40. 市井での再会Ⅳ
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眩しく暑い日差しの光景が広がるそこは、あの懐かしい岬だった。目の前にいる紫の幼き人魚と黒いドラゴン、2人が笑って手を差し伸べている。
どんなに目を凝らしても、ハッキリ顔が見えない。どんなに追いつこうとしても、気づいたらどんどんと陸の方へ、二人が移動している。まって、私も行くから!
そう、駆け寄って紫の方の肩を叩くと、彼女が振り返った。
振り返った彼女の口からは血が流れ、胸は鋭利な銛のようなもので貫かれていてそして―――
「 」
ドッと冷汗が体中から流れ、嫌な光景を最後に目を覚ました。記憶を思い出して暫くは、あの時の光景の夢を見ることが多かった。最近は見なくなったと思ったが、寄りにもよってあんな鮮烈な夢になるとは…。
…ん?夢?寝ていた…のか?私は…ベッド?ここは…寮ではなさそうだ。寮よりも簡素な造りだと一目でわかる。だが、一体だれが?
アメリアが私を見つけてくれたのか?…いや、彼女なら寮まで直接運べるはず…あ、そういえば今何時だ?ララ達が不安になっていないだろうか?
そういえば、賊に襲われた後気を失ったのだった。…と言うことはここは賊の巣なのか?状況が良く掴めない。
私が外の様子を見れないかと窓を探しに身を起こした時、部屋に一つしかないドアが開いた。
男だった。なかなかに背が高いが、顔を長い布で巻いて隠しており、よく見えない。
その後ろにもう一人、比較的華奢な男が入ってきた。
「あ、気が付かれたんですね!お加減はいかがです?」
私が固まっている間に、華奢な方の男はそう声をかけて部屋に入り、持ってきたガラスの水入れをテーブルに置いた。
私を害するような者では…ない、な。それに、感じる魔力の質が人間のそれと違う。
「…あのー?」
は、行かん、今は害することはなくとも、この男が賊の一味なのかどうか確かめねば。
「ここは…どこなのだ?それに、そなたたちは何者だ?私は、賊に襲われたと思ったのだが…」
背の高い男はドアを閉めて壁際に立ったまま、口を開いた。
「通りすがりに誘拐されかけていたので、助けたまでです。」
「…」
ぶっきらぼうに言う背高男と、無表情に笑う華奢男の2人組はやや不気味ではあったが、助けてくれたのであれば礼は尽くさねばなるまい。
「…礼を言う。私は…シオンと呼んでくれ。」
「…!俺は…いや、何でもない。」
「?」
背の高い男がなんだかこっちをじっと見てきた。エリュシオネーと言う名は滅多にない名だから隠すために愛称を使ったのだが、いきなり愛称だと馴れ馴れしかったか?
「はぁ~、若様、そんな様子じゃアタックも何もないですって」
「別にそんなつもりで助けたわけじゃないし、そもそも彼女は俺のこと…」
「いや、だから今ここから新しく、ね?」
…?彼らは何の話をしているのだ?気にはなったが、それよりも早くララ達の所へ戻らねば。
そう思いベッドから立ち上がろうとすると脚に上手く力が入らず、ふらついてしまった。
頭をぶつけてしまいそうだと目をギュッと閉じたが、何も起きず…いや、何かに包まれたためそおっと目を開ければ背高男がテーブルの角に背中を向けて私をしゃがんだまま支えてくれていた。その男の顔を、初めて近くで見た。
巻かれた長布の隙間から見える鋭く赤い目が、とても印象的だった。そうだ、この目は、彼以外にいないはずだ。
「ここらの普通の人間にもたまにある、日差しを浴びすぎるとなる症状だ。あなたは少し酷いようだが、水を飲んで休めばよくなる。もう少し休んでください。」
声は、昔の彼と似ても似つかない低いテノールで、本当に自分の知っている彼か再び分からなくなりそうだった。が、私を抱きかかえる彼の腕が少し服の間から垣間見えたとき、やはり、と確信した。
「ルキ…なのか?」
ビクッと少し跳ねたからだから、隠された顔から動揺が走るのが分かる。
「ルキウス?」
顔をもう少し見たくて、ゆるく巻かれた長布をそっと外す。恐る恐るだったが、彼は特に嫌がることもなく、ただそこにじっとしていた。
露わになった顔は、腕と同じくやはり黒く黒曜石のようで、端正な顔立ちの中に光る赤い目はあの竜だったルキウスと同じ色、同じ瞳孔を持っていた。
「…シオン、君は記憶が…?」
動揺しているのか不安げなその顔は、昔の竜の姿のルキを彷彿とさせた。良かった、あの頃の彼を感じる部分があった。
…そういえば、私が記憶が戻ったことも言っていなかったな。いや、彼は私が記憶を無くしているのを何故知っているのだ?あの時の記憶がまだ曖昧なのか、分からぬ。
「…シオン?」
彼に尻尾があれば今頃垂れ下がっているであろう不安で仕方がないというような顔に、私は自分が返事をしていなかったことに気付いた。
「あ、あぁ、すまぬ。そうだな、私は記憶を全て取り戻している。」
「そうか…その、大丈夫なんだね?記憶って、どこまで?…その、記憶が戻ったことで…あの…」
オロオロしている彼の様子はまるで子供のあのルキそのままではないか。少し安堵が出たのかクスリと笑うと、ルキも同じように笑ってくれた。
「あぁ、問題ない。私はもう思い出しても、あの時のような暴走はしないだろう。今でも、腹が煮えくり返りそうになる時はあるが…」
「そうか、大丈夫そうだね、良かった…」
ルキはそのまま私をベッドに降ろし、私の両肩を掴み縋り付くように呟いた。
「…良かった…」
絞り出すような声が、妙に印象的だった。
ララも待っているため、華奢な方の男(ピョートルという名だという)にララ達を広間で見つけ、こちらに呼ぶように頼んでもらったその間、私たちは二人きりで500年ぶりに話をした。
500年前、襲われた後お互いがどうしていたのか、ライラのことや、お父様がすっかり様子が変わったこと、妹たちがたくさんできたこと、海では「災厄の姫」と呼ばれ、すっかり嫌われ者になってしまったこと、人間が海に来たことで記憶が戻ったこと、妹たちがいつも支えてくれていたこと…話してもキリがなかった。
ルキは、お父様の下りや私が「災厄の姫」と呼ばれたことの話になるととても憤慨していた。
「俺は!君のお父様がしっかり守ってくれると、そう約束したから…俺もシオンのことを忘れようと必死になっていたのに…あのジジイ!」
何故、彼が怒るのだろう?そう考えていると憤慨して立ち上がった彼は再び隣に座り込み、ガクッと頭を落とした。
「ごめんね、シオン。俺は自分の話をする前に一つ君に謝らないといけない。」
なんだろう?彼に何かされただろうか?ここ500年も会っていないが?
「俺は…君の記憶を消した張本人なんだ。」
…それは…大きなことをしてくれたな…




