50.ダンカン・ダンヴィルの猛特訓
すみません、前の話投稿したつもりが投稿できていなかったみたいです!修正しました!(2023/6/24)
今私たちは王都にあるダンカンの別荘に滞在して踊りや楽器の演奏などの芸事の猛特訓をしている。コティヨンはエルメンタ王国での一番大きな宴で、その宴で私たちは何としても馬鹿にされるようなことはあってはならない。そんな事情を知っているのか、ダンカンは私たちを学園に放置したりせず、こうして彼の家へ招き入れ、講師を客人として呼び、学園よりも密な時間間隔で修行をさせてきた。
「そこ!いいですか、音楽はその人の心なのです!この作家は当時の華やかで人生の絶頂な時にこの曲を作ったのですからもっと楽しそうに堂々と!でなければヴァイオリンの音が冴えませんぞ!ララ、お星さまのようにキラキラと奏でる音楽はそんな力を入れては演奏できませんぞ!」
生き生きと妹たちに指導を入れているダンカンは、初めて会ったときとは別人のように私たちに馴染み、厳しくも愛のある指導をみっちりしていた。
「こんなに私たちに時間を割いていていいのか?そなたは偉い、のだろう?いつも忙しいと言っていた…私たちに気を遣うせいでそなたのやるべきことがおざなりになるのは本意ではない。」
一度、ダンカンがあまりにも毎日毎日特訓に来ていたものだから、流石に気になってこのように聞いてみたのだが、ダンカンは
「何を言いますか!今一番やらなければならないことは、あなた達をコティヨン一番のレディーとして貴族、王族に認めさせることですぞ!ほれほれ次の曲をいきますぞ~!」
久しぶりに弾いてみると楽しくて楽しくてたまらんわいなどと小声が聞こえたが、我々の立場をしっかりと考えてくれているならここは頼らせてもらうことにした。おかげで私を含め、私たち姉妹はヴァイオリンとオルガンであれば簡単な曲を弾けるようになるまでになった。海では歌声とハープ、それにいくつかの簡単な笛や打楽器が主であったため、初めて見る陸のピアノと言う楽器を扱うのは至難の業であったが、一つ一つの鍵盤で音が決まっているのを把握すれば後は造作もなかった。後は早いテンポの曲を弾けたら一応は「弾ける」と言えるレベルになるのだが…
~♪~♬
ダンカンの演奏を見るとあからさまにレベルが異なることが分かる。なんというか、彼自身が音楽になったかのように音が軽やかなのだ。水の流れのように滑らかな指さばきから弾かれるように出てくる音は本当に楽しそうであった。このようなレベルの演奏を求められるのであれば、我々はもっと修行が必要だと感じる。
(あぁ、でも、)
♬、~♪
これ程までに陸の音が心地よいとは思わなかった…。なんて楽しそうに、弦の音が跳ねるように、冴え渡るように響かせるのだろう。
(今すぐにその音に歌を乗せたい)
彼はとても音楽を、演奏を愛しているのだろう。普段の様子では考えられない、あの生き生きと楽しげな表情は初めて見た気がする。
”La,Lah~~”
振り向くとララが音に合わせて歌っていた。そういえば、この子は生まれた時から歌がとても好きだった。人魚は皆大体は歌が好きだが、この子は殊に好きだから、抑えられなかったのだろう、彼の演奏に。
おやおや、と言いながらもまんざらそうでもないダンカンの様子を見て、ウータ、テラ、ウーテ、フリーダ、ヘラと声を重ねていく。これだけの台演奏に、私も入ってみたいと思うのは、決して贅沢な望みでもない、彼も受け入れてくれるかもしれない。
部屋に、優しくも遊びた気な水流のようなヴァイオリンの音に、8人の合唱が響き渡る。それはアメリアやマーサのいるであろう外の庭にも聞こえたのだろう。私は、こっそり私たちと一緒に合わせて歌う2人の歌声がかすかに風に乗せられたのを感じた。
(とても、平和で、安らぐ。この時間が、この空間が、続けばいいのに…)
午前は楽器、午後は歌とダンスという日程の中、サミュエルもまた、毎日私たちの元へ訪れた。
「サミュエル~」「サミュエル先生、って呼ばないと~」「サミュエルはサミュエルだも~ん!」
「うぃうぃ、悪戯っ子の双子姫さんたちは相変わらずで…ヘラも元気していたかしら?まぁ!エリュシオネーさんとテアさんはお久しぶり!すっかり立ち振る舞いがレディらしくて見とれたわ!ララとフリーダは元気かしら?」
普段は姉妹の中でも比較的クールな態度のヘラも、サミュエルには懐いているようで、ウータ達みたいに抱き着いてはいないものの、ちょこちょことサミュエルに自分から近づいては見事なカーテシーを披露し、褒められるのを待つディリーとフィンみたいな顔をしていた。
「うぃうぃ!ヘラ、あなたはすっかりお姉さんに見劣らないくらいのレディになりましたねぇ!ん~トレヴィア~ン!非常にボン!短い間でこんなにお淑やかになったお姫様がこれからもっと素敵になると思うと、腕がなるわぁ~!…では、早速だけどレッスンよ!今日はお歌の先生としてきたのよ。歌はこの曲をまずは歌ってもらえるかしら?」
出された曲はオルガンの音楽に合わせて歌うものであった。何やら神を崇拝する讃美歌のようで、ヘラが首を傾げて聞いた。
「これって、何の神を讃えているの?」
「あら、そういえば私も、人間は神様が見ていらっしゃる、とか、神様にお祈りしなくちゃ!なんて生徒が口にしているのを聞いたことがあるけど、何の神かは聞いたことなかったわね。」
「テアお姉さま!神様は海の女神様じゃないのです?私、てっきり皆さん海の女神様をお好きだと思ったのですわ!」
「まあ、ララったら!ふふ、人魚の国では皆海の女神様が好きよ。でも、人間たちは海の女神様をご存じかしら?」
「はぁ、ララは自分中心で考えるからそうなるのよ。で、サミュエル先生、私良く図書館に行くのだけど、今まで神様の名前なんて見たことなかったわ。この神様、もしかして何の神様とかないんじゃない?」
キョトンとした顔をしたサミュエルが面白そうにヘラを見た。
「そういう風に考えた理由は?」
「だって、陸の、この国の書物の神は「何を」司るのか、どんな力を持っているのか、そういった具体的な説明が全てないもの。私たちには海の女神さまがいて、実際にいるって信じているし、そのお力で私たちは守られていると言われている。だから「海の女神様」っていう女性のお姿で、海や生命を司るという具体的なイメージがあるの。でも、ここの書物にはそれが、イメージがわかない。だから、あなた達は神を、概念だけのものと思っていると思ったの。」
おぉー!と、妹たちだけでなく私まで感心してしまった。ヘラの読書好きに加えて、優れた推理力…私の妹は天才だな!
「トレビアン!ヘラ、その通りだよ!あなた達の神様は実際に居るのでしょうけど、この国は、国王は神を実際のものとして考えていないんだ。神様を見たことがないからね。でも、神様っていたほうが国民は何だか救われた気になるでしょう?それに、神様からこの国を託されているという体で国を動かせば国民からの反対も少ない。いわば権力の正当性も得られる。そういう偉い人たちが考えた神様だから、具体的に何の神かは分からなのよ。私はこの国の人間じゃないから、こういうことが言えちゃうんだけど、本気で信仰している人たちもいるから、このことは内緒ね♪」
「本気で進行している人たちは、どうやって信じているの…ですか?」
フリーダがおずおずと聞いた。実在する神を信じている私たち人魚にとって、実在しない神の信仰は、少し理解が難しいものかもしれない。
「神様はその時必要な時に、必要な形で現れるって話よ。もっとも、そんなこと言い出したら世の中全て都合が良いことに言えそうなんだけどねぇ。」
やれやれ、とサミュエルは肩を竦ませた。どうやら、サミュエルはこの国の宗教に意見があるようだ。
「ふ~ん、存在しないのに信じるなんて、変なのですわ!ララ、何だか難しくてわかんなくなってきましたわぁあ」
「変だね~」「ウーテは、何か分かる気がするなぁ」
「必要な形…む、難しい、です。」
「そういうそなたの国は何を信じているのだ?」
私の問いかけに、サミュエルは飛び切りの笑顔で応えた。
「神様じゃないのよ!でも、とても偉大な力を持つお方たちを崇拝しているわ!」
さ、じゃあお歌の練習に入りましょう!まずは聴いて、と歌のレッスンが始まった。




