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49.ダンカン・ダンヴィルの訪問

 「入りたまえ。」


 と何やら聞き慣れた声が聞こえる。テアは途端に顔色が輝かんばかりに明るくなり、モーリーが扉を開いた途端その部屋へ懸け入った。


 「ダンカンさん!」

 「おぉ~!テア、また今日も可愛く髪を結ったね。それに日に日に偉い私に似てか立派な淑女レディーの雰囲気がでてるぞ~。」


 テアが声の主に飛び込むように抱き着く。部屋には既に妹たち全員が集まっていた。ララとフリーダは仲良く絵が描かれた本を読んでおり、ウータとウーテは柔らかく上質なソファの上で甘い匂いがするお菓子を食べていた。ヘラは本の中の文字を浮かせて何やら術式の研究に似たような遊びをしていた。


 ダンカンは嬉しそうにテアの頭を撫でながら机の上のお菓子を促す。

 

 (…そういえばダンカンも妹たちに頭を撫でている…パトリシア達のように激しくはないが、少なからず彼女たちを愛らしいと思っているということだったか。)


 私はくつろぐ妹たちとは真逆に緊張して固まっているモーリーに目を配らせると、ダンカンはやっと彼女に気付いたように声をかけた。


 「あぁ、連れてきてくれてありがとう。君はもう良いから下がってよろしいですぞ。」

 「え、ですが…」

 「彼女たちの保護者たるこの偉い公爵の私が重大なことを彼女たちに伝えるのです。なに、次の授業までには戻らせますので。」

 

 モーリーは困惑しながら去っていった。何だか、最近ダンカンは私のお父様以上に妹をかわいがっているような…いや、それを認めてしまえばお父様は妹たちや私を…


 「エリュシオネー姫!何を浮かない顔をしているんですか…あなた達の妹はこんなにお転婆娘なのに、相変わらずあなたは静かですねぇ。…うむ、だが学園の生活の様子はスパイトから聞いていますぞ。中々君もお転婆のようですな!はっはっは!」


 ダンカンは私に片目を閉じる仕草をした後笑いながら私たちをソファに座らせた。この片目を閉じる合図は何か意図があるのだろうか?後で聞いてみよう。


 「さぁさ!偉い私が時間を割いて可愛い姫達に会いに来たんです!さぁ座って座って!」


 「ダンカン~サミュエル先生がお呼び出しって~」「何かあったの~?」

 「ダンカンさん!このお菓子とっても美味しいわ!」

 「テアお姉様!これも美味しいのですが、こちらも召し上がってみて!市井で食べてとっても美味しかったの!」

 「ま!ララったらこの間からお姉様とデートした時のことばかり喋って…私そろそろ妬いちゃうわよ?」

 「ム…ララはシオン姉様と一緒に外へ出て狡い…です…。」

 「ほんとほんと、今度は絶対私が一緒に行くんだから。ね?シオン姉様?」

 

 妹たちがいつものようにきゃいきゃいと騒いでいるのをダンカンは何故か嬉しそうに眺めていたが、急に雰囲気を変えて話し出した。


 「良いかい姫達。ここに君たちを呼び、わざわざ偉い私が来たのは訳がある。とても重要なことだ。」


 シン…と妹たちはダンカンの方を向き、真摯な眼差しを向けた。ダンカンが空いているソファに深く座り込むと、ララが嬉々として彼の膝の上に収まった。ダンカンはやれやれと言いながらもそのままララを抱えながら話を始めた。


 「もうすぐこの国では大規模な社交パーティーが始まる。この国の貴族や有力者が集まり、冬まで開催される長く、大きいパーティだ。」

 「コティヨンのことかしら?」

 

 テアが自分の疑問をポンと口に出した。他の妹たちも「コティヨン、最近クラスの子がなんか言ってた~」「聞いたことあるわ」とざわざわと騒ぎ出す。その言葉に妹たちも同じクラスの友人から聞いたのだろう。


 「おぉ!もう聞いていたなら話は早い!実はだね、結論を言うと、あなた方も全てのコティヨンのパーティに参加しなければならないのです…。」

 

 「なんだか、そんなイベントがあるわってクラスメイトから聞いたのよ。私たちも参加するのはそうなるかもしれないと思っていたから、気にしないでくださいな、ダンカンさん。」


 テアが慰めるように言う反面、ヘラは考えるように言う。


 「でも、「参加しなければならない」って誰かに強制でもされたの?それに、人間の世界では宴にはかなり準備の時間が必要と聞いたけど、来月末ってなんだか急ね…」


 「ふぅむ、実はこのコティヨン、この国一番大きな社交パーティーと言っても過言ではないのですが、その分幾多の思惑や政治の場になりやすい。ハッキリ言って、あなた達は能力が高いのと同時にまだ純粋すぎる、と思いましてな…。色々陸のことに慣れなければならない上に、あのような私利私欲の巣窟の中にいきなり放り込むのも酷かと思っていましたよ…要らぬ気遣いかもしれませんが、何分私は偉いので、偉い私さえ出れば、被後見人であるあなた達の出席など必須ではない、と考えたうえで陛下に伺いました。が…どうやら陛下及び彼周辺の連中はあなた達は他国の王女だからこそ出席は必須だと、それらしい理屈で返してきたわけですよ。それもつい先週のことです。」


 ダンカンがそのような計らいをしていたとは知らなかった。彼の心からの私たちへの気遣いを感じ、何故か人間に対してとても温かく安心する気持ちを感じた。ダンカンはため息をつきながら続ける。


 「ふぅ…まぁ、偉い私にはあなた達をどうしてもコケにしたい連中の企みとすぐわかりましたがね。私偉いので。このように急な時期に伝えたのも奴らのやり口の一つでしょう。陛下も困ったことに、そ奴らめに肩入れすることをお決めになられた。私が逆らったら、反逆罪でもなんでも言って捕らえるでしょう。そうなればこの国であなた達を積極的に友好を結ぼうとする貴族の勢力は……だから、申し訳ないが、今回のコティヨンにはあなた達も参加することが決定しました。」


 「その連中とやらは、王権派、だな?」


 「王権派~?」「なんだか、王様を中心に権力が好きそうなオジサンのイメージ~」


 「エリュシオネー姫はご存じでしたか!その通りですよウーテ!あなたはとっても賢いね~。」


 褒められて嬉しそうに足をバタバタさせるウーテ。ウーテはどこか抜けている印象はあるが実は誰よりも核心を突いて物事を理解している、そこが姉の私にとって自慢のポイントでもある。


 「王権派の話は、さっき上級の塔の教室でも話していたのよ。どうやらダンカンさん、あなたは反王権派の方と…。」


 「うむ、左様。この偉い私は目先の利益ではなく、長期的な利益を好むのですよ。確かに王権派についていればここ数年はうまい汁が啜れるでしょう。ですが10年、20年と経ったときに彼らはこの国をどのようにしてしまうのか、偉い私は衰退のみと見たんですよ。」


 「10年、20年なんて、とっても短いのに…」「長期的であれば、100年は見ないと!」


 フリーダとララが呟くと、意表を突かれたダンカンはポカンとした後、豪快に笑った。


 「そうですな!そうであった!あなた達であれば一瞬でしょう。ですが、人間はそうはいかんのです。人間は凡そ50年、60年で命を終えます。その命の5分の1、3分の1という数字だと、どうですかな?命の長さの3分の1はかなり長く、影響が大きいのです。」


 「確かに!そうだったわぁあ!」「勉強…不足でした…すみません。」


 よいよい、と気前よく笑ったダンカンは話を続けた。


 「話を戻しましょう…。そのコティヨンであなた達が参加することは決定事項になりました。そして、そのパーティでは決して王権派に弱みを握られたり、笑われるようなことのない完璧な振る舞いが大切です!ドレスは最上級のものをこの偉い私が急いで用意させましょう。あとはコティヨンでは芸術が尊ばれます。ダンスに歌、楽器の演奏…どれもそつなくこなせるようにし、どこかで一つ、頭が抜き出るような得意分野を作らねば…。」


 「ダンカンさん!私、歌うのは好きですわあ!」


 うむうむと唸っていたダンカンに、ララが勢いよくその鈴が転がるような声を鳴らす。その言葉に、わたしも!わたしも!と、ウータにフリーダが続く。

 

 「ダンカンさん、私たちは人魚。人魚の民は皆歌ができなくては暮らせないのよ?」


 ヘラが自慢げに言う。全員で頷く姿にダンカンは顔を明るくした。


 「おぉ!そうだ!伝説では人魚の歌は奇跡も災いも、なんでも起こせると!実際にどんな歌かは、サミュエル君に見てもらおう。偉い私が直接聴けないのは残念だが、パーティでは楽しみにしていますぞ!あー、後は楽器の演奏やダンスは…」


 「ダンスなら、得意な女の子に教えてもらう~」「ジゼルって子~!「バレエ」が上手で、今習ってるの!」


 「そうかいそうかい。良いお友達ができたんだねぇ。だがその子に教わって、1か月で一通りの曲を踊れるように、皆頑張れるかね?それもサミュエル君に頼んで見てもらうというのはどうだろう?お友達も是非呼びなさい。」


 『お友達を呼ぶ』という言葉の意味が分からず私たちが首を傾げているとダンカンがそわそわしながら残りの課題にも触れた。


 「ふぅーむ、そうなると後は楽器の演奏ができれば簡単ですな!コティヨンでは参加者のほとんどがオルガンもしくはヴァイオリンを嗜んでいるから、同時にどちらかを学ばないと…忙しくなりますぞ!」


 「楽器に関しては…練習あるのみですわね。」

 「陸の楽器の演奏は確かに素敵だけど…私たちにできるのかな…」


 テアとヘラは不安げな顔をした。だが、ダンカンの顔は何故か嬉しそうだった。


 「安心なさい。楽器の練習なら一番、コティヨンでも楽器演奏で陛下から称賛の声が多かった者が直々に特訓しよう。」


 「この偉い私、ダンカン・ダンヴィルが!」

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