39.市井での再会Ⅲ
屋台を見回るのも楽しいが、建物を構えている店に入ると質の良いものを売っている。それらを見ながら、時には買い物をしたり時には気になっているらしいケーキの店へ寄って中でテラス席で休憩したりもした。友人たちと屈託なく話せるこの状況はとても楽しく、心が安らいでいくのがわかる。
ライラ…彼女がもし生きていれば、今頃こんな風に話せていただろうか?パトリシア達は友人で気さくに話してくれるとはいえ、それでも失礼のないよう一線を置いている。ライラの敬語抜きの突っ込みや冗談は彼女と私ならではの関係であった。今、ララがケーキを頬張りながら素直に笑ってソフィアたちと話しているのを見ると、どうしてもふと、ライラを想ってしまう。
ケーキを食べ終えると皆腹の具合が良いようで、少し散歩することとなった。散歩した後、それぞれが再度見てみたいお店に数人に別れて行動することになったため、アメリアをララにつけ、特に見たいものがなかった私は一人で広場に座ることにした。
「お姉様ぁ!一緒に行かないんですか?」
「そうです、姫様に万が一のことがございましたら…」
「すまない、少し疲れたようだ。先の中央広場で休んでいよう。ほんの少しだ。座って休んだらそなたたちの気配を辿っていこう。」
「ほんとですか?お姉様、直ぐに来てくださいね?」
あぁ、すぐに行く、と目で返事をし我らは別れることとなった。
しかしそうはいったものの、日差しを避ける場所がないことに戻ってから気づいた。中央の噴水に腰掛けて少しでも休もうとしたのだが眩しさを防げるほどではなかった。
それに、少し前から身体がなんだか熱い。こんなに身体が温かくなるのは初めてだ…妙に頭もぼんやりする。噴水の中に入り水浴びを今すぐにでもしたい気分だったが、見知らぬ人間が沢山往来するこの場で人魚に戻るのは絶対に嫌だからしない。
ララやアメリアは元気そうだから私だけ何故ここまで疲れたりおかしくなったりするのだ?先ほどから魔力を放って結界や呪物を探そうとするもうまく魔法が放てない。…あぁ、まとまった考えも今は難しい。
ふと、噴水の水の向こうを見ると日差しを避けれそうな細い道を見つけた。せめて日差しを避けれれば、この不快な火照りやだるさも軽くなると思い、ふらつく足取りで裏の細道の陰に入った。
途中、何人かの人間が呼び止めて何かを言っていたが、ぼんやりした頭ではうまく聞き取れなかった。
裏の細道に入った瞬間、影のおかげで視界がやや戻ったとともに後悔した。
明らかに先ほどの広場や屋台の通りにいた人間たちとは異なる雰囲気、しかも真っ当な者たちではないことを思わせる人間たちが群れていた。彼らは私を認識するや否やあの国王と同じような低俗なにやけ面をしながらこちらに寄ってきた。
…賊か。ついてない。いや、裏の通りは彼らの縄張りだったか。踏み入れてしまった私も迂闊であったか。
「ようねぇちゃん、随分キレーな身なりしてんなぁ?!」
「身なりだけじゃねーっすよ兄貴!あんな女、見たこともねぇ!こりゃ売ったらしばらくは遊べまっせ!」
「見たらわかるってーのボケが。おめぇは黙ってろや。」
大柄の男が小柄の出っ歯男の頭を叩いたかと思えば、その手で私の口元を掴んできた。
ダンッ!と荒々しく日向の壁の方へ押し付けられた私は咄嗟に男の手を放そうと解こうとしたが先ほどから力が入らずただ大男の片手に爪を立てるだけであった。
苦しい。魔法で突き放そうにも、上手く魔力がまとまらない。口が開かぬから歌魔法もままならぬ。
「んぅ…っ」
助けを求めようも声すら出せぬ。息もしづらく、視界が再びぼやけてきた。
「顔も良けりゃカラダの方も…へへっ、ゼンブが上物じゃねーか!おい!まだかよ!」
「兄貴?!もう縛っちゃうんですかい?」
「俺らが遊んだとバレたら値が下がっちまうだろぉがよぉアホンダラ!なるべく傷はつけんじゃねぇぞ!」
「へ、へい!で、でもちょっと遊んでもお釣りが来るくらいこいつぁ売れるんじゃ…」
「ブッコロされてぇか?!」
「ひ、ひぃい!すいやせん兄貴!すいやせん!」
「おめぇらロクデナシを養ってやっているのはダレだ?!おぉ?!おめぇらの数だったらこいつ1人売ったってスグに無くなるだろうがよぉおお?!」
「ゲッヒヒ、ガッパがまたデオ兄貴怒らしてやんの。これだから馬鹿は見てらんねぇなぁ?!」
「ア、アホ兄貴!…す、すいやせん!勘弁してくだせぇ!」
「誰がアホだ!アフォールだよ馬鹿野郎!」
「ひ、ひぃいい…!」
内輪もめも見苦しい。だが、私は彼らの隙をついて逃げることはできなかった。大柄の男は私が少しでも動こうなら力を強めてきたからだ。
「へっ、このアマ逃げる気満々だなぁ?残念だったな。おめぇはこれから金持ちのどっかへ売り飛ばされるんだ。逃げようもんならおめぇの足をへし折ってもいいんだぜ?」
「おじょーちゃん、観念したほうがいいぜ?デオ兄貴、マジでやっちゃう奴だからよ」
売る…つもりなのか…だが彼らは、私のこと…
「だけどよ兄貴、こんなに真っ白な髪って、こいつほんとに人間か?ババアの色でもこんなんねーぞ?」
「いいんだよ、人間じゃねーとしてもヒトの形さえしてりゃお偉方が買ってくれるんだからよ。」
愚かで…下劣な…人間…
私の体はそろそろ限界だった。力強く大男に口元塞がれ、鼻からもほとんど息ができなかったからだ。私は必死の抵抗もむなしく、段々と体中の力が抜けていくのを感じた。
ぼんやりと自分の体が地面に寝かせられ、足首や手首を縄で縛られているのを感じていると、急に私を縛っていたものが走り去っていった。走り去っていった彼らをぼーっと見ていると、どうやら大男も、その周辺にいた者たち全員全て行ってしまったようだった。
何が起きたのか?
何も分からない。
もう、ほとんど見えない。
音も大分遠のいていた。
反対方向から何かが近づき、次の瞬間体がふわりと宙に浮き、仰向きに抱かれているのを感じた。
何だか懐かしい気持ちになったのは、何故だ…?




