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48.コティヨン

 「「コティヨン??」」


 私たちがそういうものがあったのか、と顔を見合わせていたらパメラが付け加えてくれた。


 「元々は初代王様の出身であったデュファルジュ国あたりの土地の風習ですわ。秋口の終わりごろから冬の雪が降り積もる時期になるまで、私たちの国では収穫に感謝するという意味と、芸術を賛歌する意味でも大規模なパーティを開くんですの。この時期は学園の授業もコティヨンに参加する方は免除されて実質お休み。長めの冬期休暇になるんですのよ。特に、初めのパーティーは王族主催のとっても大きなものになりますの!大抵は王城、もしくはどこかの公爵家の場所で開催されるのですが…今年は確か王城でしたわね。」


 「そのコティヨンという宴に私たちも?」


 テアが興味津々に聞いてきた。豪華なものが好きな彼女は昔から宴や集まりと言った騒ぐ場所を楽しむのが好きであったな。


 「えぇテア様。メレディス様があんなに自信満々に煽って来るのは、きっとそういうことでしょうね。」

 「テア様、もしかしてパーティはお好き?エリュシオネー様も?」


 パトリシアが難しい顔をしている中、パメラは目をキラキラとさせて聞いてきた。


 「いや、私は…「もちろんよ!海の中での宴はとっても煌びやかで魔法に満ちていたのだけど、陸は建物や景色が全然違うからどんなに眩いのか、今から楽しみになってきたわ!」


 テアがノリノリで身を乗り出しながらパメラの手を取った。パメラと言えば「まぁ~~!」と感嘆の声を上げながら飛び跳ねている。


 「私もですわ!社交パーティは、結構マナーや服装、振舞いを隅々まで見られて評価されたりと…うーんちょっと苦しいところではありますが、華やかな場は私も嫌いではないのよ!テア様とエリュシオネー様もご一緒なら今回はとっても楽しいコティヨンになりそうですわね!ね?パメラ様?」


 パメラが生き生きとパトリシアに聞いた。


 (ちょっと待て、私が宴好きなど言っていないz…)


 「シオン姉様、こういう時は楽しんだもの勝ちなんですわよ!」


 テアが手を引いてぐるぐると回すものだから、まぁ、いいかと思ってしまった。つくづく可愛い妹たちには弱いな・・。


 「パメラ様、事はそう楽しいものでもないかもしれないわ。」


 一人困ったような顔をしたパトリシアが、私の方を真剣に見てきた。


 「エリュシオネー様、あなた達はサミュエル先生にダンスを習ったわよね?どの程度踊れるかしら?」


 「一応、基本的なワルツと呼ばれた3,4曲は師事してもらったな。この程度では足りぬのか?」


 そう問うと、彼女は難しそうにコクリと頷いた。


 「基本的なパーティではそれで大丈夫なのですけど、今回のコティヨンでは嫌な予感がしますわ…彼女の婚約者は彼の第一王子のフレドリック殿下。彼が今回の主催になると思われますわ。実は、この国はみんな知っているのですけど、彼、とっても歌やダンス、音楽などの芸術好きですの。彼が主催するパーティはどれも変わった趣向を凝らしたものばかりで、今回も何らか変わったイベントがあると思いますわ。」


 「そなたたちはどうやってその窮地を脱しているのだ?」


 窮地、と言う言葉にポカンとしたパメラとパトリシア、それにベッキーやデビ―もクスクスと笑い出した。


 「アハハ…!エリュシオネー様って可愛いところが時々でるんですよね~。窮地と言うほどでもないんです。普段よりダンスのテンポを速めにしたり、会場を歌の大会やダンスの大会にしたり、主催者が誰か指名してその人の得意なことをやらせたり…くらいですかね。楽器の演奏も含まれますよ!主催者が自慢したり腕比べするような内容ばっかですよ!ま、日頃から練習しておけば案外無難にこなせたりするものですよ!」


 デビ―がなんてことないように言ったが、人間は人魚よりはるかに短い寿命なのに、それだけの種類の努力を貴族全員がしているのかと少し感心した。


 「驚いたわ。皆さま、ダンスだけでなく歌や演奏もなさるのね。私たちも練習しないといけないわね、お姉様。」


 (その通りだな。そのちょっとした趣向が、私たちを貶めるためのものかもしれないからな。)


 そういうと、テアは少し不安げな表情をした。それを見たパトリシアは


 「可能性、としての話ですが、お考えになっているように、人魚の方たちには難しいであろうと彼らが考える何らかのイベントを出してきたり、あなた達をわざと指名して…ということもあり得ますわ。ですから、今からでも遅くはないので対策しましょう!私も、侯爵家の娘。お手伝いできることはたくさんあるかと。」


 なんとも頼もしい言葉だ。ありがたく頼らせていただこう。テアも少し安心したようだ。つくづく私たちは、人間だが、良い人間と巡り合えたようだ。


 「コティヨンにはどんな方たちが?デビ―さんたちもいらっしゃるの?」


 テアが私の肩に顔を寄せながら聞く。最近、段々この教室の場に慣れたのかテアが私に甘える素の姿が時々出ている気がする…そしてそれを見る彼女たちの目が生暖かい気がする…。


 「私たちも出ます!一般のパーティーと違って、参加資格が緩くなり、一定以上の献金やこの学園に通っている生徒の家族なら参加可能なんですよ!」

 「普段は気軽に貴族との接点を持てないので、このパーティーでビジネスを拡大しようとする商人も大勢いますよ。だから、色んな人と繋がることができて大変ですけど、きっと楽しいですよ!」

 「うふふ、こんなに私たちのお友達が一緒に参加するのだから、きっとコティヨンも楽しいわよ!ね、姉様!」


 ベッキーやデビ―が嬉しそうに言う。この者たちは、人間であるにも関わらず私たちを慮って元気づけようとしているのか。彼女たちのように貴族でなくとも「ビジネス」とやらの経済的な力を持つ民もいるとなると、人間の力関係は人魚のそれより複雑なようだとか、色々考えるより、今は何より


 (心が…温かい…)


 「…私は、コティヨンとやらに進んで参加する気ではなかったのだが、そなたたちがいると思うと心強い…ありがとう。」


 彼女たちへの親愛の情を声に出して、伝えてみた。伝えるべきだと思ったのだ。なかなかどうしてこの500年間、友人相手などいなかったし直接声で伝えることも殆どなかったものだから、少し、気恥ずかしく感じる。ちょっと頬や耳が熱い。


 反応が聞こえないと思い、顔を上げて確認してみると、皆一斉に口元を抑え私を見ているかと思うとパトリシアがずんずんと進んできて


 「エリュシオネー様、少しご無礼を失礼しますわ。」


 と言いながら、ぐいぃと手を引き寄せ私の頭を胸に抱きこんでいた。


 「?!」


 経験ない感覚、彼女の方が背が低い(皆、私より背は低いが)為に私が屈む形になっているから少し態勢がしんどい。わしゃわしゃと頭を撫でられ…いや、めちゃくちゃにされる勢いで撫で繰り回されている。


 「もぉおおおエリュシオネー様、大人っぽいし静かだし滅多に表情変えないからこそ!こういうのは狡いですわよ~~~!!」

 「ほんっとにエリュシオネー様はご自分の威力を自覚された方がよろしいかと!」

 「たま~に年下に見えるくらいに可愛く見えるのは何なんですか~も~」

 「私も撫でさせてください~今のは絶対私たちのこと好きって言ってるのと同じですよね?!ね?!」

 「でしょ~?お姉様は実はと~ってもお優しくて、可愛い所もいっぱいあるんですのよ~~!」


 わしゃわしゃが増えた…悪い気はしない…が、如何せんこのように扱われたのは初めてだ…お父様でさえ私の頭をこのように触ったことはないのに…。


 ほんのしばらく、「ご無礼を」と言われて本当に無礼をされ、好き勝手にされ続けていた。


 「皆、分かった、分かったから。テア、そなたまでどさくさに紛れるのはやめなさい。」


 少し制止をお願いするとすぐに止めてくれた、が、皆生き生きとした目で、興奮した息遣いでこちらを見ているのが若干怖い。

 かなりボサボサになった髪を魔法でゆるくまとめ上げ、姿勢を正して問うた。


 「…今のは確かに無礼だったな。」


 「「「「うぐっ…」」」」


 「初めての経験だ。あれは、人間の…陸の世界の何らかの感情表現なのか?」


 「いいえ、人間の世界でもこれは…「そう!実はそうなんです!この国では一般的ではないかもしれませんが、陸では愛らしい、可愛いと感じたらさっきのように頭を撫でまわすんですのよ~~!」


 パトリシアが何か言いかけたが、パメラが割って入ってきた。テアと二人で顔を見合わせ、そういうことなら、と私は納得することにした。何を言おう、友人の言葉だ。信じないわけにはいかない。


 「では、これからはいつでも、姉様を撫でまわすことができそうですわね…きゃっ」


 悪戯っぽく笑うテアを私は両手でわしゃわしゃすることで黙らせた。黙ったテアも中々に嬉しそうな顔をする。


 (…なるほど、親しい者たちにはこうして平和的な方法で静かにさせることができるとは、陸の文化も悪くないかもしれない…)


 そうこうと教室で和んでいると、モーリーが教室に入ってきた。どうやら相当慌てているようで、いつもはキッチリ同じ角度でかけている尖がった眼鏡が若干ズレている。


 「あら、先生?どうしたんです、そんなに慌てた様子で…。」


 パトリシアが先ほどのふにゃりとした笑いから一変、キリリとした顔で問うと、モーリーがその尖がった眼鏡をくいッと揚げ直し、


 「エリュシオネー様とテア様にお客様です。直ぐにいらしてください。」


 と、一言言った後に再び廊下へ出ていったかと思うと、「早くいらっしゃい!」と甲高い声で呼んできた。

 皆に顔を向けたが、皆良く分からないというような顔で、埒が明かなかったのでテアを引き連れついて行くことにした。


 上級の塔の最上階に、学園長の部屋の部屋がある。その向かいに応接室があるのは知っていたが、入るのは初めてだった。モーリーが緊張しているのか、軽く咳ばらいをし、扉をノックすると


 「入りたまえ。」

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