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38.市井での再会Ⅱ

ポテト回です。


 屋根付きの台は「屋台」と言うらしく、小規模の店だそうだ。店と言うのも初めて見るが、海で貢物や物売りに来ていた者たちが、建物や拠点を構えて客の方から尋ねる形式のものらしい。今までそういった形式で取引などしたことがなかったから見るもの全てが新鮮だ。この屋台の台の上のもの全てが売り物らしい。ある店は赤くつやつやした丸い実が大量に乗せていたり、ある店は台自体が調理台になって様々な食事を提供している。往来の人間たちはそれを買っては道端で食べながら歩いていて、その光景はとても賑やかで、海の中では(少なくともノッケンメーアの宮殿では)見られない明るいものだった。


 「あそこですわ!平民の生徒さんたちがこぞって買いに行っているというドリルポテトにチキンウィッグですわ!あぁ、とても良い匂い……っは!い、いえ、庶民じみた匂いで安っぽいですわ!」


 この中で一番外出を厳しく監督しなくてはならないであろう、しかし一番楽しんでいる彼女パトリシアは一層大きな声を張り上げた。普段学園では平民の仕草や嗜好など品がないからと頑なに平民たちの輪には入ろうとしなかった彼女は、しかし実際は平民の食が大好きなのではないだろうか?

 

 「パトリシア様、もう楽しみたいのバレバレなので無理に繕わなくても良いですわよー。」

 「あ、あらそう?なら、皆さまもはっちゃけちゃいなさいな!何だか私だけが盛り上がっているようで…その…」

 (((寂しいのと恥ずかしいんだなぁ)))

 聞こえる、聞こえるぞ皆の声が。妹たちは私の顔を見て何を言っているのかが分かると言っていたが、私にも皆の心内が読めた気がする! 


 「お姉様!確かに海では嗅いだことのない匂いばかりですわ!でも、さっきパトリシアさんの言っていたどり…ぽて?とかちきっぐ?の方からとってもそそられる脂の匂いがしますわぁあ!行ってみましょう!」


 ララに引っ張られ向かう先には2種類の串刺しにされている食べ物が売られている屋台だった。なるほど、近づけば近づくほど脂の匂いがする。ララは脂のたっぷり乗った魚や海獣を食べるのが好きだったな。学園では脂の乗ったものを大して食べれていなかったからなぁ。


 「ララ様!私もここのお店のものは初めてなのですけど、学園の平民の皆さんも美味しいと言っていますし、何より買っているパトリシア様のあの目は絶対に美味しいということを物語っていますわ!さ、まずはポテトの方をどうぞ!エリュシオネー様もほら、遠慮なさらずに!」


 ソフィアが螺旋状のぐるぐるとしたポテトを寄越してきた。ふむ、ポテトはふかしたものと焼いたもの、あとは潰したものが出てきたことはあったが、このような調理法は初めてだ。横にいるララは目を輝かせてかぶりついた瞬間、恍惚とした表情で惚けているので美味いには違いないのだろう。


 あむっ、サクッ、ほくっ


 塩味が…ここまで美味いと思ったことはあっただろうか?海では常に塩分を含んだ水の中だから何を食べても塩水が一緒に入り、必然と塩味になるからそこまで感動は無いと思っていた…甘かった。ここ陸では…多様な味があり、人間がその味を追求することを惜しまない種族であることは分かっていたが、平民が売っている、こんな簡単な料理にも感動させる力があるとは…!それに、こんなに口の中が熱くなることは今まであっただろうか?バランロブスターの串刺しを深海の熱水口で熱したものよりはるかに熱い。やけどしないか心配なくらいだが、その熱さがまた良い。


 「…エリュシオネー様、どうしたのかしら?ララ様は先ほどから髪よりもキラキラした瞳で飛び跳ねているからお気に召したことは分かるのですが…」

 「あ、パトリシアさん、お姉様は感動に打ち震えていますわよ!ほら、いつもより数段瞳の輝きが違いますわ!」

 「まぁ!ならよかったわ!…確かに、黙々と食べ続けていますわ…こんなエリュシオネー様は貴重かもしれませんわね。」


 もぐもぐもぐもぐ…美味い。

 美味いものは好きだ。海ではウニやカキを好んで食べていたし、魚を捌いて身の部分だけに綺麗に処理されたものを一気食いするのが楽しみだった。だが、海ではまず無かったであろう美味が陸にはあった。陸に追いやられて、人質扱いされても大人しくできる理由の一つになりつつある。…もぐもぐもぐもぐ…ドリルポテト…覚えたぞ…。


 「…姫様」


 何だ、アメリア。


 「ドリルポテトを学園でも食べれるよう研究しておきます…(もんぐもんぐ)。」


 頼んだ。…研究は食べるばかりのことではないよな?その両手に持っている量全て食べきれるのか?


 「(ゴックン)…秒です。」


 そうか、秒か。…なら良い。


 「このぽてぽて、とぉ~っても気に入ったわ!今まで食べてきた陸の食べ物の中でも一番好きですわ!海でも食べたいのだけど、どうやって調理しているのです?」

 「えーと…これは揚げ物の一つなので、油で揚げているのだと思いますが…詳しいことは…」


 ソフィアがララの質問に困っていた。が、その時気前の良さそうな恰幅の良いこの屋台の主人が代わりに応えてくれた。


 「ははは!なんだちびっこちゃん、今までフライドポテトを食べたことがないのかい?これはそれと同じで、豚の油で芋を揚げて、塩やスパイスをまぶしている簡単なもんだよ。でも、これが確かにうまいからよく売れるのさ。」

 「揚げる?揚げるってなぁに?どんな調理なの?」

 「なぁんだ知らないのかい?ほれ、このステップに乗って見てみな!」


 ポテトに興味津々なララを気に入ったのだろうか、ララを小さな台に乗せて隣で追加の調理を行った。


 「まず、これがポテトそのものだ。茶色くって丸いだろ?これが、皮を剥いたら白くなる、それを串にぶっ刺して…回転しながら切りゃあ…ほれ、お前さんの持っているもんと同じ奴になったろ?」


 うわぁ…とララだけでなく皆も感嘆しながら眺めていた。一人アメリアに至っては、「なるほど…新しい斬り方ができそうですね…」とブレていないが。


 「そうして、粉をチャチャッと付けて熱した油の中にドボンだ。…今は沈んでいるが、頃合いになってくると…ほら、きつね色になって浮かんできただろ?」


 そうして浮かんできたものは既に白くなく、先ほど食べたあのドリルポテト、まさにそれだった。ララは破顔になり、口からは今にも涎が垂れそうだ。


 「これで、塩をまぶしてっと、まぁこんなもんさ。おチビちゃんは今日一番のリアクションをしてくれたから、もう一方のチキンウィッグをおまけしてやろう!さっきのような塩味と、甘辛のタレにつけたやつがあるんだがどっちがいいかい?」


 え、良いの?!と言わんばかりにぐるんとポテト主人の方を向き、嬉しそうに笑ったララは、誰が見ても可愛いな。

 

 「とっても嬉しいですわ!おじさま、とっても優しいのね!あのね、あまからっていうの知らないの。でも、おじさまが作るなら何でも美味しいと思うからそれをいただきたいのですわ!」

 「はっは、参ったな、そんなに言われちゃあ…ほれ、一番大きいのだ!」


 にまっと笑ってポテト主人がララに差し出したのは袋に覆われた鶏の肉だった。勿論鶏の肉も好きだ。魚より美味な肉はそうそうないと思っていたが、あれの身も捨てがたい。あぁ、思い出したらララに渡されたおまけの分まで食べたくなってしまったではないか。


 「わぁ!ありがとうおじさま!」

 「いいってことよ!あんたらみたいなお金持ちの嬢ちゃんでここまで純粋に喜んでくれる子は少なくて、俺、なんか嬉しくなったんだよ。学園の子たちかい?なら、あそこからここまでは近いからまた時間があればいつでも来な!」

 「良かったわね、ララ様!主人、実はね、こちらの美しいお二方は人魚の高貴な方なのよ。お二方が気に入ったようよ。次回も遠慮なく行かせていただくわ!」

 

 ソフィアがそう私たちを自慢気に紹介してきた。ララは照れていたが、私は人間にむやみに私たちが人魚だと知られて不安で仕方なかった。だが、その不安を打ち砕くようなテッカリとした笑顔が主人の顔に浮かんだ。


 「なんだって?!あんた達が人魚のお姫さんたちかい?!おーい!皆来てくれーー!こんのべっぴんなお嬢さんたちが人魚のお姫さんだってよぉー!」


 そう声をかけるや否や、先ほど通ってきた屋台の主人たち、往来の人々、みんなが顔をこちらに向け、ズンズンと迫ってきた。何を言われるのか、されるのか分からなくて私は皆には分からないよういつでもララを守れるように構えた。


 「あんたさん方が人魚だって?!」

 「どおりで美人過ぎると思った~。人じゃないくらい!あ、人じゃないかっ」

 「ずっと見てたけど、髪がすごい綺麗なのねぇ!宝石みたいにキラキラしてる!」

 「あ!そうそう!お城の前で少し見たけど、確かにこんなお姿だったわ!服が違うだけで気づかないなんて!」

 「そりゃあんたがおっちょこちょいなだけだろ」

 「海から遠いこんなとこまで連れてこられて可哀そうに…」

 「ここじゃあほとんどあんた達のこと、なんだかんだ気になっている奴が多いぜ。なんかあったらこっち逃げて来いよ!」

 「馬鹿!城下の騎士様にとっつかまりたいのかい?!」

 「いて!」


 ワラワラと小魚のように群れてきた…。だが、我らを心配してくれているようだ…なぜだ?人間は、人魚の民たちより私に近く優しい。でもそれは、私が「災厄」だと気づいていないからだ…。それでも、今のこの状態は、私には数百年欲しいと願っていた、民たちに望んでいた光景その者だった。それを人間にされるとは…でも…


 「あ!シオンお姉様、照れてらっしゃるの?とっても可愛いですわぁああ!」

 「おや、ほんとだ!」

 「べっぴんさんが笑うだけでこんなに眩しいなんてな!皆を呼んだかいがあるってもんだ」

 「お嬢ちゃまはお嬢ちゃまで、それはそれは幸せそうにあのおっちゃんのチキンを頬張ってるねぇ」

 

 揉みくちゃにされても、何故か悪い気はしなかった。


 「あ~ララ様の食べっぷりを見てたら私も食べたくなっちゃったわ~。おじさま、チキンウィッグ甘辛で1つお願い!」

 「私も!」

 「わ、私も一ついただくわ!」

 「姫様、我らに選択の余地はありません。ララ様のお顔を見ればドリルポテトに匹敵する美味であることは確実です。」

 うむ、そのようだ。ここは行くしかあるまい。

 「は。ポテト主人、私と、エリュシオネー様にもお願いしたい。」

 「ポテト主人?はは、面白いあだ名だなぁ。あいよ!」

 「お腹がすいたら、ぜひあたい達の店も来ておくれ!うんとサービスしておくからさ!」

 「はい!美味しいもの、大好きですわぁ!」


 ポテト主人…使おうかな…とブツブツ言いながらも笑顔は絶やさず、ポテト主人は人数分チキンウィッグを渡してくれた。お金を払った後はポテト主人に別れを告げ、皆に見送られながらマーケットプレイスの中心にあるという休憩場に向かって歩くことにした。そこなら骨付きのチキンウィッグを安全に、ゆっくり食べられるからだ。


 ララは既に1個目を食べ終え、ちゃっかりもう一個チキンウィッグを握っていた。

 

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