません」

「――間違った使い方ぞよ!」

 玉座の肘置きをバンッと叩かれた。ひょっとして怒っていらっしゃる。

「――御意! 面目ない!」

「……面目ないは謝罪の言葉にはならぬ! ……そもそも卿には顔ないやん」

「テヘペロ」

「それもやめい!」


 ようやく左の爪を切り終わると、次は右の爪を切り始めた。いったい爪を切るのにどれだけ時間が掛かっているのか……。


 今日も平和な証拠だ……。嫌な予感しかしない……。


読んでいただきありがとうございます!


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[一言] ムヒを鼻の下に! そいつはたまりません(≧▽≦)
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