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3.500年前の追憶 前編

読んでくださりありがとうございます。

ブックマークしてくださった方、感謝感激です。励みになります。


―500年前―


 「お父様!今日も海の上へ行くのだろう?私も連れてって!」


 サンゴ礁の蒼い海に浮かぶ真珠のような月白の髪をたなびかせて、ノッケンメーア王国の第一王女エリュシオネーは国王のディアークの顔を覗くように、期待に満ちた目で見上げていた。

 サンゴと貝、そして宝石を綺麗に細工したティアラに腕輪、エリュシオネーお気に入りのアメジストチョーカー、そして滅多に手に入らない深海のメールシルクで出来た薄織のフリルで縁取られた腰には磨かれたハコガイのポシェットが駆けられていた。

 

 エリュシオネーは母親の顔を知らない。貝から生まれた時からすでに、母の姿は宮殿にいなかった。

だが、彼女は決してそれが寂しいとは思わなかった。それが生まれた時から当たり前だったからだ。

 何より、そんなエリュシオネーが寂しくないようにと、また、可愛くて仕方がないと、ディアーク王は母親の分までエリュシオネーを可愛がっていた。


 「良いぞ、シオン。またあの黒竜の赤子と、そこにいるラウラと遊ぶのだろう?余が陸の者と話している間のみ、いつもの海岸でなら遊んでよいぞ。」


 「ふふ、やった!ありがとう、お父様!さ、ラウラ、アメリア、早く行くのだ!」

 

 「うん!」「姫様、慌てなくてもシュリッテンは逃げませんよ。」


 そういって、エリュシオネーは友人のラウラと、侍女のアメリアの片腕を引っ張ってディアーク王の後ろにある、シュリッテンと呼ばれる大型貝の乗り物に腰かけた。

 

 「では行くぞ。私の小さなお姫様は準備できたかな?」


 「もちろんだ!じゃあ、今日もよろしく、ディリー、フィン。」

 

 キュイっと返事をした2匹の黒いイルカは、エリュシオネーとラウラ、アメリアを乗せたシュリッテンを引っ張っていく。

 それは大きなサメ型水魔ギガントヘイに引かせた大きなシュリッテンに乗ったディアーク王の後ろについていった。


 海の上に出たディアーク王一行は海上にある人間が建てた城へ海中とつながっている部分から入っていった。

 エリュシオネーたちは彼らと別れ、いつものように遊んでいる近くの海岸へまっすぐ向かっていった。


 近くの海岸のすぐそこは人間の国の港町で、そこでは多くの人魚と人間をはじめとした陸の種族の交易がおこなわれていた。

 海からはサンゴや真珠といった宝石から、海の幸、そして海でしか作れない秘伝の魔法薬を。

 陸からは金属や木を加工した道具やフルーツなど海の中でも食べれるもの、そして山からしか取れない宝石を。


 海岸の上では、小さな黒い竜が首を長く伸ばしてあたりを見回していた。

が、特徴的な銀白と、アメジスト、オールドローズ色を確認すると、その真っ赤な目をめいいっぱい開いて、一直線に飛んできた。


 「あ!おーいシオン!こっちこっち!今日も来てくれたんだ!ラウラに、アメリアも!今日はいっぱい遊べるの?」


 小さな黒竜の赤子であるルキウスは、以前エリュシオネーとラウラが海岸で陸の様子を見に行ったときに出くわして以来、こうして毎回海の上へ行くたびに遊んでいる。

 特に遊びに行く日などは言っていないが、海から顔を出すと必ずいるのだ。

 そして、遊ぶうちにルキウスに人魚の言葉を教えていたため、今やこうして人魚の言葉のみで会話ができるようになっていた。


 「ルキウス!ふふ、喜べ、今日はお父様が陸の偉い方たちと話している間だけだが遊べるぞ。」


 「えぇ~おじさんのお仕事の間だけかぁ。いっそ、シオンがこっちの国に一週間くらい来てくれたらもっと遊べるのになぁ。」


 「それはお父様が許してくれないのだ。この間なんか、ルキウスの国へ遊びに行かぬかと尋ねたところ、『余はこの国の王として、1日たりとも国を開けることは難しい。そして、1日でもシオンの顔が見れないなんて絶対嫌じゃ。』なぞ言うのだ。およそ100年も毎日顔を合わせて良く飽きないものと思うのだがな。だがいつか、私もルキウスの国を見てみたい。」


 ディアーク王の物まねをするエリュシオネー。

 毎日顔を見合わせているから、絶妙に似ているため周囲の笑いを誘った。


 「ククッ、そっか…。でも!遊べるだけでうれしいな!うん!絶対!約束だよ!僕の国に来たときは僕が一番に案内するんだ!」


 「ふふ、その時はラウラも一緒に行けたらいいな。」


 「うっきゅきゅきゅ、シオン、ルキウスはシオンにだけ案内したいのよ。か~わいい!ま、でもその時は私はお付きとして、お二人さんの行く末をしっかと見守っているからね!」


 「ラ、ラウラ!僕そんなつもり…。」


 「あるでしょ?」


 「ぐっ…。」


 「…?」


 「あ、これシオンが分かっていないやつだわ。…ねぇシオン」


 ずいっとラウラがエリュシオネーに近づく。


 「なんだ、ラウラ。」


 「シオンは、ルキウスのこと好き?」


 「う、うわぁあ!!ラウラ!ちょ、!」


 ジタバタと止めに入ろうとするルキウスを、ラウラは難なく羽交い絞めにして止める。

 生まれて数十年の竜の赤ん坊と、少女の姿とは言え百年近く生きた人魚には腕力も魔力も大きな差があった。


 「ラウラったら…何を言うかと思えば。好きに決まっている。もちろん、ラウラもアメリアもお父様も、民も、皆大切なんだ。」

 

 「うーん、そういうんじゃなくて、恋の話よ。」


 「鯉?」


 「こ・い・の・は・な・し!恋・愛!人魚たるもの、常に乙女心をときめかせなくては!」


 「聞いたこともないぞその格言…。うーん、でもルキウスはまだ60歳ちょっとじゃないか。私もまだ109歳だし、成人まで700年くらいはあるのだぞ。そんなに早い時期から言われると、ルキウスも困ってしまうではないか。」


 「うきゅきゅ、シオン、恋に年なんて関係ないのよ!ん~この感じ、まだまだなようね~。ま、頑張ってねルキ坊。」


 「う…ぐぉおおおおん!!!!ラウラの馬鹿ーーーー!!」


しばらく、アメリアが安全を確認して許可した範囲内で、アメジスト色の人魚と黒竜の追いかけっこが始まった。

泳ぎ追いまわし追い回され、水を掛け合い飛び回った1人と1匹は漸く疲れ果て、もう一人傍観していた月光色の人魚姫とともに、身体を休めるためのちょうどよい広さ潮だまりの方へと移動した。

そこは海から少し離れた場所にあり、引き潮の時には人間の営む様を一番よく観察できる3人のお気に入りの場所だった。

 

 「あ、そうだ。忘れてた。僕今日面白いものみんなに見せたくて持ってきたんだ。」


 「え!ルキ坊、今日はどんな陸の面白いもの持ってきたのよ?見せて見せて!」


 「そうだったそうだった。これだよ。」


ルキウスが空間からしまっていたZ型のレンズを取り出した。


 「これね!水中で使うものなんだって!人間が開発した『センスイカン』?に使われているものなんだって!これでね、これでね、水の中から海の上が見えるんだって!」


前足を器用に動かし、ルキウスはレンズを左右に動かさせながら説明を続けた。

 

 「僕、まだ水中には潜れないけど人魚なら面白く使えるんじゃないかなって思って。見せたくて、持てるサイズのを作ってもらったんだ!本物は、もっとでっかいんだよ!」


 「なんと!これは不思議な形だな!しかも、伸びたり縮んだりする部分もあるぞラウラ。」


 「ねぇシオン、ちょっとこの潮だまり、少し浅いけれど潜って、そこから私たちが本当に見えるか確かめてみてよ!ルキウスが言っていることだけじゃ分からないもの。」


 「うむ、そうだな!そうしてみよう。ルキウス、少しこれ借りて…ん?なんだ、近くで妙に人間が集まっているな。」


 「お祭り?陸って、定期的に集まって宴を行う「お祭り」ってものがあるんでしょ?それじゃない?」


 「さぁ…僕は人間じゃないけど、あの雰囲気はお祭りとはちょっと違うような…」


海岸のすぐ向こうの港町の広場に大きな人だかりが見えていた。

何やら騒いでいて、エリュシオネーたちは海に潜ってルキウスが持ってきたものが何かを確かめるより、その騒ぎに気を取られた。


―――

広場の高い台に現れたのは一人の男性であった。

その男は真っ赤な液体が入った細長い瓶を手に、大きな人魚の描かれた絵を後ろに演説を始めた。


 [皆の者!聞いてくれ!儂はついに不老不死の薬を発見した!人魚の血だ!人魚の姿は何百年経っても変わらない!そんな不老不死の人魚血を飲めば病はたちまち治り、肉を食せば、永遠の命を得ることができるであろう!その証拠に今ここで、見せてしんぜよう]


一人の寝たきりの老人が運ばれてきた。咳をしており、息をするのも苦しそうな老人だった。

男が老人に手に持った赤い液体を飲ませた瞬間、老人の肌に色が戻り、目は輝き、曲がった背骨がまっすぐになっていった。

次の瞬間には、男は自らの足で立って歩けていた。

 

その様子を見た民衆はどよめき、次に歓声が沸き起こった。


 [すごい!]

 [なんてことだ!!これで娘の病気が治せる!]

 [儂にそれをくれ!やり直したいことがあるんじゃ!]

 [そんなにすごいもの、なぜ今までなかったんだ!]


 [そうだ。なぜ今まで人魚の血の有用性が知られなかったか。それは人魚の王が我々陸の国々の王と交わした条約の中に、『決して争いに干渉せず、決して互いを殺さず傷つけず』の条文があるからだ!その結果、人魚の研究は今までなかった。だから人魚たちはこの素晴らしい効果を隠匿し、高い値段で魔法薬を我々に売りさばき、自分たちはその血で長い間若く健康な姿を保っている。これは不平等だ。そうだろう?!]


 [そうだそうだ!」

 [いつまでも古い条約に縛られているのがおかしいんだ!]

 [そんな卑怯な人魚を捕らえろ!これで何人もの人が救えるんだ!]

 [条約なんか無視してしまえ!]

 [俺たちも長く生きるんだ!]

 [人魚を捕らえろ!]

 [人魚を手に入れろ!]

 [人魚から血を搾り取れ!]

―――


その人間たちの口から次々に出る大声は波のように干渉しあい、大きな津波のようにエリュシオネーたちの鼓膜を刺激した。

幼い彼らは人間の言葉が分からなかった。

ただ一つ、これは「お祭り」ではなさそうだということだけは、感じ取っていた。

― 一口メモ ―

人魚と竜は寿命が長いので、時間の感覚も人間よりゆっくりしています。

エリュシオネーが「今日も」と言っていても、時間間隔は1年に1度海の上に行っている程度です。

毎年同じ時期に一度だけ陸に来るため、ルキウスはそのタイミングで毎年訪れ、会うことができています。


またその内話が進んだら、出会った当初のルキウスたちのことも書く予定です。


他にも疑問点がありましたらどこかにコメントを書いてくださればこうして一口メモにまとめようと思います。



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